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山口周さんの幻のデビュー作『グーグルに勝つ広告モデル』を全文公開! introduction

光文社の三宅です。

「デビュー作にはその作家のすべてがある」と言われます。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』でブレイクした山口周さんのデビュー作は、2008年5月刊行の『グーグルに勝つ広告モデル マスメディアは必要か』でした。オビには「テレビCMが効かない!?」「消費者がわからない、モノが売れないと悩む人、広告・マスコミ関係者必読!」とあります。

当時は、テレビ・新聞を中心としたいわゆる「4マス」が、インターネットに食われて近いうちに消滅するのでは、という言説があふれていました。たしかにネット接触時間の割合は急激に高まり、多くのマスコミ・広告関係者は戦々恐々としていたと思います。

ただし、マスコミ消滅論の多くは、それほど精緻なものではなく、いたずらに危機感を煽るだけでした。そんななか、ネットの台頭とそれに伴うマスメディアの未来を、エビデンスを用いてしっかり整理しようとしたのが『グーグルに勝つ広告モデル』でした。

「おいおい、山口周さんのデビュー作というけれど、著者名は岡本一郎ってなってるよ。何かの間違いじゃない?」というツッコミが聞こえてきそうですが、当時、諸事情あり、ペンネームでの刊行となりました。正真正銘、山口周さんが書かれたものです。

繰り返しますが、本書の刊行は2008年5月です。ですので、本書にはSNS、iPhone、スマホという言葉は出てきません。ツイッターフェイスブックも登場しません。日本でiPhoneが発売されたのは2008年の7月です。正直、本書で現在のメディアに関する最新情報を入手することはできません。

では、今、本書を読むことの価値はどこにあるのでしょうか?

ひとつはその予測の鋭さと、それを導き出した思考法です。

2007年にインターネットの広告費が雑誌の広告費を抜き、同時にテレビ、新聞、雑誌、ラジオのマスコミ4媒体の広告費がいずれも前年割れしたのに対して、インターネットの広告費は124.4%の伸びを示しました。このような状況で、既存メディアはどうビジネスモデルを変えればいいか、また、インターネットをどう有効活用すればいいか、という問題意識で書かれたのが本書です。

もちろん、本書の内容が全て当たったというつもりはありませんが、かなりの部分で、現状の4マス(死語)とインターネットをめぐる状況を言い当てています。このような予測を可能にしたロジカルシンキングとデータの使い方、古今東西の古典や名著からの叡智や思考のジャンプは、今を生きる私たちにも大いに参考になります。

もうひとつは、先ほどの思考法とも重なりますが、「プロセス」「モード」です。これは『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』に出てくる考え方ですので、その部分を引用してみましょう。

現代を生きるビジネスパーソンにとって、「哲学から得られる学び」には、大きく3種類あります。
それらは、1.コンテンツからの学び、2.プロセスからの学び、3.モードからの学びということになります。
コンテンツというのは、その哲学者が主張した内容そのものを意味します。次にプロセスというのは、そのコンテンツを生み出すに至った気づきと思考の過程ということです。そして最後のモードとは、その哲学者自身の世界や社会への向き合い方や姿勢ということです。
これら三つの学びを整理しないままに哲学書に接しても、おそらく現代を生きる私たちにとって有用な示唆や気づきは得られないと思います。
というのも、例えば古代ギリシアの哲学者の論考内容は、すでに自然科学の検証によって「誤り」であることが判明しているものが少なくないからです。これはつまり、先ほどの枠組みで言えば、「1.コンテンツからの学び」に関わるところで、要するにコンテンツとしては全然ダメだということです。
しかし、ではその哲学者の考察から何も学べないのかというと、そうではない。その哲学者がなぜそのように考えたのか、どのような知的態度でもって世界や社会と向き合っていたのか、という点については、いくら実際の論考内容=コンテンツが誤りであったとしても、私たちにとって学びとる点はたくさんあるわけです。(『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』P231~233)

つまり、コンテンツは古くなっても、「なぜそのように考えたのか」(プロセス)、「どのような知的態度でもって世界や社会と向き合っていたのか」(モード)という点では、学びを得られるわけです。

前置きが長くなりました。本論に入りましょう。『グーグルに勝つ広告モデル』の章立ては以下のようになっています。

はじめに/1章 マスメディアの本質は「注目=アテンション」の卸売業/2章 アテンションのゼロサムゲームから脱却できるか?/3章 マスメディアの競合としてのインターネットメディア分析/4章 4マスメディアvs.インターネット/5章 テレビvs.インターネット/6章 オンデマンドポイントキャスト事業の提言/7章 ターゲットメディアとしてのラジオの確立/8章 情報のコモディティ商戦から新聞は抜け出せるか/9章 ネットとの差別化に特化する雑誌/10章 合従連衡によってプレイヤーの数を減らす/11章 なぜ、それでもマスメディアは必要なのか/12章 コンテンツ論/13章 マーケッターに求められるパラダイムシフト

これから1章ずつ公開していきます。なるべく短いスパンで公開していきますので、ぜひご期待ください。



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