【第31回】「AI大国」中国はどこへ向かうのか?
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【第31回】「AI大国」中国はどこへ向かうのか?

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★現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。この連載では、高橋昌一郎が「教養」を磨くために必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します!

アメリカ対中国の「新冷戦」

2020年、日本の名目GDP(50,487億ドル)はアメリカの名目GDP(209,328億ドル)の約24.1%に過ぎない。ところが、1988年、日本の名目GDP(31,342億ドル)はアメリカの名目GDP(52,364億ドル)の約59.9%を占めていた!

1988年当時、半導体市場に占める日本のメーカーのシェアは50%を超えて世界第一位だった。これに対してアメリカは、日本の企業が政府から援助される「官民癒着」であり、日本の半導体製品は「不公正貿易」されていると批判した。さらに、不当に安く販売する「ダンピング(不当廉売)」や、日本サイドがアメリカの半導体技術を「スパイ」した疑惑があるとまで非難した。

その前年の1987年、アメリカは、「日米半導体協定」を日本が守っていないという理由で、日本製のパソコン・カラーテレビ・電動工具に一律100%の関税をかけるという「制裁」を発動した。当時の中曽根康弘首相は、慌てて訪米してレーガン大統領に直談判したが、この制裁は解除されなかった。

1991年に締結された第二次「日米半導体協定」では、日本市場におけるアメリカ製半導体のシェアを20%に引き上げ、日本製半導体の規格をアメリカの規格に合わせる「公正販売価格」が要求された。この協定が満期を迎えた1997年、日本の半導体は完全に競争力を失い、世界から取り残されてしまった。

本書の著者・福田直之氏は、1980年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、朝日新聞社に入社。名古屋・東京勤務を経て2017年4月から2020年8月まで北京特派員。現在は東京本社経済部記者。本書は3年間の中国取材と、元アリババ会長ジャック・マー氏ら先端起業家のインタビューを含むルポである。

さて、1980年代にアメリカが日本に向けた圧力が、今では中国に向かい、米中は「新冷戦」状態にあるというのが本書の主張である。2020年、中国の名目GDP(147,228億ドル)はアメリカの名目GDP(209,328億ドル)の約70.3%に達している。急速に「AI大国」化した中国は、世界の大きな脅威となった。

本書で最も驚かされたのは、2019年5月時点の取材で、北京市中心部の長安街で物乞いをする女性がQRコードを印刷した紙を持っていたというエピソードである。行きかう人々は、立ち止ってその紙にスマートフォンをかざして小銭を与える。この60歳の女性は、以前は容器に小銭を入れて貰っていたが、キャッシュレス化で誰も小銭を持たなくなった。そこに親切な人が現われて「アリペイ」のQRコードを印刷すればよいと教えてくれたという。

キャッシュレス決済サービス「アリペイ」は、中国最大手のネット通販プラットフォーム「アリババ」と直結する。スマートフォンにアプリを入れるだけでQRコードからの入金が可能になるので、銀行口座のない人も活用できる。すでに世界50カ国で10億人以上が使用しているというから驚きである。

長安街に立ち並ぶ朝食の煎餅(ジエンピン)を目の前で調理する屋台には、QRコードを印刷した紙が貼られ、客はそれをスマートフォンで読み取って代金を入力する。そもそもQRコードは日本で開発された技術だが、中国で活用され、データが集積され、あらゆる場所に設置されたカメラが国民を監視する。この「AI大国」中国とアメリカの狭間で、日本はどうすべきなのか?


本書のハイライト

外交と軍事は日米関係が基軸だからといって、中国との経済関係を犠牲にすることはできない。かたや中国との経済関係が大事だからといって、米国から求められた中国に対する政策協調に応じないわけにもいかない。日本は米中が対立するなかでも、自国の利益を守れるしくみを作る必要がある。同時に両国から今まで以上に必要とされるように技術力を高め、維持することが自主独立路線を歩む上で大切である(p. 162)。

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著者プロフィール

高橋昌一郎_近影

高橋昌一郎/たかはししょういちろう 國學院大學教授。専門は論理学・科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『フォン・ノイマンの哲学』『ゲーデルの哲学』『20世紀論争史』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。

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