「アイラップ」で七色ゆで肉 (つつまし酒 #58)
キッチングッズって本当、いろいろありますね
地元のスーパーで、ちょっぴり気になるものを発見しました。側面が三角形になっていて自立しやすそうなボックスに入った「アイラップ」という商品。たぶん昭和の頃から変わってないんだろうなと想像されるレトロなデザインが妙に魅力的で、パッケージに書かれた「袋のラップ」というキャッチコピーも気になる。裏面の説明を見ると、どうやら食品用ビニール袋にサランラップの特性を加えたような商品らしく、食材を直接入れて冷蔵や冷凍保存できるのはもちろん、そのままレンジで解凍できたり、直接鍋につっこんでボイル調理までできてしまうそうなんですね。これは楽しそう! さっそく思いついたことがあり、豚ロースのかたまり肉、鶏モモ肉、鶏ムネ肉と一緒に買って帰りました。
レトロなデザインがたまらない
家に着いたらさっそく始めていきましょう。実は今回は、アイラップを使って「ゆで肉」をあれこれ作ってみようと思っているんですよね。我が家ではよく、先述したような肉をかたまりのままグラグラと煮立った鍋にほうりこみ、5分くらいしたら火を止め、あとは鍋のお湯が冷めるまで放置しておいて、余熱で火を通すだけという、簡単ゆで肉をよく作ります。どんな肉もしっとりみっしりと仕上がり、そのままつまみにするのはもちろん、アレンジの幅も広く、大変優秀な晩酌向き常備菜です。
ただ、その作りかただとどうしても煮汁に肉の旨味が流出してしまう。そこで煮汁は煮汁で、なんらかの塩気を加えてスープとして消費することになり、それはそれで好きだったりするんですが、このアイラップを使えば、煮汁流出が防げるんじゃないかとひらめいた。肉から出たうまみがそのまま肉にまつわりつき、あまつさえ染み込んでしまうのではないか? と想像したわけです。さてどうなることやら。
味×肉のパターン7種類
包丁で豚肉を、ざっくりと3ブロックに切りわける。鶏のモモ、ムネ肉は、それぞれ2等分する。合計7片の肉塊を、ひとつずつアイラップに入れる。で、その場のフィーリングオンリーで、それぞれの袋にこんな下味を流しこんでみました。
・豚肉1:醤油
・豚肉2:めんつゆ
・豚肉3:オリジナルスパイスミックス
・鶏ムネ肉1:ハーブソルト
・鶏ムネ肉2:カレー粉&塩
・鶏モモ肉1:塩
・鶏モモ肉2:焼鳥のタレ
気の向くままに味つけした肉たち
これら多種多様な味つけの肉が、アイラップを使えばそれぞれが密閉されているわけですから、ひとつの鍋で一度に調理できてしまう。これは楽しい。アイラップは鍋肌に直接触れないようにだけ注意が必要とのことで、家にあったいちばんでっかい鍋のなかに、家にあったいちばんでっかい皿を置いてみると、これがジャストフィット! アイラップに包んだ肉たちをこの上に並べてゆでていくというわけですね。ゆでている最中、お湯の対流で肉が移動してしまわないよう、全部の袋を輪ゴムでひとまとめにし、いざ点火!
一気にゆでられる革新性!
数時間後に様子を見てみると、ひとまずお湯はすっかり冷めてますね。仕上がりはどんなもんかと、全種類のブロック肉から数切れずつ切りだし、大きめのプレートに盛っていきます。
冷蔵庫に余っていたパセリ、小ネギも添えて
おお、これはテンションあがるな! こういういろんな味のものがちびちび乗ったプレートって、酒飲みの夢ですよね。しかも今日は全部肉!
七色ゆで肉大会、優勝は……
いつものようにプレーンチューハイを用意し、さっそく食べていってみましょう。
まずは豚肉からいってみるか。醤油味、ばっちり決まってます! かつて東海林さだお先生がエッセイのなかで、ゆで豚を漬けこむときは、シンプルに醤油だけでじゅうぶん。醤油だけとは思えない美味しさになる。というようなことを書かれていたと記憶していますが、さすが東海林先生。みっしりとした食感に豚の旨味が凝縮されており、それでいて適度に柔らかく、脂が甘い。こりゃ~いいつまみだ。
めんつゆは、醤油と比べると若干味がぼやけるかな?
オリジナルスパイスミックスというのは、以前「ケンタッキーの11種類のハーブ&スパイスが判明!」みたいなネットの情報を参考に、自分で作ったもの。実際に鶏にまぶして揚げてもあの味にはならなかったんですが、とはいえ美味しい調味料であることには変わらないし、何しろ大量に余っているので、たまにこうやって消費しています。ガツンとインパクトのある、酒が進む味に。
鶏肉もいってみましょう。まずは、自宅でゆで鶏を作るときの定番。ムネ肉。ともするとパサパサになりがちな部位ですが、しっとり仕上がってますね。市販品のハーブソルトをまぶしたものは、ほんのりとハーブが香るシンプルな味わいでムネ肉との相性がいいです。
カレー粉&塩は、う~ん、少しパンチが足りないかな~。まぁ、思いつきで塩と一緒にまぶしただけですからね。ヨーグルトなども加えて事前にきっちり漬け込み、タンドリーチキン風なんかにしてみると、また違った美味しさになりそうです。
最後は、焼いたり揚げたりして食べることが多いので、普段はゆで鶏にはあまりしないモモ肉。なんとこれが素晴らしかった!
シンプルな塩味の鶏モモ肉
袋の中でいったん熱され、冷まされることで、旨味を凝縮した脂がジュレのように固まり、肉の周囲をコーティングしています。これが、シンプルに塩をまぶしただけとは思えない優雅な味わいを生みだしているし、もともと柔らかい素材なので、食感もぷりっぷり! アイラップ×鶏モモ肉の組み合わせ、最強かもしれないないぞ……。
今回の優勝は……
さらに感動したのが市販の焼鳥のタレをまぶしたもの。一緒に味見していた妻と、「これ、もはや売ってるものの味じゃない?」と意見が完全に一致しました。
あ~、またしても晩酌がはかどるおもしろグッズを知ってしまったな~。次はどんな食材をどう料理してみようかな~。
パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。著書に『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)など。Twitter @paricco