人間の本性が現れる、久しぶりの飲み会で「恥」をかかないために | 辛酸なめ子 #17
コロナ禍で抑えられていた「宴欲」が爆発!?
2020年の年末は忘年会どころではなかったですが、緊急事態宣言が解除され、新規感染者が少なくなった2021年の年末は、宴会が徐々に行われているようです。といっても、webのアンケート結果を見ると、大企業の8割が忘年会を開催していないそうで、大企業ほど警戒心が強いようです。「オミクロン株」も予断を許さない状況で、今は嵐の前の静けさなのでしょうか……。2年ぶりにリアルで集まって絆が深まるのは良いことですが、反面、今まで抑えられていた宴欲が爆発し、暴走する人びとの姿が各地で散見されているようです。
ちょうど警察24時系の番組を観ていたら、スナックで飲んでいるお客のお通しを勝手に知らない男性が食べて揉めて警察沙汰になったり、酔って転んで血まみれの男性や、歯が折れた女性などが出てきてカオスでした。久しぶりなので宴会のマナーや加減がわからなくなっているようでした。
先日も、居酒屋で久しぶりの知人と打ち上げ兼忘年会を行ったのですが「どう座っていいかわからない」と戸惑う声が聞かれました。久しぶりに「とりあえずビールで!」とオーダーする声を聞けて感慨深かったです。その夜は、菜食主義の人がメニューをオーダーしていたからか平和な空気の忘年会でした。でも、最近参加した中にはエグい忘年会もありました。
積年の思いをぶちまける
ある会社関係の忘年会に参加したら、元上司の人に一言、というコーナーで「正直何度もぶっ殺したいと思ってました」「怒鳴られる日々が続き、毎回『死ね』と思ってました。でも、その時の経験のおかげで義理の両親とうまくやっていけてます」と、ぶっちゃける人が多数……。目の前で書類を破り捨てたり、オフィスで怒号が飛び交ったり、物が飛んできたり、かなり厳しい上司の方だったそうですが、長年の恨みつらみを晴らすようなスピーチがエグかったです。それでも、お酒も手伝って次々と殺意をカミングアウトした人々は、顔を紅潮させ、カタルシスに包まれているようでした……。
同じテーブルの人に気を使わない
私以外、会社の元同僚たちというテーブルになった忘年会で、皆さん当時の話が盛り上がりすぎて、門外漢の存在がいるということに気が回っていないようでした。
「やまちゃんって鈴木さんのこと好きだったんじゃないの?」
「武田さんと付き合ってたらしいよ」
「ペアルック着てたよね」
「びっくりー!」
みたいな話を延々繰り広げていて、私は全く入っていけず、ただスマホを眺めるだけの時間に……。久しぶりの宴会、仲間と話せる貴重な時間なので、部外者に気を使っている場合ではないのかもしれませんが、若干いたたまれない気持ちでした。
陰謀論を展開する
仕事関係の忘年会で、お酒が入るにつれ、同席の男性が突拍子もない陰謀論を展開。私は陰謀論慣れしているのでまだ大丈夫でしたが、他の堅気の方々の間には戸惑いの空気が広がりました。
「地球は球体ではなく実は平面」という「地球平面説」に始まり、「前澤さんは実は宇宙に行っていない」という陰謀論にも話が及んでいました。1日に地球を16周もする猛スピードのISSで、あんなに静かに乗っていられるわけはない、ということらしいです。地球の自転と同じく、等速で動いていれば速さを感じない、という説がありますが……。
さらに「森と山は存在しない」という驚きの説が飛び出しました。「かつて地球人は宇宙人の奴隷として使われていました。宇宙人は地球の資源を取りに来ていたんです。その時に掘ったあとが、海や湖です。当時は、とても大きな木が生えていたのですが、その切り株が今の山になっています。この説を知ってから、山を見ると切り株としか思えません」
「その宇宙人ってアヌンナキですよね」と、話題に乗っかれる自分もやばいです。しかし山が切り株というのはどうも信じられません。
同席した方々は「当たり前を疑うのは大切なことですよね」と、大人の対応でした。久しぶりの忘年会では、話題が暴走することもあります。場の空気や反応を見たほうが良さそうです。
話題がディープすぎる
また、別のフリーランスの方々との忘年会は、皆さん経験と知識が豊富なので話題が濃かったです。マウントをかけ合うかのようにエピソードを披露。
「伊豆のある離島では、1月のある日、外に出てはいけないという言い伝えがあります。地元のおばあさんが神隠しでいなくなって3日後にひょっこり出てきたりする不思議な場所です」
「全市町村めぐりをしていると、トカラ列島が最難関です」といった旅行トークや、珍しい風習の話も。
「ある島では『洗骨』といって、親族が亡くなって風葬や土葬した数年後、遺骨を掘り出して洗う風習があります。お嫁さんがお姑さんの骨をいやいや洗ったりしてる」
「カエルの皮をもらってから仕事運が悪くなったので、アルミホイルに包んで塩をかけて処分したら運気が回復しました」
「クリオネを食べたいと思って北海道で船をチャーターしてクリオネ漁をしました。でも、食べたらおいしくなくて、風邪をひいたときの鼻水の味でした」
こんな感じで皆さんディープなネタを持っていて、私はなかなかそれに釣り合うネタがありませんでした。聞き役に徹した忘年会。
また新年会で集うそうですが、珍しい料理を調達してくる予定の男性に「新年会は何食べるんだっけ?」と誰かが尋ねると、「ヌートリアと孔雀とカラスですね! 本当は猿も欲しかったんですが一頭丸ごとって言われて断念しました」という想定外の答えが。
自粛期間を経て、宴会はよりディープにマニアックに進化しているようです。ヌートリアや孔雀やカラスを食べる気になれない自分は、凡庸な価値観なのかもしれない、と焦燥感にかられました。
スキンシップが激しすぎる
スピリチュアル系の女子会の忘年会が行われ、私は仕事があったので途中で帰ったのですが、そのあとの写真をLINEグループで見て驚きました。手を握って見つめ合ったり、肩を抱いたりスキンシップする大人の女性たち。そして最後、解散前の別れの抱擁を……。数組が固く抱き合う姿が写真に納められていました。シャンパンや伊勢神宮のお神酒などを飲んで身も心もオープンになったようです。ほとんどお酒を飲まないので、その場にいたらスキンシップの輪に入れなかったかもしれません。でも、写真から女子校のような空気感が漂ってきて懐かしいものがありました。久しぶりの忘年会で、今まで集まれず、寂しさをつのらせていた反動で人はスキンシップを求めるのかもしれません。また感染者数が増えて集まれなくなったら、このときの写真を眺めて人肌のぬくもりを思い出すのでしょう……。
今年の忘年会は、例年になく激しくて、人間の本性が見えたように思います。宴会にもリバウンドがあるというのを体感。プレイクスルー忘年会に参加して、しばらく宴会はいいや、と思えることで、感染症予防にもなりそうです。
今月の教訓
久しぶりの宴会で、マナーを忘れたり羽目を外しがちに。お互い様なので慈愛の心で受け入れましょう。
著者プロフィール
辛酸なめ子(しんさん なめこ)
1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。 漫画家、コラムニスト。女子学院中学校・高等学校を経て、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。恋愛からアイドル・スピリチュアルまで幅広く執筆。著書に『大人のコミュニケーション術』『新・人間関係のルール』(光文社新書)、『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)、『霊道紀行』(角川文庫)、『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)、最新刊に『女子校礼讃』(中公新書ラクレ)がある。