【2位】ザ・ビーチ・ボーイズの1曲―ウー・バッパ、グッドな波動を集めてるんだ
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【2位】ザ・ビーチ・ボーイズの1曲―ウー・バッパ、グッドな波動を集めてるんだ

「グッド・ヴァイブレーションズ」ザ・ビーチ・ボーイズ(1966年10月/Capitol/米)

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Genre: Psychedelic Rock, Art pop, Avant-Pop
Good Vibrations - The Beach Boys (Oct. 66) Capitol, US
(Brian Wilson • Mike Love) Produced by Brian Wilson
(RS 6 / NME 10) 495 + 491 = 986

ふたたびビーチ・ボーイズだ。しかも4位の「ゴッド・オンリー・ノウズ」と同じ66年の発表。しかし伸び悩んだあちらとは違い、こっちは大ヒットした。ビルボードHOT100では、彼ら3曲目の1位を記録。全英では初の1位。さらには、この66年のあいだに、彼ら初のミリオン・セラー・シングルとしてアメリカで認定されるほど、売れた。

つまりバンド史上に残る一大成功作となった――わけなのだが、たかがこの程度の時間差で、一体なにが起きたのか? 「ゴッド・オンリー・ノウズ」が、アルバム『ペット・サウンズ』収録曲として発表されたのが同年5月(シングル発売は7月)、当曲のシングル発表が10月だ。さすがにこの短期間で、世の中さほど変わらない。変わったのは、猛速度で「大進化」したのは、ブライアン・ウィルソンの「達成力」のほうだった。

3分半だから、ポップ・ソングとしては標準的なサイズだ。だが当曲は「ポケット・シンフォニー」と呼ばれる構造を有していた。全6部相当、転調も多く、パートごとにムードも変化。そのなかに「だれも体験したことがない」ほどの創意工夫が詰め込まれていた。たとえばSFドラマなどでお馴染みの「宇宙の音」が、楽器としてメロディを奏でていた。いわゆる「テルミン」の音を出せる電子楽器、エレクトロ・テルミンを、開発者のポール・タナーごと動員して「この音」を鳴らした。ザ・レッキング・クルーも集結。そしてこれらの「作り込み」が、前衛のための前衛といった罠には陥らず、最終的に「メランコリックなサンシャイン・ポップ」へと着地していた点が、当曲の大きな特徴だ。

なによりも当曲では「ビーチ・ボーイズのメンバー」が生き生きと活躍していた。たとえば、これほど込み入った構成の曲でありながらも、当曲には「イントロがない」。つまり「歌始まり」だった。しっとりと濡れた、もの哀しげなヴァース1から、いきなりの開幕だ。ヴァース部分のリード・ヴォーカルはカール・ウィルソン。そして三連リズムのチェロがリズムを刻む(これもカールの演奏)コーラス部で、マイク・ラヴがリードをとる。彼が仕上げた歌詞が勝負を決めた。ラヴがマーケッター的に「フラワー・チルドレンたち」を観察して書き上げた内容が、サイケデリック時代にぴったりの、しかし「とてもビーチ・ボーイズらしい」ラヴ・ソングとなっていた。ゆえに当曲は、爆発的に売れた。

最初に当曲の「断片」が生まれたのは、『ペット・サウンズ』制作時の66年2月だった。そこから断続的に、ロサンゼルスはハリウッド地区のスタジオを、なんと計4箇所も使用しながら、レコーディングは進められていった。『ペット・サウンズ』が4月に完成したあとも作業は続き、こちらが終了したのは(なんと)同年の9月。通常のアルバム制作をはるかに超える費用が「たった1曲」のために費やされた。なぜならばブライアンは、様々な未完成の要素、断片的なアイデアをスタジオに持ち込み、それをモザイク状に組み上げていくという方法で「作曲」を試みたから――とてつもなく、時間(とコストが)かかった。録音されたテープは(なんと)のべ90時間。それがブライアンの「編集」によって3分半に集約された。「スタジオそのものを楽器と見立てた」彼は、まるでディズニー映画『ファンタジア』(40年)のミッキー・マウスよろしく魔法の指揮棒を振るい、すべてのエレメントを「大いなる意識の流れ」へと一糸乱れず奉仕させることに成功した。

このような過程で「レコーディングと作曲とアレンジ」を同時におこなう考えかたは、当時まだほとんど地上になかった。つまり21世紀の今日の「当たり前」を、このときのブライアンは実践し始めていたのだ。だからもちろん、70年代も、80年代も、90年代も……当曲は幾度も幾度も後進たちに参照されては、その都度指針となった。

というナンバーが、じつは、一部では評判が悪かった。たとえばポール・マッカートニーは「『ペット・サウンズ』は何度も聴いては泣いたけれども」当曲からはそんなエモーショナルなものは感じなかった、と述べた。フィル・スペクターに至っては「編集しすぎでよくない」と非難した。テープ・エディットが多すぎてうんぬん、という、まあイチャモンだったのだが――不世出の天才2人のこの反応が、ブライアンの「達成」がいかに前人未到のものだったか、ということを能弁に物語っていると僕は考える。

ブライアンが「新しい方法」を模索しつつ、深い密林へと踏み込んでいった冒険行が『ペット・サウンズ』を生み出したのだとしたら、当曲での彼は、もはや冒険者ではなかった。「波動マスター」とでも言おうか。すでに体得した「超能力」にて高く飛翔して、空中から緑の絨毯を見下ろしているかのようだった。もちろん、仲間たちとともに。

こちらもどうぞ。

(次回はいよいよ1位の発表! 土曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki
















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