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ChatGPTはイノベーションと呼べるのか?――ChatGPTの基礎知識⑤by岡嶋裕史

彗星のごとく現れ、良くも悪くも話題を独占しているChatGPT。新たな産業革命という人もいれば、政府当局が規制に乗り出すという報道もあります。いったい何がすごくて、何が危険なのか? 我々の生活を一変させる可能性を秘めているのか? ITのわかりやすい解説に定評のある岡嶋裕史さん(中央大学国際情報学部教授、政策総合文化研究所所長)にかみ砕いていただきます。ちょっと乗り遅れちゃったな、という方も、本連載でキャッチアップできるはず。お楽しみに!

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ChatGPTはイノベーションと呼べるのか?――ChatGPTの基礎知識⑤by岡嶋裕史

イノベーションの定義

 では、GPT-4はイノベーションと呼べるのだろうか?

「イノベーション」の意味によるだろう。今どき、小学校の教室にお邪魔してもイノベーションの話をしている。大学生も大好きな単語だ。ビジネスパーソンとして疲れてくると、そろそろ嫌いになってくるかもしれない。

 いずれにしろ、小学生と大学生とビジネスパーソンが使う「イノベーション」の意味はだいぶ違う。

 せっかくなのでChatGPTに聞いてみよう。

Q 「イノベーション」の意味を教えてください。

A 「イノベーション」とは、新しいアイデアや技術、プロセス、製品、サービスなどを創造し、それを実用化することによって、社会や経済に革新的な変化や価値をもたらす行為です。イノベーションは、従来の方法や考え方を打破し、新たな解決策や取り組みを生み出すことで、生産性の向上やビジネスの成長、社会全体の福祉向上に寄与します。イノベーションは、企業だけでなく、個人や組織、さらには国家レベルでも重要な要素となっています。

Q その意見の出典は何ですか?

A 私の回答は、一般的なイノベーションに関する知識に基づいています。私はOpenAIのGPT-4モデルであり、幅広いトピックについての情報を学習しています。そのため、出典は特定の一つの文献ではなく、多くの情報源から得られた知識に基づいています。

イノベーションに関するさらに具体的な情報や理論については、経済学者のジョセフ・シュンペーターやクレイトン・クリステンセンの研究が参考になります。シュンペーターは「創造的破壊」の概念を提唱し、イノベーションが経済成長や産業構造の変化にどのように影響を与えるかを説明しました。クリステンセンは「破壊的イノベーション」の理論を提案し、新興企業や技術が従来の市場を変革し、業界のリーダーを打ち負かすメカニズムを解説しています。

 すかさずシュンペーターやクリステンセンが出てくるあたり、よく訓練されている。この2人の「イノベーション」の解釈自体が星の数ほど出ているが、これまでにない要素の組み合わせ、新たな価値の創造あたりは必ず含まれるキーワードだろう。スティーブ・ジョブズはその辺を極めてシンプルに、「イノベーションとはくっつけることだ」と表現していた。

「でかくする」はイノベーションか?

 GPT-4がこれまでにない要素を組み合わせているかと言えば、GPT-3やGPT-3.5から劇的な変更があったわけではない。一番の要点は規模を大きくしたことである。思いもよらない要素の組み合わせではない。その意味ではイノベーションではないかもしれない。

 では、GPT-4を作った技術者は楽にGPT-4を作ったのかといえば、おそろしいほどの苦労をして作ったはずだ。「でかくする」というのは技術においてそれほど難しい。砂場で山を作るのは未就学児でもできるが、彼らがピラミッドを作れるかといえば無理である。巨大なしくみの各部分で矛盾が生じないようにすること、それらを統制して利用者を飽きさせない時間内で回答を返すことはエベレストの無酸素登頂くらいには難しい。

 そして、信じられないほどでかくすることで、価値を生み出すことは確かにあるのだ。砂場の山を有り難がったり、永久保存する気になったりすることはないが、ピラミッドほどでかくなるとそれ自体に権威が発生することや、宗教的意義を見いだす者も現れる。

 GPT-4もまた、そのでかさゆえに作り出す回答の「人の役に立つ度合い」「自然さ」が閾値に達してきた印象がある。

 根本のしくみは変わっていない。でも、作家の名前しか覚えていなかったものが、その文体やテーマにまで言及できるようになり、感想が書けるようになると利用価値は格段に高まる。

 文末表現を1パターンしかしらなかったものが、敬語とスラング、方言を覚え、学年や読書量、生活の場によってそれらの配分を切り替えられるなら、字面を眺める限りにおいては非常に人間的になる。

 人間の言葉だけでなく、プログラミング言語も使えると、ある指示をプログラミング言語で書くこと、すなわちプログラミングも可能になる。プログラミングが苦手だった人にとってはものすごい福音だろう。

 クレーム対応の自動応答も、読書感想文を代わりに書いてもらうことも、ブレーンストーミングの相手にすることも現実味を帯びてきた。新たな価値を生み出した、と表現することもできるだろう。その意味ではGPT-4は十分にイノベーションであると言える。(続く)

岡嶋裕史(おかじまゆうし)
1972年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。富士総合研究所勤務、関東学院大学経済学部准教授・情報科学センター所長を経て、現在、中央大学国際情報学部教授、政策文化総合研究所所長。『ジオン軍の失敗』『ジオン軍の遺産』(以上、角川コミック・エース)、『ポスト・モバイル』(新潮新書)、『ハッカーの手口』(PHP新書)、『思考からの逃走』『実況! ビジネス力養成講義 プログラミング/システム』(以上、日本経済新聞出版)、『構造化するウェブ』『ブロックチェーン』『5G』(以上、講談社ブルーバックス)、『数式を使わないデータマイニング入門』『アップル、グーグル、マイクロソフト』『個人情報ダダ漏れです!』『プログラミング教育はいらない』『大学教授、発達障害の子を育てる』『メタバースとは何か』『Web3とは何か』(以上、光文社新書)など著書多数。


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