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【第74回】どうすれば「絶滅危惧種」を救えるのか?

■膨大な情報に流されて自己を見失っていませんか?
■デマやフェイクニュースに騙されていませんか?
■自分の頭で論理的・科学的に考えていますか?
★現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。この連載では、高橋昌一郎が「教養」を磨くために必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します!

身近にいる「絶滅危惧種」

1997年、「身近な自然を守ること」を目標に「NPO birth」が設立された。このNPOが「ミッション」として掲げる「自然と人間のよりよい関係」とは、「より多くの人々と、身近に自然があることの大切さ、喜びを共感し、自然や生態系を守るための知識や技術を学び、ともに行動する」ことである。
 
「NPO birth」は、拠点とする全国の公園緑地で、次の7つの「公園力」を高めるために活動している。「自然を守り・育てる:失われた自然や生態系を取り戻し、未来のために守り抜く」「教育・遊びを子どもたちに:自然や生きものについて学び、自ら自然を守れる人間に育てる」「健康とレクリエーションを:地域住民の健康的生活や楽しみの場を提供する」「文化・芸術を発信する:さまざまなイベントのテーマを通じ、文化の継承と交流を図る」「コミュニティに絆を:イベントやボランティアの育成・支援を通じて、絆を紡ぐ」「まちへの経済効果:公園緑地の魅力を高め、魅力的なまちづくりに貢献する」「都市の防災をサポート:災害時の避難場所として、また復興活動の拠点に」
 
これら7つの「公園力」を一つ一つ考えてみると、改めて都市における公園の重要性に気付かされる。私も、渋谷にある本務校からの帰り道に、広尾の「有栖川宮記念公園」や目黒の「国立科学博物館附属自然教育園」や浜松町の「浜離宮恩賜庭園」を散策することがあるが、東京の中心とは思えない豊かな自然を楽しむことができる。まさに公園は「都会のオアシス」といえる。
 
本書の著者・久保田潤一氏は1978年生まれ。東京農業大学短期大学部卒業後、茨城大学理学部卒業。環境コンサルティング会社勤務を経て、特定非営利活動法人「NPO birth」職員。現在は自然環境マネジメント部部長。専門は、生物多様性保全・環境保全。論文の他、本書は初めての一般向け新書である。
 
さて、久保田氏が北海道から沖縄まで全国60カ所以上の公園で精力的に取り組んできたのが、池の水を抜いて生態系を取り戻す「かいぼり」と呼ばれる作業である。オオクチバス・ゲンゴロウブナ・アメリカザリガニ・ウシガエルのような繁殖しすぎた生物を駆除して池を浄化し、日光が水中に届くように水質を改善する。水草が復活するとトウキョウサンショウウオ・ゲンゴロウ・ニホンアマガエル・カイツブリといった「絶滅危惧種」が戻ってくる。
 
本書で最も驚かされたのは、日本各地の池に生息する「錦鯉」をはじめとする「鯉」の大多数が外来種であり、池の生態系に多大な迷惑を及ぼしていることだ。そもそも鯉は雑食性で、水草や貝類や水生昆虫を大量に食べてしまう。さらに頭の下側にある大口で池の底泥を巻き上げながら餌を探す習性があるため、沈殿している窒素やリンを水中に広げ、それらを好む植物プランクトンが増殖する。だから、鯉が多い池の水は濁り、水草が絶滅してしまう。
 
日本人は端午の節句に「鯉の滝登り」にちなんだ「こいのぼり」を飾り、「鯉こく」や「鯉のあらい」を食し、鯉を池や川や湖に放流して餌を与え増殖させてきた。それが生態系の未来に何をもたらすのか、本書を熟読してほしい!

本書のハイライト

池の水を抜いてかいぼりしているとき、トウキョウサンショウウオの産卵場所を掘っているとき、草地を広げているとき、僕はたいてい、妄想している。数十年後に僕がこの世を去っても、これらの場所で生き物たちが生き生きと暮らし、命をつないでいる様子を。数十年後の子どもたちが、そこで生き物と触れ合っているシーンを。今、そんな仕事をしているんだ、そう思うと、顔がニヤけてしまう。夢見ているのは、都会の中にも当たり前に質の高い自然があって、そこに鳥や獣が暮らし、子どもたちが虫採りをしている社会。すべての絶滅危惧種の数が増え、普通種になった世界。途方もなさすぎて永久に実現不可能かもしれないが、夢想することはやめられそうにない(p. 275)。

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著者プロフィール

高橋昌一郎/たかはししょういちろう 國學院大學教授。専門は論理学・科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『フォン・ノイマンの哲学』『ゲーデルの哲学』『20世紀論争史』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。

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