【第35回】なぜマンデラは「アパルトヘイト」を撤廃できたのか?
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【第35回】なぜマンデラは「アパルトヘイト」を撤廃できたのか?

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「分離」から「和解」へ至る道

ネルソン・マンデラは、1918年7月18日、アフリカ南部のテンブ王家に生まれた。父親は王の相談役であり、マンデラは、「親切、思いやり、もてなし、自分が他人と結び付いていると知ること」を意味する「ウブントゥ」という「伝統」を受け継いだ。この伝統が将来の「和解」へと彼を導くのである。

マンデラは、メソディスト派のミッションスクールで「黒い英国人」養成教育を受け、ヴィッツ大学法学部を卒業して弁護士になった。身長190センチで趣味はボクシング、早朝のジョギングが日課だった。ヨハネスブルク唯一の仕立屋でスーツを仕立て、黒人文化雑誌『ドラム』のグラビアを飾った。

つまりマンデラは、王家出身の弁護士、しかもファッショナブルなスポーツマンとしてアフリカ黒人社会のアイドルだったのである。その彼が「アフリカ民族会議(ANC)」の指導者として黒人解放運動の先頭に立つようになった。

当時の南アフリカでは「アパルトヘイト(分離)」が法制化され、「白人」と「非白人」の権利が明確に区別されていた。郵便局の窓口から公園のベンチに至るまで、あらゆる公共施設が「白人用」と「非白人用」に分離され、人種の違う者同士の結婚は禁止、恋愛関係になるだけでも刑罰が処せられた。

1952年に法制化された「パス法」では、16歳以上の黒人が、人種・住所・勤務先・病歴・納税歴・犯罪歴などすべてを記した「身分証」を常時携帯しなければならない。この法律によって、黒人のあらゆる行動が監視された。

当初、ANCが行ったのは「不服従運動」である。ストライキやデモに加えて、黒人が故意に駅の「白人用」出入口を利用して逮捕され、留置場を満杯にする。この運動は次第にエスカレートして、1960年3月21日、5千人以上の黒人が身分証を持たずにシャープビルの警察署前で抗議デモを行った。迫ってくる群衆にパニックを起こした装甲車の警官が発砲し、69人が虐殺された。

この「シャープビル虐殺事件」に黒人は激怒し、南アフリカ全土が騒乱状態に陥った。3月30日には「非常事態宣言」が発令され、ANCは地下に潜った。マンデラら指導者は、解放運動を武装闘争に転換し、官庁や発電所の破壊工作を指示した。1964年6月、逮捕されたマンデラに終身刑が言い渡された。

結果的にマンデラは、44歳から71歳までの人生の27年間、獄中生活を送った。この時期の様子は、映画『マンデラの名もなき看守』に克明に描かれている。白人の看守がマンデラの人間性に惹きつけられ、仲間から「黒人びいき」と殴られる。だが彼の白人の妻も徐々にマンデラを尊敬するようになる。

釈放されたマンデラは、1994年、南アフリカ共和国大統領に選出された。翌年に開催されたラグビー・ワールドカップで彼が決勝戦の会場に姿を現すと、黒人と白人が一緒に「マンデラ・コール」を起こす。人種を超えて共に代表チームを応援する彼らの姿は全世界10億人の前に放映され、「和解」の象徴となった。この光景は、映画『インビクタス』に感動的に描かれている。

本書で最も驚かされたのは、80歳の誕生日を迎えたマンデラが3度目の結婚式を挙げ、披露宴にスティーヴィー・ワンダーやマイケル・ジャクソンら著名人2千人が世界中から集まったことである。歴史的事実を冷静に述べた本書だが、その行間からマンデラの人間的魅力を十分読み取ることができるだろう。


本書のハイライト

今われわれは、偏狭なナショナリズムが跋扈する世界に生きている。他方マンデラは、そのような分断を超え、誰もが想像し得なかった「和解」を成し遂げた人だった。一九九一年のアパルトヘイトの撤廃から三〇年、二〇一三年のマンデラの死から八年が経ったが、彼の経験を振り返ることで、偏狭なナショナリズムを超えるビジョンが見えてくるかもしれない(pp. 6-7)。

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著者プロフィール

高橋昌一郎_近影

高橋昌一郎/たかはししょういちろう 國學院大學教授。専門は論理学・科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『フォン・ノイマンの哲学』『ゲーデルの哲学』『20世紀論争史』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。

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