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【22位】エルヴィス・プレスリーの1曲―酸いも甘いも嚙み分けた、大人のヒロイズムが華麗に、壮大に

「サスピシャス・マインズ」エルヴィス・プレスリー(1969年8月/RCA/米)

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※こちらはスペイン盤シングルのジャケットです

Genre: Rock, Country, Pop
Suspicious Minds - Elvis Presley (Aug. 69) RCA, US
(Mark James) Produced by Chips Moman and Felton Jarvis
(RS 91 / NME 58) 410 + 443 = 853
※22位、21位が同スコア

エルヴィス・プレスリー、3曲目のランクイン。そしてこの曲が、当ランキングでの彼の最高位ナンバーとなった。それほどまでに熱い支持を集める、後期代表曲だ。

60年代のエルヴィスは、低迷期にあった。しかし音楽界への大いなる復活を果たした前年12月のTVショウ(通称『68カムバック・スペシャル』)の余波に乗り、ついに「新曲」にてトップに返り咲いた、記念すべき1曲こそがこれだ。7年ぶりのビルボードHOT100首位にして、彼の生涯最後の同1位でもあった。全英は2位まで上昇した。

なんと言ってもこの曲は、バッキングが素晴らしい。メンフィスの名門、アメリカン・サウンド・スタジオの猛者が集い、カントリー風味の壮大なナンバーに仕上げている。馬が常歩で進んでいくようなギター・フレーズが、バッキング・ヴォーカルとストリングスの波動を得て大きく大きく展開していく……のだが、一方歌詞が意味深で、そこが受けた。

タイトルの意味は「疑う心」もしくは「不審の念」となる。恋人の愛を「信じられなくなる」ような感情を指す。しかしこの歌がユニークなのは「疑われている」側の主人公のひとり語りとなっているところ。「むかしの友だちにハローって言われたら、僕が怪しまれちまうのかい?」なんてしれっと聞き返している様子から、潔白ではない可能性も濃厚。なのに当曲は、そんな主人公が「でも僕を信じてくれよ。きみだけなんだから」なんて歌う姿を、前述の見事なるバッキングにて、高らかに称揚するわけだ。嘘も方便、と言おうか。言い訳の美学、いや居直りなのか。苦みと屈折を明らかに含みつつも、あっけらかんとしたヒロイズムへとつながっていく「大人」の懐の深さが、この歌の聞きどころだ。

当曲のカヴァーで最も有名なものが、UKバンド、ファイン・ヤング・カニバルズによる86年のもの(コーラスはジミー・ソマーヴィル)。さらに当曲を書いたマーク・ジェームズも共作者の「オールウェイズ・オン・マイ・マインド」(72年)は87年のペット・ショップ・ボーイズに、当曲と同じ69年のヒットだった「イン・ザ・ゲットー」は91年のビーツ・インターナショナルに、それぞれカヴァーされた。60年代末の「カムバック後」のエルヴィス・ナンバーは、とくにニューウェイヴ以降の世代の、ダンス音楽系のUKアーティストに人気が高い。「56年の衝撃」を背負い続けた青年エルヴィスが、長じて、リベラーチェやトム・ジョーンズを意識するようなショウマンへと成長していった過程にひそむ、鬱屈とその解放のメカニズムの複雑性に強く反応するのかもしれない。

(次回は21位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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