妻をサポートする夫。「低欲望社会」における理想の夫婦関係とは!? | 辛酸なめ子 #15
活躍する妻を支える夫たち
「男性は仕事をして女性は家庭を守る」そんな価値観が古くなっている昨今、活躍する妻を支える夫が増えていると聞きます。
奇しくも先日、ご結婚された眞子さん小室圭さんのご夫婦の話題もありました。小室圭氏が、誰もが合格を疑っていなかったNY州の弁護士の司法試験に落ちてしまい、収入の見込みが大幅に減少。眞子さんが高収入の仕事に就かれないと、物価が高いNYでは生活が詰んでしまいそうです。小室さんは心機一転、今後は眞子さんの仕事での活躍を支えつつ、ロークラーク(法律事務員)として働き、受験勉強に勤しむのでしょうか。
結婚会見でも、実はこれまで2人の関係において眞子さんが主導権を持っていたことが明らかになりました。借金問題を眞子さんの意向で対処してもらったり、海外に拠点を作ってもらったり……。
特に「圭さんが独断で動いたことはありませんでした」という一言もインパクトがありました。世界中に、独断で動いたことがない男だと知らしめられても特に気にしていない様子の小室さん。もしかしたら妻を立てる献身的な一面も持っていたのかもしれません……。
「献身的で素敵な夫」と
「バリバリ働く妻」2組の夫婦に話を聞きました
周りに目を向けると、献身的で素敵な夫と、バリバリ働く妻、というカップルが結構いて、先日もそんな2組の夫婦(40~50代)とホームパーティでご一緒する機会がありました。後学のためにも、理想の夫婦関係についてお話を伺わせていただきました。
音楽関係の仕事をしていてスクールも経営しているつばささん(妻)とシンジェルさん(夫)ご夫妻。女性活躍推進のための活動をしながら会社を経営しているニキータさん(妻)と、その旦那さんのジローさんご夫妻です。
つばささんいわく「ニキータさんはジローさんに、いつもすごいホメられるんですって。『君は希望だ』とか言って。ニキータさんはそれでめっちゃ出世していくんです」
「自然に奥さんをホメていたらどんどん出世していきました」とジローさん。
ジローさんがニキータさんと付き合いはじめた頃、サブフライムショックやリーマンショックが起こり、不動産関係の仕事をしていたジローさんは無職になってしまったそうです。ニキータさんが働いている間、家でひとり焼き芋を食べたりゴロゴロしていたとか。財産の大半は会社の株だったのですが、倒産によってその株は紙くずに……。
でもめげずに、ニキータさんをホメて励ましていたら、そのポジティブな言霊がジローさんに返ってきたのか職も決まり、出世して、2人ともお金持ちになっていきました。
普通、家で無職の彼や夫がダラダラしていたら不安や怒りがわきあがりそうですが、お2人の場合はポジティブさを失わなかったのが良かったのでしょう。
「私が思うのは、この夫と一緒じゃなかったら今の私じゃなかった。ホメ上手でやる気にさせてくれるんです。私は自分で決めてコントロールしたいタイプなので、ジローさんはそれを受け入れてくれるのも良かったですね」
と、ニキータさん。
「女性活躍推進のコンサルタントしているのでのですが、役員の女性を見てると、共通点が旦那さんが皆さんサボータータイプだったり優しくて、奥さんを支えているんです」
優しくて肯定してくれて支えてくれる夫……欲を言えばイケメンだったらさらにモチベーションが上がります。ちなみにジローさんは具体的に何て言ってホメてくれるのでしょう。
「ニキータさんのおかげですよって毎日毎日言われてるのでその気になってくるんです。ニキータさんあっての僕ですって。よろしく頼むよみたいな感じでいっつも言われてる」
何か経済力とか仕事力にまつわるホメ言葉が多い気がしますが、「キレイだよ」とかは言われないんでしょうか。
「そういうのは一度もない。能力とかそっち系ですね」と、割り切った様子のニキータさん。女性だったら外見系のホメもちょっと入れてもらえたら嬉しいですが、人によって心に響く言葉が違うのかもしれません。
そういえば小室さんも眞子さんと遠距離恋愛中、「君はいつもかわいいね」とスカイプで囁いていたそうです。それをなぜか小室さんの母親が知っているのが気になりますが……実は女心を知っていてホメ上手なのかもしれません。
「僕は巻き込まれ系です」
ニキータさんは将来設計が綿密で、とくに不動産取得については自分でリサーチしてここに住みたいという目標を設定し、着実に叶えているそうです。
「千葉から東京に引っ越すときも、私は未来に対する不安から乗り気じゃなかったんですが、彼女は確信を持って不動産を決め、移住を進めていました。結果、ついていったら新しい趣味ができたり、出世して経済面含めて良くなったんです。この人すごいなーって思って、ついていけば間違いないと思いましたね」とジローさんが言うと、つばささんの夫のシンジェルさんも同意します。
「うちもわりとそうです。この代官山の家を買うとき、清水の舞台どころじゃなくドバイタワーから飛び降りる気持ちでしたが、彼女が絶対に間違いないから、って」
と、つばささんに全幅の信頼を寄せている様子。
「昔読んだ気の法則の本があって、『強い気は弱い気を巻き込む』という文章が印象に残ってます。だから、つばさが絶対これをやりたいってなると、僕はひゅるひゅるって巻き込まれるように入っていく。巻き込まれ系です」
シンジェルさんは前の会社で順調に出世していたのが潔く辞められて、つばささんの会社に入って平社員からスタートしたそうです。
「いきなり役員にすると会社的に良くないから、平社員にしようってことになって。シンジェルさんは『この人が社長で僕は平社員です』って言ったりしていて、そういうのも楽しいですね」と、つばささん。
「やっぱり光があって影があるじゃないですか。社長と平社員という立場を明確にすることで、仕事の現場でつばさが輝くんです」
というシンジェルさんの言葉は、最初の婚約会見で自分を太陽に、眞子様は月となぞらえた小室圭さんに聞いてほしいです。
「いい奥さんの心得みたいな本はたくさんあるけれど、その逆パターンは見ないです。かつては『愚妻』という呼び名があったり、夫のほうが偉いという価値観があった。でも、今は男の人が稼いで女の人は家にいる、という考えだと両方とも苦しくなってしまう場合があります。もっといろんなパターンあって良いと思います」と、ニキータさんもおっしゃいます。
「女性活躍推進の言葉がメジャーになって世の中の空気が変わってきたじゃないですか。一方的なパターンに偏っていた男性と女性の関係で、実は男の方がサポートしても良いかもしれないって、時代の変化を感じます」とシンジェルさんも同意。男らしさ、女らしさの呪縛から男女とも解放される日は近そうです。
「話が飛んじゃうかもしれないですか、不動産の世界って女性の方が早めに実績を上げて、できる人が多いんです。男性って色々考えすぎて踏ん切れないのかな」とジローさんが言うと、シンジェルさんも
「一歩の踏み込みが早いですよね女性って」
「女性はこういうのやれって言うと徹底してやるんです」
と、サポート夫の2人から口々に女性をエンパワーメントするホメ言葉が! こうやって日々励ましてくれるのならありがたい存在です。
浮気は大丈夫?
ただ気がかりなのが、たまに聞く浮気パターン。芸能界などでも妻が大人気で活躍していると、夫がプライドを満たすためか自分よりも立場が弱い女性に手を出してしまう、というニュースをたまに聞きます。妻が忙しすぎて淋しい、というのもあるかもしれません。サポートする夫として、浮気心がわいてくることはないのでしょうか。
シンジェルさんは、「時代の変化にどうしてもなじめない人はいると思います。男が上に立つもという昔のパターンの名残があるから、奥さんが活躍していると悔しくてしょうがなくなっちゃうんだろうなって思う。でもそれは時代に取り残されてしまう人々で、スムーズに移行できる人も多いと思います」と、澄んだ瞳で語ります。
ジローさんも、「男性の置かれている状況次第ですね。奥さんは仕事がうまくいっていて、旦那さんはピークアウトになってるとあり得ると思います」
と少し理解を示しながらも、ご本人は違うというゆるぎない空気を感じさせます。ホメの言霊によって夫婦とも成功したという安定感が漂っています。
ニキータさんは「女性が男性に三高などの条件を求めるのと同じです。男性が経済的に頼れる女性を求めて、でも本当に愛がなければ心は満たされないから浮気に走りますよね。新しいパターンは、男性も自分の価値観を持っていて自立している女性を選ぶのだと思います。浮気するしないは相手の人柄とか考え方次第ですね」
と、現実的に考察。こんな冷静な奥さんが近くにいたら夫の浮気心もクールダウンしそうです。
相性が良い「低欲望男子と高欲望女子」(逆もしかり)
また現代は「低欲望社会」と呼ばれていますが、低欲望男子と高欲望女子(その逆も)が相性が良いと、シンジェルさんは分析しています。
「私もジローさんも低欲望な奥さんを引き寄せない」と確信するシンジェルさんに、「低欲望男子が高欲望女子を潜在意識で選んでるんです」と、ニキータさんも賛成します。
お互い認め合う2組の夫婦の友情も素晴らしいです。ホームパーティは2組+1人で完全にアウェイでしたが……。せめて自分の中で自分をホメて伸ばしていこうと心に決めました。
最後に、それぞれ奥さんのことをどう思っているか一言で表してもらうと……
シンジェルさん「僕はわかりやすく言うと先生ですね」
ジローさん「神でもあり先生でもあるね」と、リスペクトを表明。
奥さん側も、
「彼は8歳上なのに可愛いなって思いと守ってあげたいっていうのもあるし……。自分の持ってる潜在能力を引き出してくれる」(ニキータさん)
「シンジェルさんと出会って、嫌いな家事をムリしてやらなくても良いと思えたんです」(つばささん)
と話が尽きない感じで胸がいっぱいになったのでホムパを途中で失礼させていただきました……。ごちそうさまでした。
今月の教訓
女性活躍社会を実現するのは、男性のホメ言葉によるエンパワーメント。
著者プロフィール
辛酸なめ子(しんさん なめこ)
1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。 漫画家、コラムニスト。女子学院中学校・高等学校を経て、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。恋愛からアイドル・スピリチュアルまで幅広く執筆。著書に『大人のコミュニケーション術』『新・人間関係のルール』(光文社新書)、『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)、『霊道紀行』(角川文庫)、『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)、最新刊に『女子校礼讃』(中公新書ラクレ)がある。