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教養としてのロック名曲ベスト100【第12回】89位はこれ! by 川崎大助

「エイト・マイルズ・ハイ」ザ・バーズ(1966年3月/Columbia/US)

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Genre: Psychedelic Rock, Raga Rock
Eight Miles High - The Byrds (Mar. 66) Columbia, US
(Gene Clark, Jim McGuinn, David Cosby) Produced by Allen Stanton
(RS 151 / NME 348) 350 + 153 = 503 

やったザ・バーズが出た。『教養としての名盤ベスト100』のほうでは「バーズなし」だった。〈ローリング・ストーン〉も〈NME〉も選んでいたのだが、票割れおよび集計順位が低すぎてリスト入りしなかったのだ。なので今回雪辱を果たしたことになるのだが、しかしそこで出てきたのがこの「サイケな」ナンバーだというのが、趣ぶかい。

なぜならば、バーズと言えば「まずはフォーク・ロック」だからだ(後期の「カントリー・ロック」も影響力甚大なのだが)。デビュー・シングルである、ディランのカヴァー曲「ミスター・タンブリンマン」(65年)をスマッシュ・ヒットさせた彼らは、フォーク・ロックの礎を築き、布教した。このスタイルのDNAがトム・ペティはもとより、80年代以降の英米インディー・バンドにも大量に転写された(ザ・スミスのジョニー・マー、R.E.M.、プライマル・スクリーム、ザ・ラーズ……そのほか無数に)。

が、初期の成功の陰で巣食っていた闇が吹き出したのか、メイン・ソングライターだったジーン・クラークがバンドを脱退してしまう。それとほぼ同時にシングル・リリースされたのが、この曲だった。「サイケデリック・ロックを先取りした」と評される、インド調旋律のラーガ・ロックにして、ジョン・コルトレーンの影響もある。「ジャングリー」ギターの元祖、ロジャー・マッギンの12弦ギターの、とくにソロ部分がそうだ。この不協和音込みの不穏な感じと、夢幻のごとき手触りが新しい時代の扉を開いたのだが、同時に「ドラッグ・ソングではないのか」とマスコミに叩かれる(のちに「そうだよ悪いのか。パーティで吸ってたよ」とクラークとデヴィッド・クロスビーが言い返す)。

とはいえ本当は、バーズのUKツアーの模様を飛行機恐怖症のクラークが描写したものが歌詞の原型だった。たどり着いた異国は寒いわプレスは冷たいわ……といった居心地の悪さが抽象化されて、「(架空の)高度8マイル」を掲げたポップ・ソングになった。

シングルは、彼らにしてはかんばしくない成績、ビルボードHOT100では14位、全英では24位にしか達しなかった。しかしやはり、当時も大きな影響力を発揮した。「異国」のライバルであるザ・ビートルズを突き動かし、あの『リヴォルヴァー』へと向かわせた一因がこの曲だった、と言われている。当曲を含む第3作『フィフス・ディメンション(邦題・霧の5次元)』は、さらに多くの同輩たちと、抜きつ抜かれつ、当時の「ロックの最先端」を巡ってデッドヒートを繰り広げていくことになる。

(次回は88位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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