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続・不登校児を救え!―カマラ・ハリス氏自伝『私たちの真実』より

光文社新書編集部の三宅です。

副大統領就任から遡ること10年前の2011年1月、カマラ・ハリス氏は女性初・アフリカ系初・インド系初のカリフォルニア州司法長官に就任します。そのとき最優先で取り組んだのが、児童の不登校問題でした。

司法長官がなぜ不登校問題?と思いますが、そこには地方検事時代以来の深謀遠慮が隠されていたのです。

『私たちの真実』より、カマラ氏が不登校問題解決に奔走したエピソードを2回に分けてお送りします。今回は後編です。

※前編はこちら。

※こちらのマガジンで、『私たちの真実』関連の記事を全て読むことができます。

「ちょっと待って。父親には連絡しないの?」

問題を掘り下げているうちに、一部の同僚の予測とはまったく異なる現実がわかってきた。世の中には、子どもが常習的に無断欠席するようになるのは、親が子どもの将来を気にかけないからだ、という固定観念がある。だが真実は違った。実は、親の大多数は、子どもをきちんと育てたいと願っている。よき父、よき母になりたいと思っているのだ。不登校児の親は、ただ必要なスキルや援助がないだけなのかもしれない。

最低賃金のシフト制の仕事をかけもちし、週六日働いても貧困ラインより下の生活から抜け出せない一人親を想像してみよう。時給で働き、有給休暇も病気休暇もない。三歳の娘が熱を出せば、二つ目の仕事をして保育料を払っている託児所に連れていくことができない。ベビーシッターを雇う余裕はないが、自分が家にいたのではその月の紙おむつも買えなくなるだろう。ただでさえ、数か月で足のサイズがどんどん大きくなっていく一一歳の息子(娘の兄)に、新しい靴を買うお金を貯めるのも難しいというのに。

経済的に余裕のある人にとってはせいぜい頭痛の種ぐらいのことが、そうでない人には絶望を意味する。そうした状況に置かれた一人親が、息子に学校を休んで妹の面倒を見るよう頼んでいるとしても、子どもへの愛情が足りないといって親を責めることはできないだろう。これは境遇や事情の問題で、人格の問題ではないからだ。たいていの親は、できるだけ最良の親になりたいと望んでいるものだ。

無断欠席防止プログラムの目標は、介入とサポートだった。私たちは、保護者たちに働きかけて、無断欠席率の高さと非識字率や犯罪の多さとの関連性のみならず、さらに重要で、彼らが知らない可能性のある、子どもを学校に行かせるのを容易にするために市や学区が実施している支援策などについての情報を伝えるよう、学校に対して求めた。

プログラムの内容を検討しはじめたころ、学区用のガイダンス案には、無断欠席の問題が起こったら、子どもが同居している親(ほとんどが母親)に通知するよう書かれていた。

「ちょっと待って。父親には連絡しないの?」と尋ねると、
「ええ、こうしたケースでは、父親は子どもと暮らしていませんし、養育費も払っていないことが多いんです」とスタッフの一人が答えた。
「だから何だというの?」。私は言い返した。「養育費は払っていないかもしれないけれど、だからといってその父親が子どもに毎日学校に行ってほしいと思っていないわけではないでしょう?」

そして思ったとおり、娘が毎日学校に通っていないことを知ったある若い男性は、スケジュールを調整して娘を毎朝学校に送っていくようになった。娘のクラスのボランティアにも参加するようになった。

州司法長官になったとき、私はその力を使って無断欠席がもたらす危機を州全体に知らしめたいと考えた。私が何かをすればたいていメディアが集まるのはわかっていたので、この問題に注目を集め、人々の利己心に訴えようと思ったのである。好むと好まざるとにかかわらず、ほとんどの人にとっては他人の子どもの教育よりも自分の安全のほうが大事だ。そういう人たちに、いま教育を優先させなければ、やがて公共の安全が脅かされることをわかってもらいたかった。

その日、私はカリフォルニア・エンダウメント(友人で医療慈善家のロバート・K・ロスが運営する非営利団体)で、私たちがまとめた最初の調査報告を発表することになっていた。その概算によれば、州全体で無断欠席している小学生の数はおよそ一〇〇万人。ほぼ全員が無断欠席している学校も多く、無断欠席率が九二パーセントを超える学校もあった。

そのため、私は壇上に立ち、州の司法長官に直接関係ないと思われていた問題を熱い思いを込めて訴え、その部屋の内外の教育者と政策立案者がこの危機の深刻さを認識し、対策に力を入れるよう求めた。(了)


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