ChatGPTがすべてのサービスの窓口になるかも――ChatGPTの基礎知識⑮by岡嶋裕史
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ChatGPTがすべてのサービスの窓口になるかも――ChatGPTの基礎知識⑮by岡嶋裕史
危険な技術というのはある。
物理的なやつとか、化学的なやつなどが典型的だ。
GPTシリーズは音速を出したり、放射線をまき散らすタイプの技術ではない。なのになぜそんなに危険視されるのだろう?
AIの統合
一つには統合が期待されるからだ。
以前の回でも触れたように、現在の技術は弱いAIしか生み出せていない。人間のように汎用性の高い能力を持つ単体のAI(AGI、強いAI)はしばらく無理である。描画AI、法務AI、会計AIなどがその分野での力を磨くに留まるだろう。
賞賛を浴びるGPT-4 ですら言語能力のAIでしかない。しかし、言語は人間がそうしているように、他のさまざまな能力の核になり、互いを結ぶ役目を担える。多くの「AI」を標榜するシステムが、そのインタフェースとして言語を受け付けているのが良例である。
描画AIも法務AIも言語によって指示を受け、その言語の背後にいる人間の望む振る舞いをするのだ。
これらを結ぶインタフェースが言語であるならば、GPTシリーズ(言語AI)は他のあまたのAIを操れることになる(図3‐1)。
強いAIを作るのは無理でも、複数の分野の弱いAIを言語AIが統合して「中くらいのAI」を作ることは可能になるかもしれない。この「中くらいのAI」は私が2021年の年頭に出版した書籍に記した言い方だが、その予測が現実味を帯びてきた。
この場合、言語AIの重要性は極めて大きくなる。
描画AIや法務AIに瑕疵(かし)がなくても、それを人間が直接使うのではなく、GPTを経由して利用するのであれば、GPTに瑕疵があると描画AIや法務AIの成果物がおかしくなる。車に瑕疵がなくても、運転する人が無茶をすれば車はがけから落ちるだろうし、包丁に瑕疵がなくても、使う人が殺意を抱いていれば凶器になる。それと同じである。
権力の集中
また、GPTに権力が集まることもあるだろう。
人間にとって描画AIの使い方(第2章で実演した)を覚え、法務AIの使い方を理解し、会計AIの使い方を諳(そら)んじることは苦痛である。やりたくない。
だから、手近にあるGPTに自然言語で指示を発し、GPTに仲介してもらって個々のAIを使う方法は早晩普及するだろう。
描画AIを操るプロンプトを、少なくともへたくそな人間よりは、ずっと上手に生成できることは以前に示した通りである。
あまたのサービスの結節点に
今はAIの使い方自体が揺籃(ようらん)期にあるため、ChatGPT にプロンプトを生成させて、それをコピーしてStable Diffusion へペーストするという、非生産的な手順を踏む必要があったが、いずれAPIが整備されればChatGPT とStable Diffusion は直接つながる。
APIを整備するのが面倒であれば、互いに音声出力と音声入力に対応してもよい。今文字を使っているのを発声したり(ChatGPT 側)、認識したり(Stable Diffusion 側)するだけである。音声出力の技術も、音声入力から文字起こしする技術もすでに確立されている。
その場合、GPTはあまたのサービスの結節点になる。
結節点は富と力と争いを生むのだ。交通の要衝と同じだ。覇権が争われ、勝ち残った者に絶大な富と力をもたらし、敗者には搾取(さくしゅ)構造が下賜(かし)される。
仮にGPTがこの立場を獲得したとして、A社をいじめたくなったらこう囁けばいい。
「あれえ? A社のサービスとはうまくつながらないなあ。プロトコルの解釈に相違があるのかな。安定した接続が難しいので、サポート対象から外すね」
GPTを経由せずに直接A社のサービスを使ってくれる忠誠度の高い利用者がたくさんいればいいが、利便性の前に忠誠心など風前の灯火である。
グーグルのクロームで表示できないWebサイトに意味がないのと同様に、GPTと連携できないAIサービスは存在していないのと等価になってしまうかもしれない。(続く)