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ひとり用炊飯器は最強の家飲みツール!?|パリッコの「つつまし酒」#93

「はあ、今週も疲れたなあ…」。そんなとき、ちょっとだけ気分が上がる美味しいお酒とつまみについてのnote、読んでみませんか。
混迷極まる令和の飲酒シーンに、颯爽と登場した酒場ライター・パリッコが、「お酒にまつわる、自分だけの、つつましくも幸せな時間」について丹念に紡いだエッセイ、それが「つつまし酒」。 
そろそろ飲みたくなる、毎週金曜日だいたい17時ごろ、更新です。

炊き込みご飯専用に買った炊飯器だったけど

 あのですね、実は僕、けっこう“やる”タイプの男なんですよ。何を“やる”って、「炊き込みご飯」の話なんですけどね。ご存知ですかね? 炊き込みご飯。通常、炊飯器などでお米を炊くところ、なんらかの具材やら、出汁、調味料なんかを一緒にお釜に入れて炊くごはんのことなんですよ。それをね、常日頃からけっこう“やる”タイプの男だという話なんです。
 でね、一応家にはメインの炊飯器があるんですよ。ただそれは、あくまでメインであって、基本、家族が主食で食べる白いごはんを炊く用。我が家は3人家族で子供もまだ小さく、夜に炊いたお米の余りを保温して次の日に持ち越すなんてことも珍しくない。となるとですよ? ある朝起きた瞬間に突然「うわ、炊き込みてぇ」と思っても、炊飯器がふさがってるわけですね。「じゃあお鍋ででもなんでも炊けばいいじゃん」って? いやそう、おっしゃることはごもっともなんですけどもね、僕、炊き込みご飯のレシピを記事に書いたりすることも多くて、仕事で炊き込むこともけっこうあるんですよ。俗に言う、ビジネス炊き込みってやつですね。そういう場合、やはりなるべく読んでくださったみなさんがまねしやすいほうがいい。つまり「お米とあれとこれを入れて炊飯器のスイッチを入れるだけ!」というような感じにまとめたい。そう書くからには、実際にやってみないわけにはいかないじゃないですか。
 そういう経緯もあって最近、炊き込みごはん専用にと、最大1.5合炊きの小型炊飯器を買ったんです。これならいつでも好きなときに自由に炊き込めるぞと。で、そいつが届いてみて気がついたんですが、実はこれが単なる炊飯器の枠を大きく超えた、最強の家飲みツールだったというわけなんです。

自宅にいながら酒場気分

 その商品は、パナソニックの「ミニクッカー」。スイッチがひとつあるだけのレトロな見た目が大変に可愛らしいですね。ざっくり言うと、容量を計ったお米をしばらく浸水させておき、パチンとスイッチを下げるとランプが点灯して炊飯が開始される。15分くらい経つとパチンとスイッチが切れ、そのまま10分くらい蒸らしておけば炊飯完了。ちゃ〜んと美味しいお米が炊けるというすぐれもの。上にガラス製のフタが乗っているだけなので、お米が炊けてゆく様を、へぇ〜そうなってたんだ、なんて言いながら眺められるのも楽しいです。

 が、取扱説明書を見ると、商品名が「ミニクッカー」というだけあり、実は炊飯だけでなく、カレーやら肉じゃがやらシチューやらみたいな簡単な煮込み料理も作れるそうなんですね。ほうほう、そりゃあいいやと思って、試しにその夜、このミニクッカーに、水と雑に切った豆腐、ネギを入れて湯豆腐をやってみたんですが、これが素晴らしかった。

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試しに湯豆腐を

 スイッチをいれてほっておくと、10分くらいでぐらぐらとゆだりはじめ、どういうメカニズムか、炊飯のときのようにパチンとスイッチが切れることもなく熱々をキープしてくれる。火を使わないから卓上で使えるし、ミニサイズだからじゃまにもならない。目の前に常に熱々の湯豆腐があって、それをちびちびとつまみながら飲める。それだけでもかなり“買い”だと言えません?
 説明書には煮込み料理のレシピなんかも紹介されているんですが、いかんせん作れる量は限られています。カレーなんかはやっぱり大鍋でたっぷりと仕込みたい。むしろこのミニクッカー、汁気のあるおつまみを保温しながら卓上でつまむ、晩酌グッズとしてのポテンシャルに満ちているのではないか? そう考えた僕は翌日、スーパーで300円ほどだったパックの「ピリ辛もつ煮」を買ってきて、カットした豆腐半丁の上からかけ、スイッチオン。

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すぐにグツグツ

 これまた最高。クニュクニュと柔らかいモツと濃い味の染み込んだ豆腐が、完全に居酒屋の味。ふわ〜んと顔を包みこむ煮込みの湯気の効果もあって、自宅にいながら酒場気分は最高潮ですよ。

さらにまさかの使い道も!

 そんなわけで、最近はこのミニクッカーが、食卓の僕のスペースのすみに常に置きっぱなし。スーパーに買い物に行くたび、今日は何をグツグツしてやろうか? と、よさそうな汁っ気つまみを探すのが日課になってしまいました。

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もう毎晩こんな

 なかでもこの炊飯器と相性がいいと思ったのが、おでん。これまたスーパーで、2袋で300円ほどと激安だったパックのものに、家にあったソーセージを2本ほど足してやっただけで、なんていうんでしょう、ちょっとすごいんですよ、その幸せっぷりが。
 ちなみに翌朝は、食べ残した大根と残ったおでんの汁で、本来の用途である炊き込みご飯をしてみたんですが、その「おでん茶飯」のまたほっこりと美味しかったこと……。

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最近もち麦ごはんにはまってます

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ふんわりと出汁が香り、たまにジュワッと大根のごほうびが

 あ、そうだそうだ、最後にもうひとつ、衝撃のお知らせをしなければいけなかったんでした。驚かないでくださいよ? いや、驚いてもいいか。とにかく実は、この炊飯器、「燗酒器」としても優秀すぎるのです!

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つまりこういうこと

 スイッチを入れれれば5分ほどでぬる燗になり、そのままにしておくとちょっと温まりすぎてしまうので、たまにお銚子を手で触って温度を確認したりしながら、適宜スイッチを切ったりする。そういう作業が必要ではあるのですが、そこがむしろ老舗酒場の主人になったみたいで楽しいんですよね。
 寒い季節、手の届く場所に常に燗酒があるなんて酒飲みにとってこの上ない喜びだし、火を使っていないからそこまで危なくもない。もはやこれ、まったく同じ商品でありながら、燗酒器として再び売り出してもいいんじゃないでしょうか?

 ただし、ミニクッカーにたったひとつだけ、不満がないこともありません。それは、お酒をお燗していると、同時にグツグツおつまみが食べられないこと。……う〜ん、もう1台買うかなぁ。

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。
2020年9月には『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)という2冊の新刊が発売。『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。Twitter @paricco

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