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【70位】ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの1曲―ライ麦畑の外側で、地獄の街角で、「僕」が待ち人する

「アイム・ウェイティング・フォー・ザ・マン」ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド(1967年3月/Verve/米)

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※こちらは収録アルバムのジャケットです

Genre: Garage Rock, Proto-Punk
I'm Waiting for the Man - The Velvet Underground (Oct. 71) Verve, US
(Lou Reed) Produced by Andy Warhol
(RS 161 / NME 201) 340 + 300 = 640 
※71位、70位が同スコア

71位の「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」と同点で並んだのが、同じく60年代終盤のロック・シーンに、永遠に消えぬ「聖痕」を残したこの1曲だ。(謎なMGM盤もあったが)公式にはノン・シングル曲で、初出は67年。彼らのデビュー作『ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ』(『教養としてのロック名盤ベスト100』にももちろん収録。順位はここでは秘密)の、オープニングから2曲目に収録されていた。

つまり、リリカルで美しい「サンデイ・モーニング」のすぐあとに鳴り始める、打楽器のようなブギ・ウギ・ピアノのロックンロールが、この曲だ。ピアノはジョン・ケイル。そしてソングライターにしてギターを弾き、歌うのがルー・リードだ。抑揚の少ないあの声で語られるストーリーは、はっきりと背徳的だ。こんな内容だ。

舞台はニューヨークのハーレム地区。主人公の若い男は、ヘロインを買うためそこに赴く。彼は常用者だから、いつもの売人の男(My man)を待つ。ちょうどレキシントン街と125丁目が交差する街角だ。曲の終盤、ようやく彼はクスリにありつく――という、ごく普通の世間的モラルから鑑みれば「地獄めぐり」と言うほかない情景が描かれる。

しかしそれが、痛々しくも、重苦しくもならないところ――それがこの曲の最大特徴だ。楽曲のトーンとリードの軽やかな口調ゆえ、こんなストーリーが、まるで少年の爽やかな冒険譚のようにすら聞こえてくる。つまり倒錯と言えば、倒錯が最初にある。

たとえば、こんなパートが白眉だ。路傍にひとり立つ主人公は、ハーレムの人々から「よう、白い坊や」なんて声をかけられる。アップタウンで、なにしてんのさ? 俺ら黒人の女でも追っかけてんのかよ? 「僕」は言う。大事な大事な友だちを探してるんだ――そんなふうに主人公の周囲で起きるあれやこれやが、簡潔明瞭にスケッチされていく。まるでホールデン・コールフィールドの彷徨を三人称で描いているかのように。

要するに「善悪の彼岸」の場所に視座を置くことで、人間存在の核心に寄り添う――という意味での「文学の視点」が、この曲を躍動させているものの正体だ。これを(最初は一部の)ロック・ファンが支持した。この1曲がなければ、のちの世のアート・ロックやパンク、オルタナティヴの大多数は、文字通り影も形もなかった。デヴィッド・ボウイの「ヒーローズ」ですら、この曲を参考にしたことは有名だ。抽象表現に才を発揮したディランが吟遊詩人ならば、リードは掌篇小説か散文詩のように人と街の真実を活写した。

(次回は69位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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