ヤクルトとのクライマックスシリーズはあっけない終戦。シーズンを通して変わらなかった巨人の敗因を振り返る
熱烈な巨人ファンで、多くの野球マニアや選手たちからフォローされるゴジキさん(@godziki_55)が巨人軍を分析。
クライマックスシリーズのファーストステージで2位阪神を破った巨人でしたが、ファーストステージではヤクルトに2敗1分けであっさり敗退。見せ場を作ることなくシーズンを終えました。シリーズ敗退の要因はシーズン中から解消できていなかった「課題」にあると考えられますが、はたして来シーズンまでに解消できるのでしょうか?
本連載がもとになっている書籍『巨人軍解体新書』はこちらからお求めください↓↓↓
第1戦:先発の山口俊が大誤算。想定される最悪のスタートを切る
ファイナルステージに進んだ巨人だが、1戦目から山口俊が大誤算のスタートを切った。初回からボールの走りが悪いため、変化球も空振りが取れず、苦し紛れのピッチングに。先頭打者の塩見泰隆にいきなり二塁打を打たれて、出鼻を挫かれたのも痛かった。
続く青木宣親は抑えたものの結果的には進塁打となり、見えないところでヤクルトはさらに優位に立つ。山田哲人を歩かせた後、村上宗隆がショートフライを打った際に塩見が好走塁を見せて、あっさり先制された。
この塩見の走塁で先制パンチを食らった巨人。山口はさらに、ドミンゴ・サンタナに2ランホームランを打たれてしまった。巨人としては、2位の阪神を破った勢いそのままに戦いたかっただろう。しかし初戦の1回裏からその勢いを止められ、むしろヤクルトは理想的な形で勢いづけさせてしまった。想像しうる限り最悪の展開でシリーズが始まったと言ってよい。
打線もヤクルト先発の奥川恭伸を前に沈黙し、98球で6安打9奪三振の完封負け。序盤の小技大技が混じった攻撃から未来のエース候補の完封劇まで、ヤクルトが完璧な試合運びを見せて初戦を取った。
巨人は近年(特に2019年)、劣勢の展開を迎えても一発や長打によって同点に持ち込んだり逆転をしていたが、今季打撃二冠王に輝いた岡本和真がファーストステージに続いて不在となった打線は完全に抑え込まれた。また、阪神戦で全く機能していなかった若林晃弘を、このヤクルト戦でも2番サードで出場させていた点は不可解だった。
第2戦:エース菅野智之は力尽き、打線は2安打と意気消沈
第2戦は、阪神とのシリーズで見事なピッチングを見せた菅野智之が先発をした。だが、本調子から程遠い様子であることが顕著に現れていた。そしてこの試合も1戦目と同様に、ヤクルトの塩見がチームを勢いづかせる活躍を見せた。
さらに、先発の高橋奎二も初戦の奥川と同様に、巨人打線を徹底的に抑えるピッチング。高橋に関しては6回102球と、奥川と比較すれば球数こそ多かったが、巨人打線はそのストレートに手も足も出ない結果になった。結局、昨年の日本シリーズでスイープされた際にも述べた「質の高い速球への対応」ができない点は改善されなかったのである。
この試合は打線がさらに落ち込み、廣岡大志と坂本勇人の2安打のみに。1、2戦で18イニング無得点と、リーグトップの本塁打数を誇る打線は影を潜めた。今季の巨人はシーズン中も「打線の繋がり」で得点するスタイルのチームではなく、要所でコア(坂本・岡本・丸)や当たっている選手が活躍して勝ちを拾ってきたのが実態だ。その中で、阪神とのシリーズを勝ち抜く立役者となった丸佳浩とゼラス・ウィーラーが、秋の夜のように完璧に冷え切ってしまったことは大きな敗因となった。
第3戦:短期決戦に強いCCメルセデスが意地を見せるも…
後がなくなって迎えた第3戦は、CCメルセデスが先発。これまでのキャリアでもポストシーズンでの勝負強さが光る選手だったが、その力を発揮した。東京五輪でもそうだったが、大舞台でも物怖じしない堂々としたピッチングを見せられる点はこの選手の魅力である。シーズン中と同様、球数が100球を超えて馬力が落ちるまでであれば、相手打者を寄せつけず、ランナーすら出さない投球ができていた。長いイニングを投げるスタミナには不安があるものの、スロースターターではないので、5回までのゲームメイク能力は巨人の先発陣の中でずば抜けている。しかも短期決戦ではシーズンよりも比較的早い段階から救援陣を注ぎ込めるため、非常に相性が良い。
メルセデスの2019年ポストシーズン成績
阪神戦 7回 6奪三振 被安打3 防御率0.00
ソフトバンク戦 6回 3奪三振 被安打1 防御率0.00
今シーズン終盤は、ランナーを置いた場面でのクイックの弊害もあったとはいえ、東京五輪に参加をしてからの過密日程も大きく影響し調子を落としていた。そうした不安もあったが、この第3戦では意地を見せて、6回を1安打に抑える好投だった。
しかし、1-0でリードした7回裏に2番手のルビー・デラロサが青木へ逆転タイムリーを許してしまった。今の巨人には、それに対して追いつく力しか残っておらず、2-2の引き分けでシリーズ敗退を喫した。
敗因1:昨年から解消されなかった打線の火力不足
巨人の敗因としては、得点力不足の一言に尽きる。打線が全く繋がらなかったことに加え、主砲の岡本不在による長打力不足が顕著に現れていた。
阪神とのシリーズでは丸やウィーラーが好調だったため打線が繋がったが、それでも長打らしい長打はほとんどなかった。得点を挙げるために必要なリソースが単純に不足していた。
これまでの傾向を見ても、短期決戦で求められるのは「長打力」である。好投手とマッチアップする接戦では連打が難しいため、長打力がある選手の一発で得点し、安打数は少ないながらも勝利するような試合が多々生まれる。短期決戦は双方が良い投手から順番につぎ込むためえてしてロースコアゲームとなりやすく、このような勝ち方が必要となることは、以前にも書かせていただいた。だからこそ、短期決戦慣れをしていて、長打力の見込みがある中田翔をベンチに置いていたことはもったいなかった。
昨シーズンから坂本・丸・岡本以外からの長打を見込めない打線となっており、それが解消されないままシーズンが終わったことは、非常に問題である。たとえば2019年は、坂本・丸・岡本の主軸の他に、阿部慎之助やアレックス・ゲレーロを5番以降に置くことができ、それによって要所での長打や一発が期待できるだけでなく、下位打線ながらも相手へのプレッシャーも与えられていた。
だが、昨年からの5番以降は、元パリーグの選手でもあるウィーラーや中島裕之こそ置けたが、彼らも結局は中距離打者であり、阿部やゲレーロと比較すると火力不足は否めなかった。晩年の阿部は、コンディションさえ充分なら日本シリーズでも千賀に対してホームランを放ち、森唯斗からもヒットを放つなど、キャリアの最後とは思えない程の打力を見せていた。シーズン中の打率等には表れない「馬力」を持った選手がいかに重要かわかるだろう。
もちろんフロントも何もしていなかったわけではない。ジャスティン・スモークを獲得して長打不足の問題も一時期は解消されつつあった。だが新型コロナウイルスの関係で家族へ配慮をして帰国し、最終的には退団。難しい事情があったことは否めないが、結果として後半戦に岡本の調子が下降して以降はその穴をカバーしきれずに、ポストシーズンでは岡本自体が不在のまま敗退した。2年連続で同じ課題が明確になったままなので、オフの動きにも注目していきたい。
敗因2:ヤクルトの塩見を勢いづかせてしまった
敗因をもう一点挙げるとすれば、事前に要注意選手と述べていた塩見を勢いづかせてしまったことだ。トップバッターの塩見の走塁がきっかけで先制した初戦の初回から、シリーズそのものが一気にヤクルトペースになった。塩見は2戦目も打撃でチームを引っ張り、高橋の好投をアシストした。巨人はシーズンの実力だけでなく、シリーズの勢いでも上回れてしまい、手も足も出ない状況に追い込まれた。
全体的に力負けをした結果になったが、数少ない希望の持てる材料もあった。古巣相手に孤軍奮闘を見せた廣岡だ。好不調の波が激しく荒削りではあるが、複数のポジションをこなせるユーティリティでありながら長打力を備えた打者のため、起用法がハマればさらに伸びる可能性がある。今シーズン飛躍を遂げた松原聖弥のように、継続的に起用してキャリを軌道に乗せることもできるのではないか。来シーズンはこのような若手や中堅のステップアップにも期待したい。