中野京子「名画で読み解く」シリーズ最後の電子版配信!|序章公開①ブルボン
光文社新書の永林です。『名画で読み解く ブルボン王朝 12の物語』の電子書籍が本日発売になりました。累計36万部を突破している中野京子氏の「名画で読み解く」シリーズは、その名の通りヨーロッパの歴史を名画とともに紐解いていく超おもしろい歴史&美術のハイブリッド新書です。好評既刊『ハプルブルク家』『イギリス王家』『ロマノフ家』、そして最新刊『プロイセン王家』に至るまで、すべて電子版が出ています。しかし、2010 年発行の『ブルボン王朝』だけ電子版がなかった! な、なぜ? 歴代の担当に理由を聞いても「なんでだったんだろうねえ……」と、遠い目をするばかり。当時の大人にしかわからない、深い事情があったのですね。
そんなわけで、紙本初版より11年の月日を経て、本日ついに配信開始しました『名画で読み解く ブルボン王朝12の物語』電子版。シリーズ全5冊の電子書籍が出そろったことを記念し、全巻の序章をnoteで公開してゆきます。今回は『ブルボン王朝 12の物語』より「はじめに」と目次です。
はじめに
ブルボン家はハプスブルク家と並ぶヨーロッパ名門中の名門だが、王朝――アンリ四世にはじまり、ルイ十三世、十四世、十五世、十六世、十八世、シャルル十世の七代――としてフランスに君臨したのは、十六世紀後半から(一時中断を経て)十九世紀初めまでの、およそ二五〇年。ハプスブルク家が六五〇年近い命脈を保ったのに比べると、いかにも寸足らずに感じられる。
アメーバのごとく増殖したハプスブルク家が、最後は大伽藍がゆっくり崩れ落ちるように朦々たる煙の中に没していったとするならば、ブルボンの終わりはギロチンの刃の落下と同じ、すばやくあっけないものだった(その後の短い復古期間は、なくもがなの小さなアンコール曲にすぎない)。
だがこのブルボン家、とりわけ太陽王ルイ十四世の治世がヨーロッパに及ぼした影響たるや、まさに太陽そのもののごとく圧倒的だった。
富と権力を掌握した絶対君主がどう振る舞うべきか、宮廷生活はどれほどに豪華絢爛でなければならないかの、範がここに示されたのだ。以来、各国の王侯貴族は競ってヴェルサイユ宮廷を模倣し、自国の言葉を棄ててフランス語で会話し手紙を綴り、フランス文化摂取にやっきとなった。
プロイセンのフリードリヒ大王やオーストリアのマリア・テレジアまでが、日常的にフランス語で読み書きしたし、二百年後にもなおまだバイエルンのルートヴィヒ二世によって、ヴェルサイユを模した城造りが続けられた。そして現在に至るも、王らしい王のイメージといえば、ルイ太陽王の、雲突くばかりの羽根飾り帽を被り、ヒールの高い真っ赤なリボン付きの靴を履いた雄姿である。
強大かつ華麗な絶対王政の成立と破綻――そのドラマが面白くないわけがなく、また夥しい登場人物たちは当然ながらハプスブルク家とも緊密にからみあうため、拙著『ハプスブルク家12の物語』でちらりと顔を見せただけの脇役がここでは主役を張るし、逆に以前の堂々たる主演者が仇役として再登場する。
歴史(ドイツ語では「歴史」と「物語」は同じ単語ゲシヒテGeschichte)の醍醐味を、名画にからめて味わっていただけますよう。
目 次
前 史
第1章 ルーベンス
『マリーのマルセイユ上陸』(『マリー・ド・メディシスの生涯』より)
第2章 ヴァン・ダイク
『狩り場のチャールズ一世』
第3章 ルーベンス
『アンヌ・ドートリッシュ』
第4章 リゴー
『ルイ十四世』
第5章 ベラスケス
『マリア・テレサ』
第6章 ヴァトー
『ジェルサンの看板』
第7章 カンタン・ド・ラ・トゥール
『ポンパドゥール』
第8章 グルーズ
『フランクリン』
第9章 ユベール・ロベール
『廃墟となったルーヴルのグランド・ギャラリー想像図』
第10章 ゴヤ
『カルロス四世家族像』
第11章 ダヴィッド
『ナポレオンの戴冠式』
第12章 ドラクロワ
『民衆を導く自由の女神』
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