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としまえん飲みおさめ|パリッコの「つつまし酒」#75

人生は辛い。未来への不安は消えない。世の中って甘くない。
けれども、そんな日々の中にだって「幸せ」は存在する。
いつでもどこでも、美味しいお酒とつまみがあればいい――。
混迷極まる令和の飲酒シーンに、颯爽と登場した酒場ライター・パリッコが、「お酒にまつわる、自分だけの、つつましくも幸せな時間」について丹念に紡いだエッセイ、noteで再始動! 
そろそろ飲みたくなる、毎週金曜日だいたい17時ごろ、更新です。

としまえんの思い出

 今年の8月末をもって、東京都練馬区にある遊園地「としまえん」が閉園してしまうそうです。
 僕は生粋の練馬っ子なので、子供の頃から遊園地と聞いてまっさきに思い浮かべるのはとしまえん。実際、小中高くらいまでは、家族や友達と何度となく行ったし、僕にとってのものすごく楽しい非日常空間の象徴だったといえるかもしれません。
 なんといっても思い出深いのが「アフリカ館」。薄暗くて不気味な館内をジープ型のカートに乗って進んでゆくと、先々にどう猛なタイガーやどこかの原住民のからくり人形たちが待ちかまえていて、我々のことをおどかしてくる。その絶妙なこわさとシュールさで、ある一定の年齢以上の練馬っ子は確実にトラウマをもらっているアトラクションでした。
 そしてやっぱり、プール。なんと昭和40年に世界で初めて設置されたという「流れるプール」や、そのやりすぎ感はもはや異常ともいえるウォータースライダー「ハイドロポリス」をはじめとして、さまざまに趣向を凝らしたプールがあり、楽しいにもほどがあった。よく考えると、あんなリゾートがこれまでずっと、家からそう遠くない場所に存在していたんだよなぁ、と思うと、なんだか不思議な気分です。
 それから大人になるにつれ、徐々に足は遠のいていったんですが、再び訪れる機会が増えたのがここ数年。というのも、としまえんの夏のビアガーデンがすっごく良かったんですよね!
 おつまみはじゅうぶんすぎる量がコースで出てきて、お酒は飲み放題。しかも会場の場所が、100年以上前にドイツで作られたメリーゴーラウンド「カルーセルエルドラド」の目の前。貴重な機械遺産を眺めながらヘラヘラと好きなだけお酒が飲める。さらに驚いたのがそのサービス精神。例えばラストオーダーが、よくある30分前とかじゃないんですね。制限時間の90分の5分前くらいにスタッフさんが「そろそろラストオーダーですけど何かご注文ないですか?」と聞いてくれて、ギリギリまで飲ませようとしてくれる。とっとと追い出そうとしない。いや~、今年も来年も再来年も行きたかったなぁ。

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カルーセルエルドラド

真夏の遊園地ビール

 と、思い出を語りだすといつまでも終わりそうにないのでこのへんにしておいて、そんな豊島園が閉園してしまうという。それを知って素直に「寂しいなぁ」なんて思ってたくらいだったのですが、先日、突然思ったんです。「最後にもう1回行っときたい!」と。特に、まだ3歳の娘にとっては確実に最後のチャンス。いつか、「お前ははるか昔に存在した『としまえん』という遊園地に行ったことがあるんだぞ」なんて教えてあげれば、娘にとっても何らかのセールスポイントになるじゃないですか。ならないか? まぁ、とにかく最後に家族で行っとこうと思いたったわけですよ。
 現在としまえんはコロナの影響で入場制限中。が、チケットは問題なく購入できて、閉園のちょうど1週間前の8/24、無事に訪れることができました。

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「94年間愛してくれてありがとう」のキャッチコピーが泣ける

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しっかし天気いいな

 園に着いたのが10時前くらい。昔はあんなにだだっ広く見えた園内も、むしろこじんまりとした規模に感じるくらいですね。そして、そこここに過去の時代から蓄積されてきた「いなたさ」が残っていて、それがたまらなく良い。とりあえず娘の喜びそうな「模型列車」に家族で乗って、あとは「あれ乗りたい!」「これ乗りたい!」っていう子供向けのアトラクションにいくつか乗せてやって、真夏ですからね。30分そこそこで「ちょっと涼もう」ということになり、園内の「カリーノ」というレストランへ入りました。
 思えばこのレストランでちゃんとご飯を食べた記憶ってあんまりないな。なんて思いながら、取り急ぎ生ビールを補給。真夏の遊園地で飲む生、最高にうまいっすね。

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ビール休憩

 メニューを見ると、1000円くらいで、ハンバーグやらメンチカツやらクリームコロッケやらエビフライやらをあれこれ組み合わせたセットなんかが食べられるようで、こりゃ~おつまみ選び放題だぞ。「混みはじめるであろう12時のちょっと前くらいにもう一度来て、ここでお昼を食べることにしよう」と決め、再び園の散策を開始しました。
 そうそう、今回、せっかく来たので、何か記念になるオリジナルグッズをおみやげに買って帰りたかったんですよ。と思ってショップに行ってみると、みんな考えることは同じで、すさまじい行列! でも、見つけてしまったとしまえんの公式キャラクター「としお」のイラスト入りのブルーのTシャツがどうしても欲しいし、妻もロゴ入りタオルが欲しいと言っている。というわけで、ふたりにはゲームコーナーで遊んでおいてもらって、僕が行列に並ぶことにしました。

「今までありがとう」

 30分くらいかかったかな。やっとのことで買い物を終えて家族と落ち合うと、はしゃぎ疲れたのでしょう、娘は買ってもらった風船のおもちゃを胸に、ベビーカーでぐっすりと寝っている。しかたない、とりあえず我々だけでもご飯を食べはじめちゃおうと思い、12時を少し過ぎてしまったけどもレストランへ向かうと、お店の外までず~っと続く長蛇の列。だめだこりゃ。
 最後に「乗りおさめ」しておきたいアトラクションなんかもあったんですが、この暑いなか娘をほっとくわけにもいきませんからね。とりあえず、最後にもう一度、としまえんに来れた。考えてみたらそれだけでもじゅうぶん。よし、帰るかぁ、ということになりました。

 ただ、本当に最後のわがまま。もう一杯だけとしまえんで「飲みおさめ」をして帰りたい。見れば、カルーセルエルドラド近くの昔ながらの売店で各種スナック類やアルコールが販売されている。木陰のベンチも空いている。妻に許可を得、フランクフルトを1本ずつとレモンサワーを購入。「としまえんよ、今までありがとう」と、ちょっと感傷に浸りつつ、キレがあってなかなか酒飲みの好みをわかってらっしゃるレモンサワーを飲み干したのでした。

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この場所で開催されてたビアガーデンで、何度も飲んだな

 としまえんは3年後、「練馬城址公園」として整備され、一般開放。一部のエリアは「ハリー・ポッター」の体験型施設になるんだそうで、昨今はとしまえんファンによる、「ハリー・ポッターならUSJにあるじゃん! としまえんのままがよかった~」なんて嘆きもよく聞きます。もちろん僕もそんな風に思ってました。
 が、決まってしまったのならしかたない。最近の僕は、こうなったらそのハリー・ポッターに一番乗りし、誰よりも早い「ハリポタ酒」を楽しんだろうかな、なんて思ってますけどね。

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。著書に『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)など。Twitter @paricco



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