教養としてのロック名曲ベスト100【第6回】95位は? by 川崎大助
「1999」プリンス(1982年9月/Warner Bros./米)
Genre: Funk, Synth-Pop
1999 - Prince (Sep. 82) Warner Bros., US
(Prince) Produced by Prince
(RS 215 / NME 313) 286 + 188 = 474
プリンスの出世作となった第5作アルバムと同名のオープニング・ナンバーが、この曲だ。リード・シングルとして発売された。ひとことで言うとパーティ・チューン。つまりコンサートで、クラブで、ホーム・パーティで、鳴り出した途端にみんなが踊り始めるような、そんな曲だ。名バンド、ザ・レヴォリューションを背後に従えたプリンスが、足どりを合わせて右・右、左・左、とステップを踏みつつ演奏する様を、まるでそのまま音楽に置き換えたかのような、楽しいリズムの軽ファンク、シンセ・ポップだ。
とはいえ、そんな感触とは裏腹の「引っかかり」が、この曲を印象深いものにしている。「終末感」だ。いまとなっては、どれぐらいの人が記憶しているのか。だが20世紀末には、いや1000年紀の終わりには、普通に空気のなかにはいつも、それがあった。
具体的には、米ソ核戦争の恐怖か。環境破壊も(今日ほどではないが)深刻だった。日本限定でなら、五島勉による『ノストラダムスの大予言』によって「1999年の7月」の破滅を刷り込まれてしまった子供たちもいた(僕の世代だ)。だから「世紀末感の反映」としてのロック、緊迫して暗く頽廃的な光景を指向する音楽は、とくにポスト・パンク以降、どんどん増えていった。それはちょうど、19世紀末にクリムトやエゴン・シーレやビアズリーやオスカー・ワイルドが世を賑わせていた感じにも近かった。
が、このナンバーは、まったく違った。「明るい」のだ。「2000年にはパーティが終わる」からこそ「今夜僕は、1999年の気分でパーティするんだ」というのが、コーラス部分だ。「戦争は僕らの周囲で起こってるんだけど、今夜はやりたいようにやる」と言い切っては、プリンスと仲間たちは、楽しい音楽とともに踊りながら「明るい頽廃」のなかへと遁走していく――こうした一種の決意表明が、当曲をヒットへと導いた。
シングルは最高位で、米ビルボードHOT100で12位、全英2位、全豪で2位のヒットとなった。しかし、続く「リトル・レッド・コルヴェット」のシングルのほうがもっと売れた。さらに、アルバムも売れた。週間アルバム・チャートのビルボード200では9位まで上昇。プリンスに初のグラミー賞ノミネートまでもたらした。
これらの成功すべての、いや次作『パープル・レイン』(84年)での決定的大ブレイクの先触れとなったのも、まさにこの1曲だった。若き殿下による「これからやっちゃうよ!」との大号令が、曲のなかで溌溂と木霊し続けていた。ビートに合わせて。
(次回は94位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)
※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki