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【77位】パブリック・エネミーの1曲―轟くラップの陣太鼓、憤激し進撃する民衆のために

「ファイト・ザ・パワー」パブリック・エネミー(1989年7月/Motown/米)

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Genre: Hip Hop, Political Rap
Fight the Power - Public Enemy (July 89) Motown, US
(Carlton Ridenhour • Eric Sadler • Hank Boxley • Keith Boxley) Produced by the Bomb Squad
(RS 330 / NME 95) 171 + 406 = 577
※78位、77位が同スコア

特級品の「怒り」の歌がこれだ。なにに怒っているのかは、タイトルでわかる。ここのThe Powerとは、権力のこと。一番狭く解釈すれば「支配者層」だ。これと「戦え」と、幾度も幾度も、曲中で連呼される。「怒りがあるなら、立ち上がって」そして戦うんだ!――と聴き手を鼓舞するラップ・ソングが勢いよく売れた。権力に対して「怒っている」人は、世界中にいっぱいいたからだ。アメリカの黒人以外にも。

当曲は、スパイク・リー監督の映画『ドゥ・ザ・ライト・シング』(89年)のテーマ曲として書き下ろされた。猛暑のブルックリンを舞台に、人種間の軋轢を描いた同作はアカデミー賞ノミネートほか大きな話題を呼んで、社会現象を巻き起こした。作中でストーリーの中心をつらぬいていく「社会的公正を渇望する心」の象徴として、このナンバーは高らかに鳴り響いた。まるで進軍開始を告げる陣太鼓みたいに。

実際にどれくらい「進軍」に向いているのかは、リーが監督した名作MVで一目瞭然だ。人間として当然の権利を黒人が求め、白人が支配する「いびつな」社会体制の打倒を主張するデモという図で、これは歌詞の内容に準拠している(同時にもちろん『ドゥ・ザ・ライト・シング』のテーマとも響き合っている)。「エルヴィスもジョン・ウェインもレイシスト白人向け」の愚物だと切って捨てるラインは、当時の世間を激震させた。

サウンド面の切迫感と興奮度も、ただごとではない。ジェームス・ブラウンの「ファンキー・ドラマー」や「ホット・パンツ」といった定番ネタの上に、サンプルを重ねに重ね、緻密にビーツが組み上げられている。日本の人が見逃せないのは、MVの映像中、ブラック・パンサー党みたいな黒人私兵調集団の一画に「学ラン姿」の連中がいること。そのなかでも抜きん出た巨体にグラサン姿、まるで格闘家のような威容を誇る人物こそがDJ「ターミネーターX」で、この曲でも小気味のいいスクラッチを決めてくれている。

パブリック・エネミーの総帥チャックDは、アイズレー・ブラザーズの75年の同名ヒット曲から当曲の着想を得た。サントラ盤からカットされたシングルは、ビルボードHOT100で20位まで上昇、同ラップ・シングルスでは1位、12インチ盤が同ダンス・ミュージックで3位を記録。全英では29位だった。グラミーにノミネートされ、翌90年の第3作アルバム『フィアー・ザ・ブラック・プラネット』に別ヴァージョンを収録。そして「権力に正面切って戦いを挑む者たち」にとっての、永遠のテーマ曲となった。

(次回は76位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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