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超いい肉 IN ボンカレー| パリッコの「つつまし酒」#123

「おつとめ狩り」も気軽にできない日々だけど

 会社を辞めて通勤がなくなり、さらにコロナの影響で夜の酒場に行くこともほとんどなくなり、「おつとめ狩り」の機会がめっきり減ってしまって寂しい限りです。が、それでもスーパーマーケットには、まだまだ多くのエンターテインメントが潜んでいる! そんな気持ちでスーパーに通う日々が続いています。
 先日も、テンションが上がりすぎ、売り場で思わず小躍りしてしまうほどの出会いがありました。それが、おつとめ狩りをよくしていた時代のメインターゲットだった、「いい肉」。
 開店してすぐの時間だったので、前日からの持ち越し品だったのかな? 定価だったらとても日常的には手が出ない高級肉が、なんと半額になっている。それでも普段買ってるような肉よりは高いけど、思い切って買えない値段じゃない。

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半額シールがまぶしい高級肉

 それが、定価が100gあたりなんと780円! 139g入りで税込み1171円という、超高級な牛もものしゃぶしゃぶ用薄切り肉。

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美しいサシが全体に

 ラベルを見ると、島根県産の「まつなが牛」という、どうやら「松永牧場」という牧場のブランド牛らしい。僕は初めて聞きますが、説明書きからもいろいろとこだわってそうなことが伝わってきます。
 気になるな、ごくり……。よし、いっちゃうか……。

今日、やるしかない!

 と、買って帰り、ふだんならこんないい肉、シンプルに焼いて食べるに決まってるんですが、ちょっと思いついたことがあります。ずっとずっと、それはもうず〜っと前からいつかやりたいと思っていた「ある計画」を、今日こそ実行する機会なんじゃないだろうか? ずばり、「超いい肉入りレトルトカレー計画」を!
 超いい肉入りレトルトカレー計画とはなにか? まぁそのまんまなんですが、僕はレトルトカレー全般が大好きなんですけども、あれってなんというか、ちょっと具材が寂しいと感じることも多いですよね? そういうときに僕はよく、フライパンでひき肉やら豚の薄切り肉をさっと炒め、そこに直接レトルトカレーを加えて煮込み、「肉増しレトルトカレー」にして食べるんです。レトルト感のないフレッシュな具材が加わることにより、驚くほどに美味しくなるし、満足感も倍増するので。
 で、その肉増しを、いつか思いきって超いい肉でやってみたいな。そう思ってたんですよ。
 買ってきたまつなが牛を見ていたら、なんだか「おーい! おーい!」と、戸棚のなかのレトルトカレーが呼んでいる気がしてきた。今がその好機な気がしてきたぞ。もう、やるしかない!

天上人の晩餐会

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では、行きますよ?

 まずはフライパンで牛脂を溶かしつつ、パックの牛肉全量を投入して焼きます。とたんに立ちのぼるゴージャスな香り! これは絶対うまい肉だ〜。と、本当はがまんしたかったんですが、思わず1枚とりだして塩をぱらりと振って食べてしまいました。う、うわ〜、なんだこの柔らかさ、旨味、脂の甘い香り……。全部このまま食べつくしたい!

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けれども……

 心を鬼にして、ここで「ボンカレーゴールド(中辛)」を開封。って、そんな言いかたはボンカレーに失礼か。ボンカレーはボンカレーで、勝手にうちに買われて、食べられる時を待っててくれただけなのに。いやしかし、お詫びと言ってはなんだけどボンちゃん、君はこれから、同胞たちが経験したこともないであろう超いい肉と融合するんだよ。むしろ誇りに思ってくれ!

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えいやー!!!

 ……いってやりましたよ。うまそうに焼けたたっぷりの肉の上に、ボンカレーを。
 カレーを温めつつ肉と絡めていくと、肉の量が多すぎなんでしょうね。肉入りカレーというよりは「肉のカレーソースあえ」といった風情になってしまいましたが、完全にうまそうなことは間違いない。
 ごはんと福神漬けとともにお皿に盛って、完成〜!

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長年の夢がついに実現

 で、実際このカレー、お味のほうはどうだったかというと、いや、すごかったです。まず、あんなにも強いカレーに負けないどころか若干勝ってしまってすらいる圧倒的な肉のうまさがすごい! それに、ベースがレトルトカレーとは思えない、まるで何十時間も煮込んだかのような深みとまろやかさ。そもそも、もとの黄色っぽい色が、肉を加えただけで思いっきり茶色く変わっちゃってるんだけど、これはどういう現象なんだろう?
 とにかく頭のなかに、よく考えると意味不明な「天上人の晩餐会」という言葉さえ浮かんできます。とはいえ、じゃあボンカレーの良さはすっかり消えてしまったのかというと、そんなこともない。やっぱりどこか親しみのある面影はちゃんと残っていて、そこがまたいい。たまに顔を覗かせるころんとしたじゃがいもなんか、久しぶりにばったり会った地元の友達みたいな安心感があります。

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夢のような時間だった……

 ところでこの連載のタイトルは「つつまし酒」。お酒の話をしないと始まりません。が、カレーライスについては、いにしえの時代から「そもそもお酒と合うのか?」問題が、酒飲みたちの間で議論されてきました。
 結論から言えば、僕はいけます。カレーとお酒。というか、カレーを食べるときは必ず横に、ビールも一緒にあってほしい。ただ、カレーライスってあらゆる料理のなかでも、ちょっと度を超えて美味しすぎるんですよね(あくまで個人の感想です)。僕の食事は基本、「酒が主、食が従」な傾向にありますが、カレーに限ってはこれが逆転してしまう。
 う〜ん、どうすれば逆転しないのかなぁ? みなさんはどう思います? え? どうでもいい? うんうん、ですよね。

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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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