【67位】マドンナの1曲―てんやわんやの「みたいな」第2幕で、憎まれっ子世にはばかる
「ライク・ア・プレアー」マドンナ(1989年3月/Sire/米)
Genre: Pop Rock
Like a Prayer - Madonna (Aug. 94) Sire, US
(Maddona • Patric Leonard) Produced by Maddona and Patric Leonard
(RS 306 / NME 47) 195 + 454 = 649
※68位、67位が同スコア
ついにマドンナが出た。『教養としてのロック名盤ベスト100』では、なぜかアルバムが1枚もランクインなし。ようやくここで雪辱だ――といったときに出てくるのがこれだというところが、いかにも彼女らしい。同スコアだった68位「ハレルヤ」に続いての宗教もの。ただしこっちは発表当時、世の良識層から非難の集中砲火を浴びた。
楽曲そのものは、さしてスキャンダラスではない。「お祈りみたいに」とのタイトルどおり、キリスト教関連の言葉をゆるやかな暗喩として、人生の不可解さや、人と人が心を許し合い、愛し合うことのめくるめく歓びを描いたもの――つまりかなり「ハレルヤ」にも通じる構造がありつつ――あちらとは違う、大柄なロック・ナンバーとなっている。
音楽的には、まずゴスペル風味が強い。冒頭でハードロック・ギターが鳴り響き、マドンナが朗々と歌い始める。続いて聖歌隊風コーラスが華々しく盛り上げる。マイケル・ジャクソン「マン・イン・ザ・ミラー」などでもいい仕事をしたゴスペル歌手、アンドレ・クラウチ率いるコーラス隊だ。荘厳だ!とファンはこの演出を喜んだ。
が、MVの内容が物議をかもす。「宗教モチーフ」が冒涜的である、とされたのだ。米保守層や宗教右派だけでなく、なんとヴァチカンから当時の法王ヨハネ・パウロ2世まで登場。マドンナのイタリア公演ボイコット運動に理解を示す始末――だったのだが、これが全部いい宣伝になった。ビルボードHOT100および全英で1位。豪、加、スペイン、ニュージーランドでも1位。当曲収録の同名アルバムも世界各国で1位を奪取した。「明るいポップ歌手」から一枚も二枚も脱皮した、マドンナの新たな代表曲となった。
この直前、彼女のキャリアは曲がり角にあった。主演映画2作が立て続けに失敗、俳優ショーン・ペンとの離婚話、自身の三十路突入……などがあり、そこでおそらく、かつての「ライク・ア・ヴァージン」を超え得るような、大人としての自分の道を切り開ける、大スケールの「ライク・ア」ナンバーを求めて――(MV中で)つい十字架まで燃やしてしまったのだろう(もっとも具体的には、混血者の守護聖人マルティン・デ・ポレスを讃え、差別主義者を叩く目的の、真面目な宗教心の反映があれだったと思えるのだが)。
ところでタイトルのPrayerには「祈る人」と「祈り」のふたとおりの意味があって、ここでは後者となる。だから発音は、邦題の「プレイヤー」とはまずならず、カタカナ表記するとしたら「プレアー」が近い(マドンナもそう歌っている)。ぜひご留意を。
(次回は66位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)
※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki