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ゴジキが振り返る2021年夏の甲子園(前編)

熱烈な巨人ファンで、多くの野球マニアや選手たちからフォローされるゴジキさん(@godziki_55)。実は高校野球ウォッチャーというもうひとつの顔を持っています。
2年ぶりに開催された夏の甲子園は、智辯和歌山の優勝で幕を閉じました。決勝戦の分析はもちろん、県予選からどのように勝ち上がってきたか、その強さの源にあるものを探ります。

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「智辯対決」決勝のターニングポイントは4回裏の継投策

2年ぶりの開催となった夏の甲子園大会。決勝は智辯和歌山対智辯学園の「智辯対決」に。智辯学園は名門の横浜や試合巧者の明徳義塾、京都国際といった実力校との接戦をモノにしながら、決勝まで勝ち進んだ。智辯和歌山は初戦の2回戦が不戦勝となったが、その後は優勝候補の大阪桐蔭を下した近江を破るなど、こちらも実力校に勝利して決勝まで駒を進めた。

雨天中止が続いたこともあり大会終盤はタフな日程となったが、互いにエース格の投手を決勝戦に登板させる展開となった。智辯学園は、準決勝で温存させていたエース・西村王雅が先発。一方の智辯和歌山の先発は中西聖輝ではなく、伊藤大稀。智辯和歌山は初回から西村の立ち上がりを攻め立てて、いきなり4点を奪う。エースの中西を先発させない中、初回にこれだけのリードを得られたのは理想的だっただろう。

だが智辯学園も2回に伊藤を攻め立て、2点差に迫る。この後の継投策が、この試合のターニングポイントになった。先発の伊藤が4回にピンチを招くと、限界に近づいていると判断した智辯和歌山はすぐさまエースの中西へとスイッチ。マウンドに上がった中西は、ノーアウト1,2塁のピンチを送りバントの後、2者連続三振に切って取り抑えた。ここを無失点に抑えたことで、智弁学園の流れは断ち切られた。

智弁学園からすると、2点差に詰め寄ってなおもノーアウトのチャンスで無得点。序盤のこのタイミングで追いつけなかったことは致命的だった。

また、横浜高校戦と同様に今大会で最も当たっている前川右京を1番に起用した点も気になった。この試合では先頭打者という打順通り、チャンスメイクの役割が求められる状況で打席が回ってきたのがもったいなかった。前川は4打数3安打と決勝でも活躍したが、得点には結びつかなかった。

一方の智辯和歌山は、早めの継投策が的中。場面展開を考えても非常に良いタイミングだった。ここで追いつかれたら試合全体の流れが智辯学園に傾きそうな場面で、エースの中西へバトンタッチ。見事に無失点で切り抜けた。その後は再び流れをつかんだ智辯和歌山打線が西村そしてフル回転の活躍を見せていた小畠一心を攻略して9点を積み上げ、21年ぶり3度目の夏制覇を飾った。

甲子園歴代最多勝利の高嶋監督から引き継ぐ難しさを乗り越えて

智辯和歌山監督の中谷仁氏は、歴代最多となる甲子園通算68勝を記録していた名将・高嶋仁氏からチームを引き継いでから4年目で、悲願の頂点に立った。高嶋政権の晩年を含めたここ数年の智辯和歌山は、常に優勝候補として注目されていたが、その評判通りチーム力は非常に高く、2017年頃からはいつ甲子園で優勝してもおかしくない強さがあったように思う。世代を超えて戦力の充実したチームだった。

2018年はこの年限りで勇退する高嶋監督の集大成として、林晃汰を中心に、当時2年生だった東妻純平や黒川史陽、西川晋太郎、翌年にエースとなる池田陽佑など豪華なメンバーが揃っていた。センバツは準優勝で、その決勝の相手であった(そして、この年春夏連覇を達成することになる)大阪桐蔭以外には無敗という、完成度の高いチームだった。しかし、夏の甲子園では高嶋監督の最後の夏というプレッシャーや、チームのピーキングのズレなどもあり、初戦で呆気なく敗退した。

次の世代から中谷氏が率いることになり、2年生主体だった野手陣と池田・小林樹斗の2枚看板で勝ち進んだ。センバツは中森俊介や来田涼斗を擁した明石商に競り負けてベスト8。夏は投打の物量に秀でていることから優勝候補とも言われていたが、3回戦でこの大会No.1投手だった奥川恭伸を擁する星稜と延長14回の名勝負を繰り広げた末にサヨナラ負け。春夏ともに優勝を狙えるメンバーが揃っていたが、好チームを相手に競り負ける結果となった。ただ、就任間もない中谷氏には今後の勝ち筋もある程度見えてきていたのではないだろうか。

そして、コロナ禍の影響もあり2年ぶりの開催となった今年。プロ注目の投手・小園健太を擁する市和歌山が県予選で立ちはだかったものの、軍配は智辯和歌山にあがった。
秋季の和歌山大会と近畿大会では市和歌山が2連勝を飾りセンバツへ進み、春季大会は智辯和歌山がリベンジする実力伯仲の関係だったが、夏の予選決勝も好試合となった。中西と小園の投手戦が続いた中、中谷監督の「後半勝負。暑いし、小園君の球威や制球で必ずチャンスが来る」というコメント通り、6回に智辯和歌山が均衡を破る。小園の浮いた球を捉え、タイムリー3本を浴びせて見事に攻略。4対1で宿敵を倒して甲子園出場を決めた。

世代トップクラスの投手である小園を攻略したことからも、全国で勝ち上がれる実力は充分にあった。加えて中谷監督の戦略にも就任4年目とは思えない見事なモノがあり、投手起用も中西をうまく休ませる盤石ぶりを見せた。星野仙一氏や野村克也氏が認めていたこともうなずける。

高校野球の場合はプロ野球にもまして、指揮官の中心である監督が変わると低迷期に突入する確率も高い。だが智辯和歌山は監督が変わっても強さを維持してる点が凄まじい。今年の3年生の世代は高嶋氏が勇退後に入学してきているので、中谷氏の指導力に即効性があったことがわかる。さらに、高校野球では異例のプロ野球のような休養や自主トレ期間も取り入れており、時代に合った変革も特長だ。そのメリットを、甲子園優勝という最高の結果で示した。

ちなみに中谷氏は、プロ野球経験者向けの学生野球資格回復研修制度を通じて適性を認定された監督として初の甲子園優勝監督となった。イチローが非常勤コーチとして昨年冬に智辯和歌山を指導したことも話題になったが、元プロ野球選手の指導者が増えていき、名将として勝ち進む未来も近いのではないだろうか。

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