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『バッタを倒しにアフリカへ』のエピソード1、名著『孤独なバッタが群れるとき』の本文、目次公開!

光文社新書

2012年11月刊行の『孤独なバッタが群れるとき』は、バッタ博士こと、前野ウルド浩太郎さんのデビュー作です。担当編集者である私(三宅)も、そのあまりの面白さに仰天し、すぐにご執筆を依頼。それが、2017年5月刊行の『バッタを倒しにアフリカへ』に結実したのでした。今回、そのバッタ博士の原点ともいえる一冊を、東海大学出版部様のご理解もあり、光文社新書として刊行することができました。新書ですので、元の単行本より手に取りやすい価格というのが大きなメリットです。本記事では、その新書版『孤独なバッタが群れるとき』より、新書版まえがき、単行本時のまえがき、目次を公開します。

おかげさまで、発売即重版となりました。

紙版・電子版累計24万部の新書大賞受賞作。

「一杯のラーメン」を「まえがき」にかえて

 ラーメンとは、麺をスープに浸して食べる麺料理である。
多種多様な味付け、麺、具材の組み合わせは無限とも言われている。
ときに人を幸せにし、ときに人を狂わす魔性の一杯。
作り手の熱き想いは熱々の湯気に姿を変えて天に昇り、
やがて雨となって大地を潤すだろう。

民迷書房刊『あなただけ煮詰めてる』より

「今すぐに学業または仕事を止め、明日からラーメン屋を営んでください」

誰の身にも降りかかりかねない無茶ぶりの一つだ。困惑している暇なぞない。今すぐに立ち上がるべし。商売として成立させるためには、たった一人の熱狂的なファンを作るより、大勢のお客さんに気に入られるようなラーメンを作る必要がある。よし、近隣住民に迷惑をおかけするレベルの行列を生み出す一杯をめざし、試作に取り掛かろうぞ!

まずは方向性(コンセプト)を決めることにする。

「どんなスープにしたらいいだろうか?」

日本人の国民食であるラーメンは奥深く、塩、醤油、味噌、豚骨等の異なるスープによる味付けに加え、同じ味付けでも濃厚なコッテリか、スープが透き通るほどのアッサリかがある。その中間の「コッサリ」なんてものもあるらしいが、そんな中途半端な風味は無視することにする。私は迷わずに味噌味で勝負を賭けることにして、まずはコッテリとアッサリのどちらにするか悩むとする。

ラーメン好き素人の私が確信していることとして、背脂たっぷりなコッテリが食える人はアッサリが食えるが、アッサリしか食えない人はコッテリが食えないはずだ。アッサリなら万人が食えはすれども、コッテリ好きには物足りないはず。諸々(もろ もろ)を鑑みると、一杯でアッサリ派とコッテリ派の両人を満足させるのは難しそうだ。

*   

さてさて、執筆においてもこの「コッテリ」「アッサリ」問題は共通の悩みである。かみ砕いて読みやすい文章をサラサラと書いたほうが、アッサリしており、万人ウケしそうである。かたや、本文中にややこしそうなグラフや表がたっぷりあり、文章がお堅いと気軽な読書には向いていないが、物事を深く知る上ではこのコッテリ具合は欠かせない。

私は今までに、主軸はバッタだが、風味がまったく異なる二冊の本を出版している。一冊は二〇一七年出版『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書)で、もう一冊は二〇一二年出版『孤独なバッタが群れるとき』(東海大学出版部)。

初めて執筆した『孤独~』の方は、研究成果の紹介に重きを置いており、「グラフ、マシマシ」「説明、オオメ」「文章、カタメ」であり、ページ数も多く、読みごたえたっぷりでコッテリとした作品に仕上がっている。書いた張本人ですら体調を整えてから力を入れて読書しなければ理解できず、数ページ読むとくたびれてしまうほどだ。研究を生業(なり わい)にしていない方々からは「難しくてよくわからなかった」という声を多数聞いた。

このように「食べきってもらえなかった」苦い経験から、もっとアッサリさせねばと反省し、二作目『バッタを倒しにアフリカへ』を書き上げた。

二作目は、素材の持ち味(アフリカでの珍プレイ)を生かすべく、グラフなんざは取っ払い、楽しげな写真を満載した。文章は、決してくどくならないように、かつ、中毒性があるようにおもしろおかしく書くことに専念した。このアッサリ作戦が功を奏したとみえ、二一万部を超えるベストセラーとなった。

やはり、アッサリが正解だったと手ごたえを掴んだが、一部のコッテリ派読者からは、「もっとバッタの話を期待したのに」「内容が薄い」などクレームが相次いだ。万人ウケの一冊には程遠かった。

「物足りない」と感じられた方々には是非ともコッテリした一作目を読んでいただきたいのだが、一部の本屋さんでしか取り扱われていないため、お手元に届けることができない。それならば、コッテリした新作を執筆したいところだが、研究や遊びに忙しく、なかなか時間が取れない。どうしたもんかと悩んだとき、予想だにしない展開が待ち受けていた。なんと『孤独なバッタが群れるとき』が新書として再出版されることになったのだ。この粋な計らいのおかげで、このようにまえがきを執筆している次第である。

待ってろコッテリ派! となると、アッサリだと思ってうっかり本書を手に取られてしまった読者の方が読破できるか、私はすごく心配している。コッテリ過ぎて読書嫌いになったらどうしよう。本当だったら、隣にいて一つずつ噛み砕き、優しく解説して差し上げたいところだが、それは叶わぬ思い。ならば、いくつかの読み方を提案したい。

熟読・読み解きコース:一字一句じっくり噛みしめながら、グラフや表を凝視し、納得できるまで何度でも読み返し、心ゆくまで読みふける。その道のエキスパートやパズル好き、ミステリー小説好きにおススメ。体調を整えてから挑むべし。

快速・読み飛ばしコース:わかりそうなグラフだけ、ふむふむと読んで、ややこしそうなグラフと解説はすっ飛ばし、わかった気になる。『バッタを倒しにアフリカへ』を気に入ってこの本を手に取られた方におススメ。

音速・すっ飛ばしコース:グラフとか載ってた? くらいの勢いで、グラフや解説は初めからなかったものとし、結論やコラム等の楽しげな部分だけ読んで、「まぁ著者がなんかがんばって結果が出たからこんなことを言っているんだな」と察する。五分後にはもはや読書したことすら忘れてもよい人におススメ。

とても大変な読書になると思うので、自分のスタイルで、休み休み読み進めてほしい。今回の本は、ハマるとクセになると思う。

私の願望として、グラフを見るのもイヤだった読者がこの本を通じ、物事を伝える際には自らグラフを作成するようになることを期待している。バッタに関するデータによって、生活に役立つグラフを読み解くお作法を習得するのも、またいいではないか。

コラムがところどころにあるが、これは息抜きするためにうってつけで、お楽しみのチャーシューとして活用していただきたい。

 現在、私はバッタ博士としてアフリカでサバクトビバッタと格闘している。その模様は『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書)に綴っており、本作は、それよりも前のバッタ博士になろうかどうか思い悩みつつ、修業に明け暮れた頃に焦点を当てている。まさに「エピソード1」となる。今となっては気恥ずかしいが、青春の日々を、ひたすらバッタだけを見つめることに捧げた青年が織りなすエピソードに、貴方(あなた)をいざないたい。

はじめに

あれは、小学生の頃に読んだ子ども向けの科学雑誌の記事だった。外国でバッタが大発生し、それを見学するために観光ツアーが組まれたそうだ。女性がそのツアーに参加したところ、その人は緑色の服を着ていたため、バッタに群がられ、服を食べられてしまったそうだ。私はこのとき、緑色というだけでみさかいなく群れで襲ってくるバッタの貪欲さに恐怖を覚えたとともに、ある感情が芽生えた。

 「自分もバッタに食べられたい」

 その日以来、緑色の服を着てバッタの群れの中に飛び込むのが夢となった。

私は小さい頃からバッタだけではなく、虫には特別な感情を抱き続けてきた。幼少時代は体育座りができないくらい腹が出ていた。マラソン大会では、観客の視線を一身に集め、熾烈なビリ争いを繰り広げる肥満児だった。みんなと鬼ごっこをしてもすぐに満足してしまい、独りで座りながらみんなを遠目に眺めたものだ。腹がつかえて苦しかったが、うつむく自分の目にとまったのが虫だった。虫の存在自体が謎の塊だった。カラフルで奇抜なデザインに奇妙な動き。何のためにそんなことをしているのだろう。暇をもて余した肥満児の興味を虫たちは一身に集めた。

虫に対する疑問を胸に抱え、ただひたすら虫を眺めていた。幼くして哀愁漂う背中に何か思ったのだろう、気の毒な息子のために、母が図書館から『ファーブル昆虫記』を借りて来てくれた。それは、驚愕の一冊だった。

何者なんだ? この昆虫学者のファーブルという人は! 虫に疑問を抱くまでは自分と同じなのだが、そこから先が違っていた。彼は己の力で工夫をし、次々と虫にまつわる謎解きをしていた。知りたいことを自力で知ることができるとは、なんてかっこいい人なんだ。ファーブル先生(以下、親しみを込めてファーブル)はたちまち憧れの存在になった。自分自身で虫の謎を解き明かせたらどんなに楽しいだろうか。本を読んだだけでこんなにも楽しくなるのだから、自力で知りたいことを知ることができたら最高に決まってる。そうか、昆虫学者か。自分も昆虫学者になれば虫の謎解き放題になるのでは……。

かくして肥満児は、将来の夢を綴る小学校の卒業文集に、昆虫学者になっている自分の姿を思い描いた。ライトを使って虫を採集したり、虫を大きくする研究をしている自分の姿を夢見た。ついでにスリムになった姿も……。

あれから二〇年が経った。ダイエットに成功し、体育座りできるようにはなったが、まだまだ胸をはって一人前の昆虫学者になったと報告できるまでには至っていない。しかし、夢は途中ながらも博士になって憧れだった虫の研究三昧の日々を送ることができている。そして、ファーブルのように自分の昆虫記を手掛ける日を迎えることができた。ただし、ファーブルにはまだほど遠い。この本を手掛けることになり、また改めてファーブルの偉大さがわかった。私は尻の青い未熟な果実で、人に読み物を提供できる身分では決してないが、完熟果実を引き立たせるのに役立てればこれ幸いと思い、この本を綴った。

気になるこの本の中身は、すべて外国産のバッタのサバクトビバッタに関するものです。私は、謎多きこのバッタに心奪われてしまった。バッタに夢中になってふと気づいたら、サハラ砂漠でバッタと一緒に寝泊まりすることになっていた。こんな素敵なことになったのは、これまでの一つひとつの小さい出来事が線で繋(つな)がった賜物(たま もの)で、それは高校野球に負けないくらいの筋書きのないドラマだった。

この本では、バッタ嫌いの人がトラウマになりそうな話を遠慮せずにしますし、虫嫌いの人にトドメを刺すようなえげつない話も盛り込んでいます。人によっては、ちょっとした危険物になりかねないので取り扱いには十分お気をつけください。この本が、虫嫌いの人が昆虫図鑑を恐る恐る指でつまんで頁をめくるように扱われる姿を想像すると今からちょっと切ないです。

私の昆虫記に読者の方々を招待するのはなんだか恥ずかしくもあり、嬉しくもあり身悶えてしまうのだが、気持ちの整理がついたので、いざ、あなたの知らないバッタの世界へいざないたい。

目  次

「一杯のラーメン」を「まえがき」にかえて 

 はじめに 

 第1章 運命との出逢い

一縷の望み/師匠との出逢い/サバクトビバッタとは?/黒い悪魔との闘い――絶望と希望の狭間に/相変異/コラム バッタとイナゴコラム バッタ注意報

 第2章 黒き悪魔を生みだす血

相変異を支配するホルモン/白いバッタ/ホルモンで変身/授かりしテーマ/ホルモン注射/触角上の密林/論文の執筆/コラム バッタのエサ換えコラム 伝統のイナゴの佃煮

 第3章 代々伝わる悪魔の姿

補欠人生に終止符を/目を見開いて/代々伝わるミステリアス/コラム バッタ飼育事情/消えた迷い/相蓄積のカラクリ/仮説の補強/コラム バッタ研究者の証

 第4章 悪魔を生みだす謎の泡

常識の中の非常識/戦慄の泡説/疑惑の定説/揺らぎ始めた定説/定説の崩壊/逆襲のサイエンティスト/理論武装/打っておくべきは先手、秘めておくべきは奥の手/一三年にわたる見落とし/追撃/戦力外通告後の奇跡/飼育密度の切り替え実験/論争の果てに/束縛の卵/えげつない手法/真実は殻の中に/研究はアイデア勝負/コラム 真実を追い求める研究者

 第5章 バッタde 遺伝学

紅のミュータント/バッタでメンデル/顕性の法則/分離の法則/隠された紅の証/消えたミュータント/独立の法則/バイオアッセイ/成長という名の試練

 第6章 悪魔の卵

悪魔を生む刺激/Going my way 己の道へ/博士誕生/混み合いの感受期/感受期特定実験①長期間の混み合いの影響/感受期特定実験②短期間の混み合いの影響/混み合いの感受期のモデル/バイオアッセイの確立/壁の向こう側/混み合いがもつ三つの刺激/バッタのGスポット/塗り潰し実験/切除実験/昔話「バッタの耳はどこにある?」/カバー実験/Physical or Chemical factor 物理的もしくは化学的な要因/最短の混み合い期間特定実験/こする回数/目隠しを君に/あの娘にタッチ/接触刺激の特定実験/育ちが違うバッタにも反応するのか?/異種にも反応するのか?/暗闇事件/孤独に陥る闇の中/闇に光を/光り輝く夜光塗料/不可能を可能にする魔法「ルミノーバ」/光るバッタ/光を感受する部位の特定実験/夢を信じて/体液の中に/ドロ沼/アゲハの誘惑/異常事態/カラクリだらけのホルモン仕掛け/セロトニン/コラム 虫のマネをするファーブルコラム 一寸の虫にも五分の魂

 第7章 相変異の生態学

なぜ子の大きさが違うのか?/力の差が出るとき/瞳を見つめれば/ルール違反の発育能力/掟破りの産卵能力/海を越えて/コラム 先住民の住む森/国際学会/運河の孤島 バロ・コロラド島/コラム 栄冠は手をすり抜けて/エサ質実験 ①発育/エサ質実験 ②成虫形態/エサ質実験 ③産卵能力/切り倒すか、たたき倒すか/コラム ミイラが寝ているその隙に/男たるもの/一皮むけるために/Dyar’s law ダイヤーの法則

 第8章 性モザイクバッタ

奇妙なバッタ/オスにモテるがメスが好き/コラム 図の美学

 第9章 そしてフィールドへ……

バッタの故郷/夜にまぎれて/砂漠の道化師/バッタ狂の決意/旅立ちのとき/いざアフリカへ/ミッションという名の闘い/トゲの要塞/己の力を試すとき/決戦/食うか、食われるか/ウルド誕生/新たなる一歩/忘れられた自然/アフリカで研究するメリット/サバクトビバッタ研究を通して/伏兵どもが夢の中

 おわりに

謝辞  

新書版あとがき  

参考文献 

索引  

 


 

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