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自宅で豪華「うな“かま“重」|パリッコの「つつまし酒」#120

そりゃあたまらなく食べたいけれど

 うなぎというのは本当に難しい食べものですね。
 まずもって、圧倒的にうまい! たっぷりとタレをまとった香ばしい焼き目とふわっふわの身、うなぎの他にはない力強い脂のこってり感、それをこれまたタレのよ〜く染みこんだ白ごはんと一緒に食べれば、そりゃあもう、極楽としか言いようのない美味しさが口いっぱいに広がり、脳内が幸せ物質で満たされていきます。
 ただし昨今は、うなぎを思うぞんぶん食べたいだけ食べていいという時代ではなくなってきましたね。そもそもがお高いものなので、そんなに頻繁には食べられなかったけど、そういうことではなくて、現在、ニホンウナギの数が急激に減っていて、絶滅危惧種に指定されているという問題。さらには、それでも高値で取引されてしまうことから、日本で流通しているうなぎのなんと5〜7割が、密漁や不正ルートから輸入されるシラスウナギから育てられているなんて話もあります。
 それから「土用の丑の日」問題。そもそもうなぎの旬は秋から冬にかけてで、江戸時代、夏に売り上げの少ないうなぎ屋から相談された当時の名コピーライター、平賀源内さんが「土用の丑の日に『う』のつくうなぎを食べよう!」というキャンペーンを考えたところ、それが大ヒットして定着したって話は有名ですよね。
 なのでここ数年の僕のスタンスは、うなぎは大好き。いつだって食べたい。だけど、旬の時期に、しかるべき専門店で、年に1〜2度の特別な贅沢にとどめよう。という、なんとももどかしいおつきあい。
 ところがですよ。土用の丑の日が近づくと街はうなぎ一色。スーパーには派手な売り場が登場し、牛丼チェーン各社はこぞってうなぎメニューを出し、さらにはコンビニでまでうなぎ弁当が販売されている。そんなのを見ちゃったら、そりゃ食べたくなりますよ! 僕だって、うなぎ!

うなぎ欲の救世主「うなぎ風かまぼこ」

 ところが数年前、そんなうなぎ欲をけっこうな割合で解消してくれる、びっくりな商品の存在を知りました。それが、うなぎの蒲焼を模した魚肉練り製品、いわば「うなぎ風かまぼこ」、一正蒲鉾の「うな次郎」。興味本位で食べてみると、これが驚くほどにうなぎっぽいんですよね。もちろんうなぎ独特の風味が完全に再現しきれているわけではないけれども、食感がかなり近く、それを問答無用なあのタレと白メシと一緒にほおばると、気分はかなりうなぎ。
 さらに近年は、カネテツデリカフーズの「ほぼうなぎ」、スギヨの「うな蒲ちゃん」「うな一(うなっち)」など、同じようなうなかま商品も種類豊富らしい。よし、今日は久しぶりに、自宅で超豪華なうな重、じゃなくて“うなかま重”を作り、思いっきりうなぎ欲を満たしてやろう!
 というわけで、地元スーパーをくまなく巡り、手に入ったのが「うな次郎」と「うな一」の2品。それから山椒と「追いダレ」も準備。山椒は、愛用しているミルつきの実山椒を切らしてしまっており、見つけたなかでいちばん上等そうなエスビーの「日賀志屋 国産山椒 10g」というのを買ったら約600円で、うなかま2品を合わせたより高くなってしまったんですが、うなぎがフェイクなんだから、せめて山椒にはこだわらないとですもんね。ひょうたんの形のケースもかわいいし、ありあり。

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気合十分!

 さて、これらうなかま商品はレンジでチンするだけで手軽にうなぎ気分が味わえるのが魅力のひとつ。ですが、もうひと手間加えるとさらに満足度が向上するんです。それが、少量の油をひいたフライパンで焼き、最後にタレを絡めるという方法。

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これが素のうな次郎

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途中でタレを投入し、両面に焦げ目がつくまで

 するとどうでしょう? ご覧のとおり、うなぎの蒲焼感が段違い!

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こちらは素のうなっち

 この作業をうな次郎、うなっちとくり返しますが、最初の見た目からしてけっこう違うもんですね〜。うなっちのほうがふっくらと肉厚で、最初から美味しそうな焦げ目がついてる。こっちは初めてだから、どんな味か楽しみだな〜。

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うなっちも焼きあがり!

2種のうなかま重ね食べの贅沢

 ちょうど先日リサイクルショップで手に入れた、今回の計画にちょうどいいにもほどがある渋い二段重が家にあったので、そこに控えめな量のごはんとともに盛りつけ、「肝吸い」のかわりに永谷園の「松茸の味お吸いもの」を用意し、さぁいよいよ、うなぎ気分満喫タイムです。

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完璧だ

 自分で詰めたからもちろん中身は知ってるんだけど、できるだけ頭を空っぽにしておいてから、おずおずとフタを開けてみる。するとそこには、あまりにもテンションの上がる光景が!

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本物だったらいくらするんだ!?

 いいないいな〜、どう見たってうなぎだぞこりゃ(薄目で見れば)。これを今から、ぜ〜んぶひとりで食べちゃっていいんだ。夢じゃないかしら。
 と、まずはそれぞれをシンプルに味わってみます。うな次郎は食べ慣れた美味しさ。かまぼこ史上類を見ないこのふわっふわな食感はどういうことなんだろう。それから、あらためて味わってみると、香ばしさというか若干の苦味というか、いわゆる炭火焼きっぽい風味も再現されてますね。
 続いてうなっち。食べ比べてみるとぜんぜん違う! もっちりと肉厚で、なんだかうなぎとも違う動物性のガツンとした旨味のようなものが効いている気がします。そう思って裏面の原材料を見てみると、「豚脂」の文字が。これでその他の魚にはないうなぎの力強さを再現しているということなのかな?

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山椒をドバーッとかけて

 それでは小難しいことを考えるのはやめ、蒲焼と白メシをがつがつがつとかっこんで、思うぞんぶんうなぎ気分を満喫しましょう。重要なのは、容赦なく山椒をぶっかけること。
 一の重をがつがつ。ニの重をがつがつ。ビールをグビグビ。っかー! 食べれば食べるほど勢いが増してきて、どんどん自分が食べているのがうなぎに思えてくる。
 そして食べ進めるうちにさらなる発見が。うな次郎、うなっち、どちらもじゅうぶんに満足できる品質なんですが、ふと思いつきましたよ。両方一緒に食べてやったらどうかと。

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2種のうなかまを重ね食べ

 つまり、もしかしたらあまりやったことがある人はいないかもしれない、種類の異なるうなかまを2枚重ねて、一気に食べてやろうというわけ。
 どちらかというと、皮っぽい雰囲気も、ふわふわな食感もうなぎに近いうな次郎を舌に当たるよう下段に。味にパンチがあってボリュームもあるうなっちを上段に。これを白米とともに一気にほおばると、うわ! これは今日イチかもしれない。両方の特徴がうまいこと混ざり合って、もはやほぼうなぎだ! すごいぞこれ!
 さて、すでに大満足なんですが、最後に本物じゃないからこそできる遊びを試してみましょう。
 大阪の「じねん」という寿司屋さんに、うなぎの上にバターをのせた「うなぎバター」という名物寿司があります。簡易的にそれをまねしてみようということで、米、タレ、うな次郎、うなっちが入り乱れたお重に、ぽとんとバターをのせる。

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禁断の……

 そこに追いダレまでをも追加し、全体をぐしゃぐしゃ〜っと混ぜる! 見栄えなんてどうでもいいんです。うなかまとうなタレと白メシが渾然一体となり、そこにバターの香り、甘み、コクがガッツーン! と加わる。これはもう、どう考えたってうまいに決まってるでしょう。
 実際、最終的には無心でこれをかっこみながら、もはや自分がうなぎを食べているとしか思えませんでした。
 理想ではゆっくりじっくり味わいつつ、後半は日本酒に切り替えて、なんて思ってたんですが、現実はふたつのうなかま重と500mlのビール、生き急ぐように食べ終え、瞬殺で目の前から消えていました。

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。
2021年7月には、新刊『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)を上梓。美しいカバーイラストは必見! また、『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。Twitter @paricco

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