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人間とAIの連携が最強――ChatGPTの基礎知識⑭by岡嶋裕史

彗星のごとく現れ、良くも悪くも話題を独占しているChatGPT。新たな産業革命という人もいれば、政府当局が規制に乗り出すという報道もあります。いったい何がすごくて、何が危険なのか? 我々の生活を一変させる可能性を秘めているのか? ITのわかりやすい解説に定評のある岡嶋裕史さん(中央大学国際情報学部教授、政策総合文化研究所所長)にかみ砕いていただきます。ちょっと乗り遅れちゃったな、という方も、本連載でキャッチアップできるはず。お楽しみに! そして本連載に大幅加筆をした『ChatGPTの全貌 何がすごくて、何が危険なのか?』(光文社新書)の刊行が8月18日に決まりました! 下記よりご予約ください。

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人間とAIの連携が最強――ChatGPTの基礎知識⑭by岡嶋裕史

画像生成系AIとの連携

 他の単機能AIと連携させてもいい。

 たとえば、生成系AIとして最初にブレイクしたのは言語ではなく画像だった。この稿で画像生成系AIについて語るのは本旨ではないけれど、あれこそプロンプトエンジニアリングであり魔術生成(後述)である。素人にはどんなレシピを入れたらいい絵を作ってくれるか、まるでわからないのだ。AI絵師の高みに登るのは長い道のりであるし、結局は画像についての知識を持っている人が有利である。

 実際に画像生成系AIを試してみよう。いい絵を作ると評判のStable Diffusion にアクセスしてみた。どんな絵にしたいか、希望をプロンプトとして入力すると、それに合致した絵を生成してくれるサービスである。

 題材は桃太郎にする。鬼ヶ島で戦ってるところがいいな。私は満艦飾に素人なので、ぱっと思いついたところで「Momotaro, Onigashima」とプロンプトを入力してみた。

 ……なんか思ってたのと違う。

 まあ、そりゃそうなのである。生成系AIだって、言った人間すらよくわかっていない漠然とした指示をされても困る。プロンプトは詳しく書いたほうがよいのは前述した通りだが、絵の用語を知らないのだ。

 そこでGPT-4 にお願いする。

Q Stable Diffusion に入力するプロンプト(英語)を作ってください。桃太郎が鬼ヶ島で戦っている画像を作りたいんだ。

A “Create an image of Momotaro, the Japanese folk hero, engaging in an
epic battle against the demons on Onigashima Island.”

 鬼ヶ島で戦っているとしかプロンプトしてないけど、ちゃんと「鬼ヶ島で鬼と戦う」って補足してくれたぞ。

 これをそのままStable Diffusion に入力してみる。

 少なくとも、さっきのよりはマシなのが出てきた。

 画像生成系AIでは、画像の生成にお金がかかるサービスが多いけれども、ChatGPT とディスカッションを重ねながらプロンプトを試行錯誤しておけば、課金額を減らしつついい絵を作れるかもしれない!

人間とAIが協力して互いの苦手部分を補い合う世界

 AIのビジネス分野への浸透と言うと、どうしても「人間の仕事がAIに奪われる」と考えがちだ。後で議論するようにその可能性は否定しないが、奪ったところでAIがお金を欲しがるわけではないので、アガリを全部AIを運営する企業に入れるのではなく、仕事を奪われてしまった人にばらまいてもいいし、ベーシックインカムの原資にしてもいい。

 そのもうちょっと手前のところで、人間とAIが協力して互いの苦手部分を補い合う形で今よりもっといい仕事をしてもいいのだ。

 チェスでは単体の棋力は、もう人間がAIに抜き去られて久しいが、人間、AI、人間+AIの組み合わせだと人間+AIに分があったことはまだ記憶に新しい(チェスの指し手が完全解明されてしまえばAIに任せてしまったほうが間違えないが、チェスですらその段階には至っていない。まして複雑な人間社会の事象では完全解明は不可能だ)。

 2022年には小型の第4世代戦闘機であるF‐16に魔改造を施したX‐62試験機をAIで飛ばす実験が行われた。航空機の自動操縦など珍しくもないが、これはガチの空戦機動である。信じられないくらいスムーズにロールをうっていた。もともとシミュレータを使った模擬空戦で人間はAIに勝てなくなっていた。AIが実機を操れるようになれば、その差はますます広がる。何と言ってもAIは加速度を気にせず機動できるのだ。戦闘機の中で最も脆弱なパーツは人間で、人間が耐えられる加速度の中で機動は組み立てられる。その制約がないAI機は空を統べる存在になるだろう。

 ただ、このAI機についても、実際には人間が操縦して、AIをコパイ(副操縦士)としてサポートさせたり、有人機の僚機とする運用が考えられている。そのようにAIを使いこなしていくのが、現時点で最もまっとうでポジティブな向き合い方だろう。

人間もAIも同じ

 不適切なデータセットから学習すると不適切なAIに仕上がる、偏る、と指摘されているけれど、不適切な教育を受ければ社会で生きていくのがつらくなる価値観や世界観を形成してしまうのは人間も同じである。AIに対してあまり偉そうなことが言える状況にはなっていない。

 私たちは教科書に間違いや偏りがないか学校の現場や新入社員研修の現場でいつもチェックし続けているし、仮にそのとき「正しい」と思った教科書で教育をしても、その結果としてすくすくと育ってくれたかを常に気にしている。こりゃまずいな、と思ったらちょっと面談をしたりしてファインチューニングを試みることもある。

 倫理観などもそうだ。AIには生得的な倫理観がないというが(当たり前だ)、教育や環境からしかこうしたものを学べないのは人間も同じだ。人をぶん殴るのが当然のコミュニティで育てば、人を殴ってもいいという倫理観が育まれるだろう。

 だから、今のAIの作り方が決定的に間違っていて、偏りのあるデータを見抜けないとか、後からファインチューニングが必要になるとかいう話ではない。むしろこんな点まで、よく人間を模倣していると思う。(続く)

岡嶋裕史(おかじまゆうし)
1972年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。富士総合研究所勤務、関東学院大学経済学部准教授・情報科学センター所長を経て、現在、中央大学国際情報学部教授、政策文化総合研究所所長。『ジオン軍の失敗』『ジオン軍の遺産』(以上、角川コミック・エース)、『ポスト・モバイル』(新潮新書)、『ハッカーの手口』(PHP新書)、『思考からの逃走』『実況! ビジネス力養成講義 プログラミング/システム』(以上、日本経済新聞出版)、『構造化するウェブ』『ブロックチェーン』『5G』(以上、講談社ブルーバックス)、『数式を使わないデータマイニング入門』『アップル、グーグル、マイクロソフト』『個人情報ダダ漏れです!』『プログラミング教育はいらない』『大学教授、発達障害の子を育てる』『メタバースとは何か』『Web3とは何か』(以上、光文社新書)など著書多数。

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