【47位】ルー・リードの1曲―彼岸の都市文学が、異性装と男娼とドラッグの桃源郷を祝福する
「ウォーク・オン・ザ・ワイルド・サイド」ルー・リード(1972年11月/RCA/米)
Genre: Rock
Walk on the Wild Side - Lou Reed (Nov. 72) RCA, US
(Lou Reed) Produced by David Bowie and Mick Ronson
(RS 223 / NME 50) 278 + 451 = 729
彼のナンバーのなかでも、群を抜いた人気を誇る1曲がこれだ。リードいわく「あからさまなゲイ・ソング」。各ヴァースごとに人物スケッチがおこなわれる。トランスジェンダーの、裕福ではない、しかし個性的な人々だ。ヴァース1から、順番に行ってみよう。
マイアミからニューヨークにやってくる途中で、男から女になる「ホリー」。口腔性交が得意で、みんなの相手をする「キャンディ」。いかさま仕事師の「リトル・ジョー」。ソウル・フードを探す「シュガー・プラム・フェアリー」。スピード狂で、クルマをかっ飛ばす「ジャッキー」は、まるで事故死したジェームズ・ディーンみたいだった(でも死ななかった)……こうした人物をさらりとスケッチした最後に、かならず決まり文句が入る。「ヘイ・ベイブ、ワイルド・サイドを歩きなよ」。このフレーズは、各ヴァースの主人公か、その周辺の者が口にする。「語り手」のリードも、これに続いて、乗っかるようにして言う。「I said」ワイルド・サイドを歩きなよ、と――。
当曲は、彼のソロ第2作アルバム『トランスフォーマー』(『教養としてのロック名盤ベスト100』では第69位)に収録。同作収録の「パーフェクト・デイ」とカップリングされて、両A面のあつかいでシングル・カットされた。ビルボードHOT100では16位、全英は10位と「ルー・リードのシングルとしては」画期的なセールスを記録した。
勝因はサウンドだ。ブラシを使ったドラミング、そしてこの印象的なベース・ライン(ウッドベースに、フレットレスのフェンダー・ジャズベースの音を重ねた)は、いったい幾度、ヒップホップ・アーティストらにサンプリングされたことか。こうしたジャズ調の小粋でテンダーなタッチが、クラシカルな舞台劇のごとき気品や詩情を「街角の光景」に付与した。ここに聴き手は、ビート以降のアメリカ文学の視野と強度を感じ取った。ちょうどそれは、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド時代のリードが書いた「アイム・ウェイティング・フォー・ア・マン」(67年、70位)の一人称的単視点構造と、見事に対照的な地点における達成だった。三人称的複数視点の「語り」の傑作が、この曲だ。
登場人物たちはみんな、アンディ・ウォーホル周辺にいた人物がモデルとなった。録音は、デヴィッド・ボウイとミック・ロンソンのプロデュースのもと、ロンドンはトライデント・スタジオにておこなわれた。大西洋の向こう側で「小説家のように」街と人を活写したリードのこのナンバーを「ニューヨークを象徴する1曲」として選ぶ人は多い。
(次回は46位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)
※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki