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【68位】ジェフ・バックリィの1曲―鳴り止まぬ祝福の歌、天の下に「You and Me」がいるかぎり

「ハレルヤ」ジェフ・バックリィ(1994年8月/Columbia/米)

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Genre: Folk, Alternative Rock
Hallelujah - Jeff Buckley (Aug. 94) Columbia, US
(Leonard Cohen) Produced by Andy Wallace
(RS 264 / NME 89) 237 + 412 = 649
※68位、67位が同スコア
※初出はアルバムで、シングルは07年になってようやく発売された

とにかく、いや本当にもう、いつまでも果てしなく……TVドラマや映画の挿入歌に使用され続けている曲だ。なかでもとくに、このジェフ・バックリィのヴァージョンが、至上の名演・絶唱として、広く愛されている。「ホーリーな」響きの、この歌が。

たとえば、歌唱コンテストで出場者が歌うナンバーの定番中の定番曲が、彼のこのトラックだ。だから人気番組『アメリカン・アイドル』の出場者が上手に歌ったせいで、当トラックが08年3月にビルボードのホット・デジタル・ソングスの1位を奪取した。このときすでに、バックリィが世を去ってから随分経っていたのだが。

30歳の若さで彼が没した97年から10年後の07年、このトラックは初めてシングル化された。初出はバックリィが生前に完成させた唯一のアルバム、94年発表の『グレース』(『教養としてのロック名盤ベスト100』では99位)の収録曲としてだった。好評価の一方、セールス的に伸び悩んだ同作は、彼の没後に再注目されることになった。その先に「バックリィのハレルヤ」の、とてつもない広がりが、待っていた。

ギター1本(テレキャスター)とヴォーカルのみで、まるで「感情の星雲」とも呼ぶべき無尽の歌空間を自由自在に飛翔する様は、まさに圧巻だ。歌詞の冒頭における旧約聖書エピソードの引用(ダビデ王とバトシェバ、サムソンとデリラ)と、パーソナルな恋愛生活が対比的に描かれていく。愛する喜悦と同時にある苦しみ、そして恍惚――心のこうした振幅と、神を賞賛する言葉「ハレルヤ」が等号でつながっていくその様に、聴き手は強く吸引された。その美しさ、はかなさに。その官能的なまでの「人間くささ」に――。

というこのナンバーを書いたのは、カナダを代表するシンガー・ソングライターのレナード・コーエンだった。彼の84年のアルバム『ヴァリアス・ポジションズ』が初出。書き上げるまでに5年を要し、全80節にも及ぶ大作だったという。最初にライヴでカヴァーしたのは88年のボブ・ディラン。そして「最初に録音した」のが元ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのジョン・ケイルで、彼はコーエンから取り寄せた詞の全部を見た上で「気に入ったところ」のみを抜き出して自分ヴァージョンとした。バックリィ版は、このケイル版に準拠している(だから、諧謔味の強いコーエン版とは、かなり趣が違う)。一説には「録音されたもの」だけで300は下らないという、そんな全地球的「ハレルヤ」界の頂点に屹立するのが、何人もの手を経てたどり着いた、これだ。

(次回は67位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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