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【第17回】そもそもなぜ「顔」があるのか?

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★現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。この連載では、哲学者・高橋昌一郎が「教養」を磨くために必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します!

「顔」は進化が生み出した「究極の傑作」

「『顔』とはなんだろう。そもそもなぜ顔はあるのか。どこからどこまでが顔なのか。なぜそこに顔があるのか。何がついていれば顔なのか。顔は何をしてきたのか。顔がない生きものと顔がある生きものの違いとは。人類の顔はなぜこうなったのか。東洋と西洋、男と女、大人と子供の顔はどう違うのか。これから顔はどう変わっていくのか。顔についてのあらゆる疑問に、人類形態進化学の大家が答える!」

これが本書の「内容説明」である。おそらく編集者が書いたのだろうが、読者の興味をそそるという意味で、立派な「名文」ではないだろうか(笑)。

本書の著者・馬場悠男氏は、1945年生まれ。東京大学理学部生物学科卒業後、同大学大学院理学系研究科修了。獨協医科大学助教授、国立科学博物館主任研究官、東京大学教授などを経て、現在は、国立科学博物館名誉研究員。専門は、人類学・形態進化学。著書に『ホモ・サピエンスはどこから来たか』(河出書房新社)や『ビジュアル顔の大研究』(監修、丸善)などがある。

さて、「植物」は光合成によって栄養を作り出すことができるが、「動物」は餌を外部から取り込まなければならない。そこで、最初に「口」が誕生した。地中に棲むミミズには眼がないが、先端には「口」がある。つまり「口」こそが「動物」の特徴であり、その機能を高めるために、眼・鼻・耳などのパーツが付け加えられて、動物の「顔」に進化してきたというわけである。

ウマは、ライオンやトラに襲われても即座に逃げ出せるように、長い脚を持ち、立ったまま草を食べる。好きな草を選ぶのに都合がよいように口先は細く、草で眼球を傷つけないように、また視野を広げるために、眼は口から遠ざかる。こうしてウマの顔は、細長く、眼から口までの距離が長い「馬面」になった。つまり「顔」とは、環境への適応により進化した結果なのである。

ネコの顔が横に広がり丸くなったのは、獲物に強く噛み付くためだ。ネコの顎は短く、切歯で噛み付くために側頭筋(そくとうきん)が発達した。多くの動物にとって最優先事項は食べることなので、顔の先端に口がある。ところが、巨体のゾウは、口を上下左右に動かすことができず、鼻が長く発達して餌を口に運ぶようになった。顔の先端に口がないという意味で、二足歩行により手で餌を口に運ぶようになったヒトの顔は、ゾウの顔に近いと馬場氏は述べている。

本書で最も驚かされたのは、「口」のなかでも「歯」が「顔」の進化に果たしてきた重大な役割である。日本人のルーツは、約1万5千年前から日本に居た「縄文人」と約2千8百年前に大陸から渡ってきた「弥生人」の混血にある。頭蓋骨の化石のレントゲン写真を分析すると、日本人の祖先は、顎の骨がしっかりとして歯並びがよく、側頭筋や咬筋(こうきん)が発達していたことがわかる。彼らが肉を食いちぎり、乾燥米のような硬い食物を食べていたからである。

ところが、古墳時代以降、日本人は柔らかく加工された食物を食べるようになり、顔が「華奢」に変化してきた。中世から近代になると、歯槽骨(しそうこつ)が退縮し、すべての歯が並びきれず、いわゆる「出っ歯」の傾向が強くなった。馬場氏は、現代の日本の若者は「歯並びが最悪」だと述べているが、その原因は、柔らかすぎる食物にあったのである。若者よ、もっと硬い物を食べよう!


本書のハイライト

あなたの顔には、眉毛があり、眼には白眼が見える。頬から高まる鼻があり、中には鼻毛もある。唇がめくれ、赤く染まり、すぐ上に人中と呼ばれる窪みもある。じつはこんな特徴は、ほかの動物には見られないものであり、ヒトが進化の過程で獲得した「人間らしさ」の表出ともいえるものなのだ。そして、こうした特徴が、我々の祖先が文化を生み出し、文明を築くようになった原動力ともなっている。(p. 4)

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著者プロフィール

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高橋昌一郎/たかはししょういちろう 國學院大學教授。専門は論理学・科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『ゲーデルの哲学』『フォン・ノイマンの哲学』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。

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