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もうコロナを言い訳にできない!? 人との交流が増えて悩ましいこと|辛酸なめ子 #24

「コロナ禍が明けたときの困り事」第1位は……

世の中は「ウィズコロナ」時代になって、行動制限も徐々に解除され、一人一人が地道な感染対策をしながら、気を付けて生きていくというフェーズに入ったようです。日本の新規感染者数は一時世界最多になり、まだ予断を許さない状況ですが、飲食店はにぎわい、音楽フェスやコンサート、演劇なども再開されています。

人との交流もまた復活していくのでしょうか。嬉しさ半面、ダルさもありますが、6月頃『週刊女性』に興味深いアンケートが載っていました。「コロナを言い訳に使えなくなってガッカリ!」と題された記事で、「コロナ禍が明けたときの困り事」をテーマにアンケート。トップ5の5位は「冠婚葬祭の再開」で、4位は「夫の実家に帰省すること」、3位は「子どもの学校行事が再開」、2位は「脱マスクでメイクが必要に」、堂々の1位は「職場の同僚や友人との飲み会」でした。

コロナ禍を理由に断り続けていた職場の"飲みニケーション"が復活することを憂慮する声、友人に誘われていた気乗りしない旅行の計画が再開するのを心配する声など、自粛を理由に断っていた人付き合いが面倒くさい、という本音が載っていました。

私の周りでも「コロナが落ち着いたら会おうね!」が使えなくなってきた、という声が。同じセリフを実際に友人に言われたことがあり、今思えば「とくに会いたくない」の婉曲的な表現だったのでしょうか……。「コロナが落ち着いたら会おうね!」が使えなくなってきたら「マスクを外せるようになったら会おうね」というのもいいかもしれません。

周りの人に、コロナを理由にできなくなって面倒くさい人間関係がないか聞いたら、あるカメラマンの女性は「とくにないです」と断言。

「コロナ前から友達が少なく、2、3年に1回会う友達が数人いるくらい。こっちは独り身で、皆子育てしているので話が合わず、このくらいの距離感がちょうどいいんです。数年に一度、2、3時間おしゃべりするくらいなので、コロナ前も後もとくに変わりないです」

とのことでした。潔い言葉に勇気づけられましたが、そこまで達観できそうにありません。人付き合いは面倒くさいと言いながらも、そろそろ淋しくなってきました。

Zoomで学ぶ! 顔と名前の記憶術

これから人との交流が再開することを見込んで、準備をしなければと思い、申し込んだのが「人の顔と名前を憶える講座」です。記憶力を高める「アクティブブレイン」のコースの一つでZoomなので、それこそ直接会わずに気軽に受けられそうです。

私はコロナ前から記憶力が悪く、人の名前が覚えられないという悩みがありました。2020年以降、人と会う機会が減ってきて、ますます脳が記憶する努力をしなくなったような気が……。タイのBL俳優やジャニーズの名前を上書きするかわりに、友人知人の名前を忘れていってしまっているような気もします。

Zoomに申し込んでしばらくたったある日、電話取材の応対などで忙しくしていたら、記憶術のZoomの確認メールが当日、時間を過ぎた頃に届きました。講座の日時を失念するという、記憶力以前の問題が……。陳謝しつつ遅れて参加しました。

教えてくださるのは、IBM出身というエリート感漂う品田先生。「アクティブブレイン」の講座を受けることにより、中高年以上で資格試験に受かったり、セカンドキャリアを築いている受講生が多いそうです。何歳になっても脳は成長できるという希望が持てるお言葉が。そこまで高い望みは持てないので、とりあえず名前を記憶できるようになりたいです。

小1のクラスメイト、何人思い出せますか?

まず品田先生から「小1の時同じクラスだった人の名前をできるだけ思い出してみてください」といきなり難易度の高いミッションが。「中村 田中 吉田 三上 まゆみ」と絞り出しましたが、皆本当に小1の同級生か記憶がさだかでありません。顔も覚えていないです。

品田先生によると、「だいたい平均して4、5人思い出せます」とのことでとりあえず安堵。「今まで一番たくさん覚えていたのは北海道の人で33人。地元の学校で小1から中3まで一緒で今もよく集まるそうです」と、濃密な人間関係のようでした。

「名前が出てくる友達と出てこない友達の違い」を説明してくれた先生。出てくる友達は「仲が良かった友達、仲が悪かった友達、何らかの強い印象が残っている友達、卒業後有名人になった友達」で、出てこない友達は「卒業以来会ってない友達、あまり話さなかった人、可もなく不可もなく問題行動がなかった人、話題に登場しない人」だそうです。

改めて記憶をたどると、小学校時代は「好きな男子」の名前しか覚えていないかもしれません。その理由は、おまじないで緑のペンとかでノートに名前を書き綴ったから、でしょうか……。

「頭の中で名前をアウトプットする頻度が高かったり、印象的なエピソードがあると思い出しやすいですよ」と先生。例えば1980年頃にデビューしたアイドルはたくさんいますが、今でも人の記憶に残っているのは松田聖子さん三原じゅん子さんくらい。それは今も活動していたり人の話題によく出るから、だそうです。知名度は永遠ではないのです。

「子どもの頃は覚えられたのに……」は勘違い?

そもそもなぜ大人になると名前が出てこないかというと、「子どもの頃と比較すると知り合いの数が多くなった」「実は名前を呼んだ回数が少ない」「呼ばれているのを聞いた回数が少ない」「一度間違って覚えてしまった」「相手の名前を書かなくなった」「長い期間会っていない」などの理由があるそうです。知り合いの名前が増えると脳内検索するのが大変です。子どもの頃は記憶力が良かったというより、知り合いの数自体少なかったのでしょう。

「子どもの頃は覚えられたと思ってる人は多いけど、実は子どもってしょっちゅう忘れるんですよね。昔保育園の先生をしていたことがありましたが、僕の名前を4回くらい聞いてくる園児がいました。子供は忘れたこと自体忘れて、大人は忘れたことを記憶するんです」

名前を忘れたという思い出がいつまでも残っているから、自分は記憶力がないと思い込んで、最初からあきらめてしまう、というのはありそうです。

「知り合いでもAKB関係や坂道系のアイドル、500人以上の名前を覚えている人がいます。興味あることは入ってくるんです」

逆に興味のないことに関しては人は記憶力を発揮できません。先生が、興味のないジャニーズの名前を11分間でアウトプットしようとしたメモを見せてもらいました。「光げんじ 赤坂 大沢」「ヘイセイジャンプ」「TOKYO じょうじま 山口」「アラシ 大野君」など、おぼつかない感じで書かれ、「東方しんき」まで入っていました。50代男性の苦労のあとがしのばれるメモでした。記憶力の先生も、覚えられない分野があると思うと安心します。

「名刺を見ても顔が浮かばない」は記憶力以前の問題かも

それではどうすれば名前を記憶できるのでしょう。まず「顔の部分の違い」に注目する、という方法があるそうです。大きい目小さい目、上がり目下がり目など、人相学のデータと共に記憶すると、違いをインプットしやすくなります。

また、名刺交換して見返しても誰かわからない場合、そもそも覚えようとしていない、という説が。これは耳が痛いです。名刺交換という行為で満足してしまい、名刺入れにしまっていては覚えられようがありません。

「会話の中で名前を呼んだり、話している間に呼んでみたり、アウトプットすると覚えやすくなります」

また、「イメージ化」という方法も、名前を記憶しやすいとか。野口さんという人と知り合ったら、野口英世のイメージとつなげたり、小田さんは小田和正と一緒に歌っているシーンを思い浮かべたり……。良い例が浮かばない場合は、漢字をそのままイメージすると良いと言う秘策を教えてもらいました。

「海老沼さんは、沼から海老がピョーンと出てくる、鈴木さんは木に鈴がなっている、二宮さんはお宮が二つある、松田さんは田んぼの中に松がある……こうやって覚えれば入りますよね」

実際に、この方法で赤の他人10人の顔写真と名前を記憶して、最後にテストしたら全員覚えていました。ただこの記憶が数日後も残っている自信はないですが……。この成功体験を胸に、人間関係を構築していきたいです。ちなみにこの日、パソコン上で記入していたメモを、どのフォルダに保存したか忘れるという、また記憶力以前の事態が発生しました。

コロナ禍で見つけた人付き合いの本質とは

コロナはまだ明けていませんが、パーティや会食の機会が出てきたので参加。知人の映画賞受賞パーティでは、それぞれのお祝いのスピーチは良かったのですが、レストランのショータイムでサンバカーニバルのようなダンサーが入ってきて「フー!」などと叫びながら踊りまくっていました。しかもお客を次々舞台に引っぱり上げて踊らせたり、皆を電車ごっこのように一緒に踊りの輪に参加させたりしていて、軽い接触が巻き起こっていました。7割以上の人が踊らされていましたが、飲み物のグラスを両手に持つ、という秘策でなんとかダンサーに手を引っ張られないでやり過ごすことができました。楽しかったけれど一抹の感染の危険を感じました。

そしてまた別の日は、ほぼ初対面の仕事関係の知人の飲み会に参加することに。会合の頻度が減ると、人間関係の礼儀の意識が薄まってしまうのでしょうか。宗教、政治批判、プライバシー、などタブーの話題が投げかけられました。さらに「何歳ですか」「ご両親は今健在ですか」「結婚はしないんですか」「自分の容姿についてどう思いますか」といったハードな質問が次々来て、皆の前で答えることになって、精神的に消耗。この日会った人の名前は、記憶術でその場では覚えていたのですが、後日、記憶から消えてしまいました。

コロナ禍の社交の場にいくつか出て改めて実感したのは、「無理に集まりには出なくてもいい」ということです。コロナ前はなんとなく付き合いで出ていた会合やパーティ。でも、今はコロナによる人間関係のリセットを経て、選択の自由があるのを実感しています。会いたくなければ人と会う必要はない、という結論に達して心が軽くなりました。

今月の教訓

名前を忘れても、人と疎遠になっても、それは自然な流れ。会いたい人とだけ会えば良いのです。

著者プロフィール

辛酸なめ子(しんさん なめこ)
1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。 漫画家、コラムニスト。女子学院中学校・高等学校を経て、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。恋愛からアイドル・スピリチュアルまで幅広く執筆。著書に『大人のコミュニケーション術』『新・人間関係のルール』(光文社新書)、『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)、『霊道紀行』(角川文庫)、『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)、最新刊に『女子校礼讃』(中公新書ラクレ)がある。

好評既刊『新・人間関係のルール』

好評既刊『大人のコミュニケーション術』

『新・大人のマナー術』バックナンバーはこちら


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