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教養としてのロック名曲ベスト100【第11回】90位は? by 川崎大助

「(ホワイト・マン)イン・ハマースミス・パレス」ザ・クラッシュ(1978年6月/CBS/英)

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Genre: Punk Rock, Raggae
(White Man) in Hammersmith Palais - The Clash (June 78) CBS, UK
(Joe Strummer, Mick Jones) Produced by Sandy Pearlman and The Clash
(RS 437 / NME 69) 64 + 432 = 496

ロンドン・パンクの雄、ザ・クラッシュの特徴は「名曲が多い」ことなのだが、なかでも彼らの代表曲、いや「テーマ・ソング」と呼ぶべき強力なナンバーが、これだ。

ドラマチックなギターがリードする、ミッドテンポのレゲエ・チューンだ。詞のストーリーは、真夜中のレゲエ・コンサートに行った主人公が、ショウの内容に落胆する、というもの(会場名がハマースミス・パレス)。ジャマイカから「レベル・ロッカー」が来るかと期待したのに思惑が外れた彼は、ブツブツと音楽シーンや世相の批判を始める。「いまヒットラーがやって来たら、みんな大喜びで出迎えるんじゃないか?」とか……問わず語りで「他人のこと」ばかりあげつらう。要するに主人公はとても「駄目な奴」なのだ。

この人物の正体が、歌の最後の最後に明らかとなる。「I'm the white man in the Palais / Just looking for fun」。「僕は豪華なホールにいる白人/お楽しみを探しているだけ」と。この突然の「自嘲」をテコに、そこまでの主観がひっくり返る。

 一人称的(POV的)映像の連続のあと、「鏡に映った自分」が目の前に飛び出してくるような感じだ。ここで我々聴き手は、駄目な主人公の姿が「驚くほど自分に似ている」ことに気づく――という、つまり一種の「苦み」の歌、哀歌なのだが、まるでそれが、作業中に口ずさむ労働歌のように愛された。ここにクラッシュならではのマジックがある。

革命とは一瞬で成就するものではない。ゆえに長き道程を歩いていくあいだ、革命家の毎日は「負けばかり」となるかもしれない。であればこそ、「負け」の数々を飲み込みつつ、なお進むことの尊さをこそ称揚しようと試みたのが、この歌だ。卓越した「筆の冴え」によって、小さき凡俗の心のゆらぎを、ペーソスあふれる叙事詩にまで高めることで。

僕が考えるクラッシュの「テーマ」とは「幾度敗北しようとも、決して止まらない前進主義」だ。勝たなくとも(勝てなくとも)、しかし「戦いをやめない」かぎりは、そこに真なる「負け」はない……という、まるでド根性野球マンガかボクシング劇画みたいなイディオムこそが、つねに彼らの楽曲の駆動力となっている(カヴァー曲なれど I fought the law and the law won の理論だ。このラインのなかに「負け」は事実上ない!)。

アルバム未収録のシングル曲として制作されたこのナンバーは、当初英のみで発売。全英32位にしか到達しなかった(のちにアメリカ盤デビュー・アルバムに収録)。しかしクラッシュはもちろん解散後のジョー・ストラマーも、コンサートで演奏し続けた。

(次回は89位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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