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海外コンサルの商材にまとめられた「カイゼン」|岩尾俊兵 vol.4

10月に光文社新書より発売された『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』(岩尾俊兵)。発売即3刷りと話題になっている本書は、「ティール組織」「オープン・イノベーション」など最先端と思われがちな経営理論が実は戦後日本では当たり前のように実践されていたことを示すとともに、なぜ今の日本ではそうした知見が受け継がれていないのか、過度な欧米信仰に偏ってしまった要因を明らかにする一冊です。
中身が気になる方のために、序章~第6章から選りすぐりの箇所をピックアップしてお届けします。今回は第4章から、日本の経営技術である「カイゼン」が海外のコンサルによって「商材」となった背景を解説します。

サービスに落とし込むのも海外企業

 カイゼンは日本企業の経営技術に根差したものであった。
 そこには、生産現場の知恵に加えて、新郷重夫氏などのコンサルタント、日本能率協会や日本生産性本部などの公益的な業界団体、そして大学等の研究者といったさまざまな領域の知見が集まった。その結果として、アンドンやポカヨケなどカイゼンを促進させる手法も開発された。

 本書は、そのカイゼンすらも、海外でコンセプト化されつつあると指摘した。
 それどころか、カイゼンは海外においてコンセプト化にもとづいたコンサルティング・サービスとしてパッケージ化されてきてさえいる。

 たとえば、もともとは今井正明によってスイスにおいて設立され、『KAIZEN』の出版とともに世界的な知名度を得た、Kaizen Institute(改善研究所)は、アメリカ事務所をカリフォルニア州に設立して以来、カイゼンを誰にでも取り組める手法としてパッケージ化していった。創立者こそ日本人ではあるが、Kaizen Instituteは、今ではスタッフから役員にいたるまでほとんどがアメリカ人で占められている。

 すなわち、顧客を知り(Know your Customer)、ムダをなくしてヒトやモノの流れを良くし(Let it Flow)、現場に足を運び(Go to Gemba)、従業員を組織し権限を与え(Empower People)、結果を見えやすくして透明性を保つ(Be Transparent)という五つの要素が「カイゼンの五つの柱(5 Fundamental KAIZEN Principles)」であると説明される。そして、これら五つの要素を組織に定着させるためのパッケージがあるという。

 Kaizen Instituteは、こうしたパッケージにもとづいて、世界中の企業に対するコーチングや研修などをおこなっている。さらに、ビジネスシステムのカイゼン、組織変革、プロジェクト・マネジメントのカイゼンなどのコンサルティングも実施している。

 たとえば次のようなサービスが提供されている。
 リーダーやチームメンバーへの実践的な技術指導、問題解決と目標達成、アイデアの迅速な実行、変化する需要に対応するフレキシビリティの獲得、クライアントのニーズに効果的なリーン生産方式とカイゼン手法の実施、リーンおよびカイゼン・プロジェクトの管理、カイゼンやバリューストリームデザインなどのワークショップ設計、ビジネス・エクセレンス・プログラムの導入と管理、リーダーと協力してカイゼン文化を維持するためのシステム構築、カイゼンへのモチベーション管理などなどだ。

 このKaizen Instituteは、現在、60カ国以上に、30以上の言語で、45分野以上を対象にコンサルティングをおこなっている。
 Kaizen Instituteのサービス提供先には、ロイヤル・ダッチ・シェル、BMW、ボッシュ、ソナエ(ポルトガル最大のコングロマリット)、コンチネンタル・オートモーティブ、クウェート石油、シーメンスなどの超大企業が並んでおり、アメリカの企業情報登録サイトであるズームインフォ(ZoomInfo)によれば2020年の最新の売上規模は約100億円となっている。

 Kaizen Institute以外にも、アメリカにはシックスシグマとリーン生産方式にもとづいたカイゼンをうたうContinuous Improvement Consultantsや、主に病院のカイゼンをおこなうKaizen RCM Consulting、さらにはソフトウェア化した製品やデータ分析を基にしてカイゼンについてのコンサルティングをおこなうThe Hackett Groupなどが存在している。

 最後に紹介したThe Hackett Groupは、カイゼン専業のコンサルティング・ファームというわけではないが、その売上は70億円近くであり、アメリカのナスダック市場に上場も果たしているほどだ。

 これに対して、日本においても、カイゼンを売りにするコンサルティング・ファームがないわけではない。しかし、こうした企業は、大抵は一人または数人のコンサルタントを抱えるのみで、売上も1億円に達しないことが多い。

 このように、カイゼンをパッケージ化してサービスとして世界に売り込んでいるのも、アメリカをはじめとした外資系企業なのである。

 本来ならばカイゼンは日本発の経営技術なのだから、日系のカイゼン・コンサルティング・ファームの中に、世界市場を独占するリーディングカンパニーが出てきてもおかしくはないはずである。しかし、言語の問題に加えて、コンセプト化の問題、抽象化と論理モデル化の問題によって、日本の産官学はこうしたチャンスをみすみす海外に奪われてしまっているのである。

 しかも、日本において、カイゼンに関する経営技術をコンセプト化したり論理モデル化したりするのは、企業からも、政府からも、学界からもあまり評価されないという指摘はすでにおこなった通りである。日本企業は海外でコンセプト化されたきらびやかな概念をもてはやす傾向がある。その結果として、たとえばカイゼンのような日本の強みは、日本社会自身の手で打ち捨てられつつある。

 その一方で、アメリカはカイゼンを着々と自分のものにしつつあることは、すでに述べた。しかも、実はカイゼンを狙うのはアメリカだけではない。インドやスウェーデンといった国が虎視眈々とカイゼンを狙っているのである。
 これについて、次節でくわしくみていく。

著者プロフィール

慶應義塾大学商学部准教授。平成元年佐賀県生まれ。東京大学大学院経済学研究科マネジメント専攻博士課程修了。東京大学史上初の博士(経営学)を授与され、2022年より現職。組織学会評議員、日本生産管理学会理事を歴任。第73回義塾賞、第36回組織学会高宮賞、第37回組織学会高宮賞、第22回日本生産管理学会賞、第4回表現者賞等受賞。主な著書に『13歳からの経営の教科書』(KADOKAWA)、『日本“式”経営の逆襲』(日本経済新聞出版)、『イノベーションを生む“改善”』(有斐閣)、『Ambidextrous Global Strategy in the Era of Digital Transformation』(分担執筆、Springer)ほか。

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