見出し画像

「送料無料」でホントにいいの?

【連載】農家はもっと減っていい:大淘汰時代の小さくて強い農業⑥

㈱久松農園代表 久松達央

久松 達央(Tatsuo HISAMATSU)
株式会社久松農園代表。1970年茨城県生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後,帝人株式会社を経て,1998年に茨城県土浦市で脱サラ就農。年間100種類以上の野菜を有機栽培し,個人消費者や飲食店に直接販売している。補助金や大組織に頼らずに自立できる「小さくて強い農業」を模索している。他農場の経営サポートや自治体と連携した人材育成も行う。著書に『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)、『小さくて強い農業をつくる』(晶文社)。

農水省は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、インバウンドの減少や輸出の停滞などで売上が減少した農産物の販売促進支援「#元気いただきますプロジェクト」を行っています。その中で、インターネットでの直接販売の送料を支援するという枠組みがあり、ウイルス発見から2年が経った今も、様々なECサイトが参加しています。農水産物を産地から小ロットで顧客に直送するというコスト高な方法を助成することに意味はあるでしょうか?

大きなトレンドには目を塞ぎ、「緊急対策」で目先の不満をガス抜きするのは農政の変わらぬ十八番です。コロナ禍の下でも「販売促進緊急対策事業」と称して、一部の農産品、水産品のEC販売の送料を無料にするというキャンペーンが行われています。

「農家や漁師を助けて下さい!」というフレーズは、とにかく一部の都市住民の心をくすぐるようで、様々なECサイトがこの枠組みを利用しています。

しかし、本来は物流や業務を集約することの効率性を求めて大きな流通システムが発展してきたわけです。2000円の商品に1000円の送料をかけて産地から顧客に直送などというのは、そのセオリーに反する非合理なやり方です。

その非効率を一時的に税金で賄っても、キャンペーン終了後も高い送料を顧客が払い続けたいと思うような付加価値のあるビジネスが育つケースは稀です。東日本大震災の際も、産直で応援キャンペーンのようなものがたくさん生まれましたが、産地の直販体制への転換が定着した例はほとんどありません。

何より私自身が、個人宅配という非効率な販売方法を20年以上続けている立場なので、その難しさと矛盾を身に沁みて知っています。このような手法が、ビジネスとして大きなスケールになることはありえないし、なるべきでもありません。

緊急対策といえども、大きな潮流に沿った次の形につながるような施策でなければ、ただの無駄金です。「農家や漁師が困っている」が本当ならば、送料無料キャンペーンは、市場から退出して他の事業に移行すべき農家や漁師の「辞め時」を奪っているのかもしれないのです。(続く)

※本連載は今夏に刊行予定の新書からの抜粋記事です。

久松さんと弘兼さんの対談が掲載されています。


光文社新書ではTwitterで毎日情報を発信しています。ぜひフォローしてみてください!