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【第7回】なぜエジプトは人々を魅了するのか?

■膨大な情報に流されて自己を見失っていませんか?
■デマやフェイクニュースに騙されていませんか?
■自分の頭で論理的・科学的に考えていますか?
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今も謎のクレオパトラの墓

2020年11月14日、エジプト政府は、首都カイロ近郊のサッカラ遺跡で、2700年以上前の100基以上の封印された棺を発掘したことを発表した。公開されたのは、古代エジプト第26王朝からプトレマイオス王朝時代(紀元前8世紀~紀元前1世紀)に埋葬されたと推定される棺・ミイラ・副葬品で、保存状態は良好だという。壮大なロマンを掻き立てる大発見ではないか!

本書の著者・篠田航一氏は、1973年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、毎日新聞社入社。東京本社社会部記者・ベルリン特派員・カイロ特派員などを経て、現在は外信部デスク。著書に『ナチスの財宝』(講談社現代新書)や『ヒトラーとUFO』(平凡社新書)などがある。

さて、2017年から3年間、カイロ特派員としてエジプトに赴任した篠田氏が惹かれたのは、5000年前から今も続く「盗掘」の話である。ルクソールの土産物店に入ると、墓から盗掘したという副葬品の「本物の遺物」を店主がレジの下から取り出して売ろうとする。私にも経験があるが、なぜか彼らの表情は「骨董品」を高値で売りつけようとする日本人に似て、胡散臭い(笑)。

ファラオの神権政治に基づく古代エジプトは栄華を誇り、多くのピラミッドを建設した。しかし、プトレマイオス王朝最後の女王クレオパトラがローマ帝国のオクタヴィアヌスに敗れて紀元前30年に自殺し、王朝は滅亡する。その後、エジプトの「墓泥棒」は、盗賊はもとより国家レベルで行われてきた。

ローマ帝国からヴィザンチン帝国時代、ミイラに「ビチュメン」と呼ばれる「万能薬」が塗られているという迷信が流行し、盗掘されたミイラがヨーロッパに密輸された。実は、ミイラの肌が漆黒なのは、保存用に皮膚に塗られた樹脂が化学変化したからだが、当時はフランシス・ベーコンのような知識人でさえ、ミイラの表皮を削って「血止め薬」に用いていたという。

18世紀、エジプトは軍事的要衝とみなされた。イギリスと敵対するフランスは、1798年、29歳のナポレオン・ボナパルト将軍を遠征させて、エジプトを侵略する。ナポレオンは、軍隊と一緒に、医学・化学・薬学・地理学・建築学などを専門とする科学者170名を同行させた。彼らはエジプトに関する研究成果を発表し続け、1929年に貴重な『エジプト誌』全23巻を完成させた。

ナポレオンの遠征軍が発見した「ロゼッタ・ストーン」には、古代エジプト語の「神聖文字(ヒエログリフ)」・「民衆文字(デモティック)」と「ギリシア文字」の3種類の文字で同一文が記述されている。この宝を、ナポレオン軍を破ったイギリスが戦利品として持ち帰り、今も大英博物館に展示している。エジプト政府の返還請求に対して、イギリスはレプリカだけを渡した。

本書で最も驚かされたのは、ドミニカ共和国の弁護士キャスリーン・マルティネス氏が、2005年から「私費」を投じて、今も謎の「クレオパトラの墓」探しに挑んでいるということだ。篠田氏のインタビューによると、彼女は「徐々に発見に近づいています。証拠を積み上げ、真実に迫る。それは法律家の仕事と一緒です」と話したという。古代エジプトの謎は、国籍・性別・年齢・職業などに関わりなく、全世界のあらゆる人々を魅了するらしい!(笑)


本書のハイライト

エジプトには「ナイルの水を飲む者は、ナイルに帰る」とのことわざがある。冗談じゃない。ナイルの水は不衛生で、とてもそのまま飲む気になれない。水に限らない。エジプトはテロの危険があり、ぼったくりは日常茶飯事で、万事いい加減な人も多く、予定が予定通りに進んだためしがない。悪態をつけばキリがない。でもそんなエジプトを初めて旅した二〇歳の頃から、実はずっとずっとあの国に惹かれ続けている自分がいる。(p. 249)

第6回はこちら↓

著者プロフィール

高橋昌一郎_近影

高橋昌一郎/たかはししょういちろう 國學院大學教授。専門は論理学・科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『ゲーデルの哲学』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。

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コメント (9)
古代エジプト文明の遺産に人々が特に魅了される事には様々な要因が考えられました。中でも特に、独自に発展した文明であるという事実が挙げられると思います。古代エジプト人は独自の技術や神話体系などの文化を持ち、こと技術面においては当時の世界の技術レベルに比してかなり進んでいたということが、代表的な巨大建造物であるピラミッドやスフィンクス像、あるいはパピルスと呼ばれる筆記媒体を見れば理解できるでしょうか。彼らがそうした独自の技術を発展させたプロセスは現在でも研究が続けられる程に興味深いものであるということは言うまでもありません。
 また、彼らは神話に基づいた独自の埋葬方法として有名な「ミイラ」を作る事で知られていて、ミイラの作成自体も高度な技術によるものであることがわかっていますから、そうしたスピリチュアルな行為に高い技術力がプロセスとして使われていたという点で彼らの行動心理等もある種研究対象となり得るのではないのでしょうか。(K180762)
まず初めに「なぜエジプトは人を魅了するのか?」というタイトルを見て確かにその通りだと思った。当然今までそのようなことを考えた事もなかった。ミイラにはビチュメンと呼ばれる万能薬が塗られているという情報は現代人の私達からしたらそんな訳ないと言う事ができるが、当時の人々には当然それを確かめる術がないこのようなデマなどの誤った情報に踊らされることによって人々は今まで戦争をしていたのだと感じた。そしてそれは新たな問題が発生する事が考えられるこれからの将来も当然当てはまると思う。今の時代SNSなどのインターネットが発達しているため一層そのようなデマに流されるリスクが高いと思う。私自身も耳にした情報をそのまま捉えてしまい誤った情報を広めてしまったと言う経験がある。情報の大流に足を踏み入れて行く者の一人として間違った道で歩んでいくいのではなく正しい情報を出来るだけ選択して歩んでいく必要があると感じた。(H190796)
エジプト文明は、今の私の生活からは遠いからこそ惹かれるものがある。エジプトは砂漠地帯だが、ナイル川の恩恵を受けたことによって文明が栄えたということも魅力的で、巨大な王墓ピラミッド・ツタンカーメンの黄金のマスク・ミイラ・死者の書など残されているものも、非常に興味を惹かれる。墓泥棒というと日本の古墳でも行われていたそうだが、墓のために莫大な金やたくさんの人間が使われた王と、そこから盗みを行うことで儲けを得ていた人間との格差を感じてしまう。盗みを行い、売りつける人間にとっては、偉大な王や文明など、それほど大切ではないのかもしれない。だが、エジプトの墓泥棒は国家レベルで行われ、ドミニカの弁護士がクレオパトラの墓探しに私費を投じてしまうほどだということには驚いた。エジプト文明には、知れば知るほど惹かれるような魅力があるのだろう。ローマ帝国の建国の歴史に関わったり、ナポレオンが戦利品として持ち帰ったりしたというドラマチックな歴史に、私は最も惹かれてしまった。(J180237)
私はNetflixで「ミッドナイトゴスペル」というアニメーションシリーズを見てエジプト文明に興味を持った。「ミッドナイトゴスペル」に心臓と羽を天秤にかける様子が描写されていたことに既視感を覚え、調べたら死者の書に掲載されている絵だった。このような小さなきっかけでも一人の人間を魅了してしまうエジプト文明はとても奥深いものである。想像できないくらい昔の文明なのに、女性が王権を持っていたことも勇気づけられる。1人の女性が1つの国を統治していたという事実は、長らく世界的に発生しなかったことであり、ここ最近で再度女性によって政治が行われる国が出現してきた。クレオパトラはフェミニストではなかったと思うし、その当時はまだ男女が同権であったかもしれないが、女性の活躍という点からみると私たちの大先輩でもあると考えられる。そんなクレオパトラに敬意を込めて、エジプト文明についてたくさん勉強したいと考えている。(K170219)
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