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子育てしない上司の「わからなさ」にどう立ち向かう?|〈共働き・共育て世代〉の本音

男性育休や働き方改革等、社員のウェルビーイングが企業の重要課題となった現代。しかし、すべてのケアワークを妻に担わせ、ペイドワークに時間を無制限に注入してきた中高年男性が大方を占める経営層と、現場で働くミレニアル世代では、ワーク・ライフ・バランスの感覚に大きな隔たりがある。
光文社新書3月刊『〈共働き・共育て世代〉の本音 新しいキャリア観が社会を変える 』は、ミレニアル世代がいかに仕事と生活、子育てを両立し、そのための様々な障害にどう対処しているかについて、「デュアルキャリアカップル」(それぞれがキャリアを自律的に考えて形成し、仕事も家庭も充実させる夫婦)を対象に行ったインタビュー調査を分析・加筆してまとめている。子育て世代の当事者はもちろん、DEI推進担当者や企業のマネジメント層ににとっても有益な戦略を提案する。本書よりまえがきを先行公開!

まえがき:ミレニアル世代の共働きと共育て


朝の通勤時間帯、子どもを電動自転車にのせて、保育園に向かうお父さんたちを見かけることが多くなった。「イクメン」という言葉が流行語大賞のトップ10に選ばれたのは2010年のことである。それから10年以上が経ち、お父さんの育児はようやく〝当たり前〟になりつつあるのだろうか。

その間、女性活躍推進法が2015年に成立。結婚・出産後も就業継続する女性の割合が高まってきた一方で、新たな課題も浮き彫りになっている。女性たちは就業継続こそできても、仕事と家庭の板挟みでキャリアが停滞し、思うように活躍できない場合が多いのだ。

現在の子育て世代、特にミレニアル世代と呼ばれる1980~2000年前後生まれの人の多くは、その前の世代とは明らかに異なる子育て観・キャリア観を持っている。多くの女性が出産後もキャリアを継続したいと願っているし、多くの男性が積極的に子育てしたいと考えている。しかし、現実には、そうした願いを抱く女性たちが、思うようにキャリアを構築できていないし、男性の育児も思うように進んでいない。では、ミレニアル世代の女性たちの活躍を、そして男性たちの子育てを阻んでいるものは何だろう──。

そう考えた私たち21世紀職業財団は、働き方改革やダイバーシティ推進の研究の第一人者である佐藤博樹東京大学名誉教授を委員長に迎え、「子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究~ともにキャリアを形成するために~」プロジェクト(以降、当該調査については〝財団ミレニアル世代夫婦調査〟とする)を2020年6月にスタートさせた。

ミレニアル世代夫婦調査でみえてきた本音

調査のねらいは、夫婦ともにキャリア志向を持ち、家事・育児を担いながら、キャリア形成できているカップルと、両者あるいは片方のキャリアが停滞してしまうカップルの違いや要因を探ることだ。

この調査研究ではまず、ともに総合職・基幹職の夫婦33組と、女性1名の合計67人のインタビュー調査を実施した。その結果から仮説を立て、Webアンケート調査で量的な検証を行い分析した。Webアンケート調査の対象者は夫婦とも正社員・正職員の4106人である(2020年8月実施/従業員31人以上の企業に勤務/ミレニアル世代:1980~1995生まれ/同居している子どもがいる人/高卒以上)。2022年2月に全ての調査結果をまとめ、報告書を発表した。

本書は、この調査研究のインタビュー調査を主として、アンケート調査結果も示しながらまとめたものである。67人のインタビューでは、夫婦それぞれがキャリアを形成するための経験や工夫、苦労や失敗について本音で語られており、非常に多くの示唆が得られた。しかし、2022年に発表した調査研究報告書は企業や研究者向けのもので、主に「課題」抽出と方策提案が中心であった。そのため、実際のインタビューから得られた、個人として、ま
た夫婦として、「お手本となるような考え方や工夫」を紹介することができなかった。

しかし、それらはまさしく「新しい世代のキャリア観や夫婦像」を感じられるものであり、この生の声を多くの人に伝えるべきだという思いが、本書の執筆につながった。よって、本書ではミレニアル世代の特徴についても改めて考察を加えており、ミレニアル世代の部下をお持ちの管理職の方、企業の人事やダイバーシティ推進担当の方、働く男女や就職を控えた学生の方々にとって、すぐに役立つものであると確信する。

多様性が尊重される現代において、キャリアの考え方も様々である。本書においては、現状、ハードルが高いといわざるを得ない「女性が」「日本で」「キャリアアップ(昇進・昇格だけでなく、仕事の幅を広げることも含む)」を目指すための方策を追究している。これは、多様な選択肢があるように見える現在においても、実際にはあまりにハードルが高い選択肢を「普通」に選べるものにするために、個人や企業ができることを明確にすることが、本書の目的であるからだ。よって、キャリアアップ以外の選択肢を否定するものでは決してない。

また、本書では便宜上、妻・夫という言葉を使用しているが、これは事実婚や同性婚といった婚姻の多様性を否定しておらず、パートナーがいない人の生き方を否定するものでもない。

現場のミレニアル世代とマネジメント層の価値観の違いは甚大

本書の構成と使い方

両立制度は整っているのに、組織風土や社員のマインドが停滞し、せっかくの制度が活用されていないのが日本の現状である。

第1章では「子育てしながら夫婦で働くということ」と題し、子育てしながら夫婦とも正規雇用として働く人たちを取り巻く環境をまとめている。

第2章からは、実際のインタビューを引用する。まず「夫の場合」として「男性のプライベートロス」についてまとめた。自分たちの父親世代とは異なる家族観や仕事観を持つミレニアル世代の男性たちの、子育てしながらキャリアを形成するための奮闘を紹介する。

第3章は「妻の場合」として「女性のキャリアロス」についてまとめる。この章は、女性が就業継続はできても出産や育児を機にキャリアが停滞してしまう、いわゆる「マミートラック」に陥ってキャリアロスする事態を防ぐポイントが中心である。

第4章は、「夫婦の場合:男女ともにキャリアを形成するために」と題し、夫婦で協力して、仕事と家庭を両立するための工夫や秘訣を紹介する。家族の幸せのためには夫婦というチームで取り組むことの重要性がおわかりいただけるはずである。

第5章は、「企業の場合:マネジメント層の意識を刷新せよ!」。前述したように、家庭や社会に大きな影響を及ぼしている企業に対し、子育てしながら夫婦でキャリアを形成できる環境をどう整え、支援するのがよいか、またなぜその必要があるのかについての提言をする。

本書を手に取ってくださったあなたが夫の家事・育児の協力が得られずに困っている女性であれば、夫に第2章〝夫編〟を読んでもらうのがよいだろう。夫婦でどのように仕事と育児の両立を図っていくかに悩んでいる人たちは、第4章〝夫婦編〟を参考に実践してほしい。

あなたが企業の人事やDEI(Diversity=多様性、Equity=公平性、Inclusion=包括性)推進の担当者であれば、自社の制度が現場の実情に本当に寄り添っているのかどうか点検してほしい。「女性のキャリア意識の低さ」が悩みの種となっているならば、本書でその一因を理解してほしい。そしてぜひ、本書を管理職の方々に薦めてほしい。

あなたが管理職であれば、若い部下たちがどのような思いで仕事をしているのか、本書を通じて知ってほしい。管理職世代と、ミレニアル世代の家族観・仕事観は驚くほど違っており、仕事と家庭を両立しようと奮闘しているミレニアル世代に対する管理職の無理解が大きな問題となっている。これからの企業、ひいては日本を支えていく若手が、企業人として、さらには家庭人としても納得いく人生を送れるよう応援してほしい。

本書で紹介する事例は、いずれもお金も時間もかけずにできることばかりである。実行するのに会社の決裁も必要ないし、誰も損はしない。

本章に入る前に、筆者たちが所属する21世紀職業財団について、少し紹介しておきたい。1986年に設立された当財団は、DEI推進とハラスメント防止を軸に、企業向け研修、調査、コンサルティング、会員制フォーラム等を行う公益財団法人である。本書で紹介する「財団ミレニアル世代夫婦調査」に代表されるような公益に資する調査研究も行っている。

当財団の理念は「あらゆる人がその能力を十分に発揮しながら、健やかに働ける環境を実現する」ことである。ゆえに、「共働き」のみならず、夫婦がチームとなって子育てする「共育て」を志向するミレニアル世代の新しいキャリアも、当たり前に選べる選択肢のひとつになってほしい。本書がその一助となるならば、これに勝る喜びはない。

解説は東京大学名誉教授・佐藤博樹氏

2024年3月21日発売。全国の書店やAmazonでお買い求めください

著者紹介

本道敦子(ほんどうあつこ)
21世紀職業財団研究員。広告会社、調査会社で数多くの定性調査に携わる。現在は女性活躍を支援するフォーラム運営の他調査研究、企業調査等に従事。国家資格キャリアコンサルタント。

山谷真名(やまやまな)
21世紀職業財団主任研究員。企業勤務・大学研究員等の経験を活かし、調査研究、企業調査等に従事。「子どものいるミレニアル世代夫婦がデュアルキャリアカップル志向を高める要因」等、学会での発表多数。

和田みゆき(わだみゆき)
21世紀職業財団研究員。女性活躍の進んだ外資系企業での経験を活かし、女性管理職支援や地域の女性リーダーの発掘等の支援事業を手掛ける他、女性活躍を中心とした調査研究、企業調査等に従事。

公益財団法人21世紀職業財団 DEI推進事業部 調査研究チーム
社会の変化に合わせてDEI推進等の課題や展望を研究する調査を実施し、企業や社会へ提言を行っている。また、定点観測調査も実施。これらの知見を活かした企業調査、コンサルティングも行っている。


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