ChatGPTはイノベーションと呼べるのか?――ChatGPTの基礎知識⑤by岡嶋裕史
過去の連載はこちら
岡嶋さんの好評既刊
ChatGPTはここから始めることができます
ChatGPTはイノベーションと呼べるのか?――ChatGPTの基礎知識⑤by岡嶋裕史
イノベーションの定義
では、GPT-4はイノベーションと呼べるのだろうか?
「イノベーション」の意味によるだろう。今どき、小学校の教室にお邪魔してもイノベーションの話をしている。大学生も大好きな単語だ。ビジネスパーソンとして疲れてくると、そろそろ嫌いになってくるかもしれない。
いずれにしろ、小学生と大学生とビジネスパーソンが使う「イノベーション」の意味はだいぶ違う。
せっかくなのでChatGPTに聞いてみよう。
すかさずシュンペーターやクリステンセンが出てくるあたり、よく訓練されている。この2人の「イノベーション」の解釈自体が星の数ほど出ているが、これまでにない要素の組み合わせ、新たな価値の創造あたりは必ず含まれるキーワードだろう。スティーブ・ジョブズはその辺を極めてシンプルに、「イノベーションとはくっつけることだ」と表現していた。
「でかくする」はイノベーションか?
GPT-4がこれまでにない要素を組み合わせているかと言えば、GPT-3やGPT-3.5から劇的な変更があったわけではない。一番の要点は規模を大きくしたことである。思いもよらない要素の組み合わせではない。その意味ではイノベーションではないかもしれない。
では、GPT-4を作った技術者は楽にGPT-4を作ったのかといえば、おそろしいほどの苦労をして作ったはずだ。「でかくする」というのは技術においてそれほど難しい。砂場で山を作るのは未就学児でもできるが、彼らがピラミッドを作れるかといえば無理である。巨大なしくみの各部分で矛盾が生じないようにすること、それらを統制して利用者を飽きさせない時間内で回答を返すことはエベレストの無酸素登頂くらいには難しい。
そして、信じられないほどでかくすることで、価値を生み出すことは確かにあるのだ。砂場の山を有り難がったり、永久保存する気になったりすることはないが、ピラミッドほどでかくなるとそれ自体に権威が発生することや、宗教的意義を見いだす者も現れる。
GPT-4もまた、そのでかさゆえに作り出す回答の「人の役に立つ度合い」「自然さ」が閾値に達してきた印象がある。
根本のしくみは変わっていない。でも、作家の名前しか覚えていなかったものが、その文体やテーマにまで言及できるようになり、感想が書けるようになると利用価値は格段に高まる。
文末表現を1パターンしかしらなかったものが、敬語とスラング、方言を覚え、学年や読書量、生活の場によってそれらの配分を切り替えられるなら、字面を眺める限りにおいては非常に人間的になる。
人間の言葉だけでなく、プログラミング言語も使えると、ある指示をプログラミング言語で書くこと、すなわちプログラミングも可能になる。プログラミングが苦手だった人にとってはものすごい福音だろう。
クレーム対応の自動応答も、読書感想文を代わりに書いてもらうことも、ブレーンストーミングの相手にすることも現実味を帯びてきた。新たな価値を生み出した、と表現することもできるだろう。その意味ではGPT-4は十分にイノベーションであると言える。(続く)