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教養としてのロック名曲ベスト100【第2回】99位のナンバーは? by 川崎大助

「ウォーク・ディス・ウェイ」ランDMC(1986年7月/Profile•Geffen/米)

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Genre: Hip Hop, Rap Rock
Walk This Way - Run-DMC (July. 86) Profile•Geffen, US
(Steven Tyler / Joe Perry) Produced by Rick Rubin, Russell Simmons
(RS 293 + NME 258) 208 + 243 = 451 

前回から1ポイント差でまたヒップホップ、しかも「ラップとロックのクロスオーヴァー」の、最初にして極端な大成功例がこの曲だ。ヒップホップ音楽はここで「完全に」メインストリームへと躍り出た。ポップ音楽の未来の主役の座すら、射程圏内におさめるほどにも。

とにかく「リフ」だ。この曲はそもそも、米ハード・ロック・バンド、エアロスミスが75年に発表し、77年にシングル・ヒットさせたもの。このカヴァー・ヴァージョンでもオリジナルの演者2人が招聘されて、ランDMCの3人と共演している。こんな具合だ。

ギタリストのジョー・ペリーが繰り返す、エレクトリック・ギターのシンプルなリフレイン(=リフ)の上で、2人の「MC」であるランとDMCが、掛け合いのラップでヴァース部(歌詞の一番、二番と呼ばれる部分)をキメる。コーラス(サビ)ではもちろん、エアロスミスの「顔」であるヴォーカリスト、スティーヴン・タイラーがシャウトする――という寸法だ。そしてなんといっても、本編の主役は、ぶっとくてぶ厚い「ビーツ(Beats)」だ。

このヴァージョンは、ドラム・マシーンのビートから始まる。ほぼオリジナルのリズムを起き直しただけなのだが、そこが逆に「非人間的なまでの」硬度およびシャープネスを、つまり「ヒップホップ・ビーツの、どえらい革新性を」より強調することにもなった。タフでマッシヴな、初代ロボコップのごときビーツを創作したのは、第3のメンバーであるDJ、ジャム・マスター・ジェイだ。その彼の手がギョクギョクギョクとレコードをスクラッチ(盤を逆回転などさせた音を針に拾わせる)して、そして「リフ」が鳴り出す瞬間のスリル!――まさに「このやりかた」が、全米どころか全世界の「TVの前のキッズ」をふっ飛ばした。

すでに2枚のアルバムをリリース、プラチナ認定も得ていたランDMCは、この曲を初の米ビルボードHOT100のトップ10へと送り込む(最高位4位)。そしてこれを収録した第3作『レイジング・ヘル』はダブル・プラチナムにまで達した。MV上でも共演したエアロスミスの2人は、このヒットのお陰でバンドの低迷期を脱することに成功する。

しかし、そうした数字以上の「効果」を、当曲とランDMCは世界に与えた。アディダスのレザー・スニーカー(スーパースター)を、黒を基調としたスタイルを、そしてなによりもラップを「こんなふうに」クールにキメる術を、彼らは広く世に知らしめた。このナンバーが歴史に刻んだ衝撃の質は、ちょうど1956年、エルヴィス・プレスリーが「ハウンド・ドッグ」で、オリジナル・ロカビリーの威風を颯爽と示した、あのインパクトにも酷似していた。

(次回は98位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。

川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki



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