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【37位】ザ・キングスメンの1曲―「最強」の失敗録音が、史上最も多くのカヴァーを誘発した

「ルイ・ルイ」ザ・キングスメン(1963年6月/Jerden/米)

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※こちらはドイツ盤シングルのジャケットです

Genre: Garage Rock
Louie Louie - The Kingsmen (June. 63) Jerden, US
(Richard Berry) Produced by Ken Chase and Jerry Dennon
(RS 54 / NME 157) 447 + 344 = 791

大袈裟ではなく、その後のロックおよびポップ文化の「すべて」を変えてしまった1曲の、決定版的ヴァージョンがこれだ。巷間「最強」と呼ばれる「ルイ・ルイ」がこれだ。

とはいえこの曲は、ザ・キングスメンのオリジナルではない。口伝で次から次へと引き継がれていくうちに化学反応が起きて変化した、不思議な生き物のような来歴がある。

オリジナルは57年、R&Bアーティストのリチャード・ベリーが書いて歌った。しかしあの印象的な「ダ・ダ・ダ、ダ・ダ/ダ・ダ・ダ、ダ・ダ」というリフは、ベリーの発明品ではない。アメリカでは「エル・ロコ・チャ・チャ」として知られるキューバ製のダンス・ソングの、レネ・トゥーゼ版のアレンジにあったもの。これをベリーが引用して、カリプソ風のドゥー・ワップにした。そして61年、ワシントン州はタコマのシンガー、ロッキン・ロビン・ロバーツがロック・アレンジにて録音。このシングルをジュークボックスで聴いて興奮したキングスメンが「俺らもやろうぜ!」となって出来たのが、これだ。特徴は――「とても下手だ」ということ。おそらくそのせいで「時代のニーズに」合致した。隙だらけの荒っぽさが、ビートルズのブレイク直前のアメリカで若者の心をつかんだ。

まずもって、リズムがよれている。さらに問題なのが歌で、酔っ払いかと思わせる不明瞭な発音で、あわあわと歌う。これは歯に矯正用のブリッジをつけたままのジャック・イーリーが、天井から吊られたマイクに向かい、仰ぎ見ながら歌わざるを得なかったせいだ、と言われている。もちろん録音はワンテイク。コストは50ドルだった。そして最初のリリースでは、600枚しか売れなかった。しかしラジオの後押しを受け再リリースしたところ、12月にはビルボードHOT100の2位に到達。2月に追い出されるまで、ずっとトップ10圏内に居座るほどの大ヒットとなって――かくして人類は「ルイ・ルイ」を知った。

その後、録音されたものだけで数千が確認されている。「聴いたら即、自分でもやりたくなる」曲だからだ。「ルイ・ルイ」だけを集めたコンピレーション盤は何種類もあるし、映画やTVでの使用ぶりもすごいし、ベリーの誕生日の4月11日は毎年「国際ルイ・ルイ・デー」だ。キンクスの「ユー・リアリー・ガット・ミー」(55位、64年)のリフに啓示を与えたのは当曲だし、ザ・フーも大いにインスパイアされている……ロックの別名は「ルイ・ルイ」だと勘違いする宇宙人がいてもおかしくないぐらい、今日も地球のどこかであのリフが、たとえば野球場などで、軽快に流れ続けているはずだ。

(次回は36位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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