クラブハウスは意識の格差社会?自分を見失わないためのメモ|辛酸なめ子#07
見出し画像

クラブハウスは意識の格差社会?自分を見失わないためのメモ|辛酸なめ子#07

話題の音声SNSに登録してみると……

最初のうちは、知り合いがたくさん住んでいる街に迷い込んだみたいで楽しかったです。話題の音声SNS、「Clubhouse」に1月の終わり頃に入って、ブームの盛り上がりとともに一時ハマっていました。

実生活で人と集まる機会がほとんどなくなり、マスクを外して飛沫を飛ばしながらトークもできないこのご時勢、声だけでスマホやタブレットごしに安全にコミュニケーションできるSNSは貴重です。

ただ、使えるようになるまではいくつか関門がありました。友人から招待するというLINEの知らせが来て、急いでブラックベリーで「Clubhouse」を検索し、同名アプリをダウンロードしたら全然関係ないSE向けの「ブロジェクトマネージメント」アプリでした。もう一個「The Clubhouse」というアプリをダウンロードしたら、ミーティングルームを予約する海外のアプリでした。どうやらアンドロイドにはまだ対応していないことが判明(開発中だそうです)。Apple Storeからアプリをダウンロードできることがわかり、iPadに無事にインストール。登録したら、なぜか招待してくれた友人と別の人の名前が招待者の欄に入っていたのですが、同時に招待してくれていたのでしょうか。何にせよありがたいことです。

英語オンリーなので、使い方も最初のうちは試行錯誤でした。プロフィールなどを入力してさっそくスタートすると、フィードと呼ばれる画面に、その日のトークルームがいくつも表示されます。フィードには今、会話がなされている部屋がいくつか並んでおり、登壇しているスピーカーのアイコンと、聞いているオーディエンスの人数が表示。日本や海外など混ざっていて、タイトルと人数が表示されているので好きなルームをクリックすると、オーディエンスとして参加できます。

激しさを増す「肩書マウンティング」

トークルームに入ると三つの階層があります。実はヒエラルキーが存在している世界です。一番上にいるのが、ルームを作ったモデレーターと、トークをしているスピーカー。次の階層にいるのが「Followed by the speakers」でモデレーターやスピーカーにフォローされている知り合い的な人たち。その次の階層が、「Followed by the speakers」その他大勢です。フォロワーが少ないと、いつまでも「その他大勢」に……。

基本、トークできるのは一番上の階層の人だけですが、一方通行ではなく、挙手ボタンを押して選ばれて引き上げてもらうと自分も一緒にトークに参加できます。挙手ボタンを押さなくても、選ばれて引き上げられることもあります。大勢の中から選ばれたい……と、上昇志向を刺激するSNSです。

選ばれるには、写真をクリックすると出てくるプロフィール欄でアピールするしかありません。海外の、有能そうな人の写真をクリックすると「CEO」「COO」「CTO」「Founder」「Community builder」「Early stage investor」など、すごそうな肩書きが出てきて圧倒されます。

日本のクラブハウサーもその文化に感化されてきたのか、最近はプロフィール欄での肩書きマウントが激しくなっているようです。「NPO理事長」「NGO事務局長」「4社代表取締役社長」「5社経営CEO/CMO」と、何かの長であることをアピールする人。「市長」もいました。あとは「売上6億円達成したWebマーケティングコンサルタント」「広告費ゼロで起業一年目で1億2000万経営コンサルタント」など億単位の金額を書いている人も見かけます。あとは「ストラデジックディレクター」「スタートアップ」「アクセラレーター」「インタープレナー」「スーパーイノベーター」と、素人には意味不明なカタカナの肩書きも多いです。「デザイナー」「カメラマン」「エディター」など、自分の周りの業種がすごくわかりやすい名称だったと気付きました。「連続起業家」という謎の肩書きや、「クラブハウサージャパン 上級メンバー」と新たな身分制度を作っている人も。もう言ったもん勝ちの世界です。新しいSNSなので、早く一足先に上に行きたいという野望がうずまいています。フォロワーの数が1K(1000人)以上いないと、優位に立てないという空気も醸造されつつあります。最初のうちは、お互い無言でフォローし合ってフォロワー数を稼ぐという「無音部屋」も散見されました。

謙虚になれるSNS?

声が大きくて、友人知人やフォロワーが多い人が影響力を持ち、ルームに人を集めている印象です。また、この人が有名な人たちとルームをやっている……と、入るのに気後れしながら眺めていて、フラッシュバックしたのは小中学校時代の自分。クラスの片隅で人気者グループを羨ましそうに眺めていた時とマインドが変わっていません。大人になってまた、人気者の勢力図を目の当たりにすることになるとは……。彼らの目に止まるようにプロフィール欄でアピールしなければ、という思いが芽生えかけました。「有名そうな人をフォローしてトークして仲良くなることで成り上がれる」というコツも耳にしましたが、なかなかそこまでの気概がなく……。CEOでもないし、自分は何者でもない、と謙虚になれるSNSかもしれません。

新しいSNSにいちはやく参加しただけあって、意識が高い人々も多いです。クラブハウスは、意識の格差社会なのかもしれません。ダイバーシティとかインキュベーション、ステイトメント、エクスペリエンスといったワードが飛び交っていました。

オードリー・タンがスピーカーとして参加したトークルームに行ったら、オードリー・タンが抜けたあと、ほとんど日本人なのに皆さん流暢な英語で会話していました。とりあえずオードリーの知的な生声を聞けたのは良かったです。IQが1くらい上がった気がします。

身の丈に合ったルームを探してみる

先日、情報番組の街角インタビューで若者にクラブハウスについて聞いていました。クールな若者たちは

「もういいかなって。飽きが出てきた」
「最初の一週間だけやった」
「この時間、別に使った方が有意義かな」
「とくに話したいことない」

などと語っていました。クラブハウスはハマる人と、距離を置く人の二極化にわかれそうです。意識高い系の人々の部屋に入ってしまい苦手意識を抱いて去っていく人も多そうです。

私も最初は無理して意識高い系ルームに入ったりしていたのですが、意識が上の部分と下の部分で分離を起こして金縛り状態になりそうだったので、身の丈に合ったルームを探すことにしました。

トークルームを見てみると、敷居の高い部屋ばかりではありません。例えばある平日の夕方に開かれていたルームは……今日の夕飯は何にするか話し合う部屋、占い師が相談を受け付けている部屋、打楽器奏者が解説しながら演奏する部屋、NPOに関わる方法についての部屋、女性起業家の集まり、投資のはじめ方、好きな映画について語る部屋、プロレスの生中継、など。固いものからゆるいものまでいろいろあります。

聴覚を鍛えられるSNS?

自分も友人とトークルームを作ったことが何度かありました。私がスピーカーやモデレーターとして参加したルームは、人があまり集まらない傾向に。多くて数十人くらいです(人気の人は何千人も集めます)。

先日は、和歌山アドベンチャーワールドのパンダの赤ちゃんの名前を考えるというテーマのトークルームを立てたのですが、1人しか来てくれませんでした……。その1人(アナウンサーの女性)とはディープな話ができたので良かったですが、自分の集客力のなさを痛感。人を集めるためには、いろいろなトークルームに入ってスピーカーに選ばれたりして地道にフォロワーを増やしたり、認知度を高めるのが良いようですが、なかなかそこまで手が回りません。

自分の能力的にも積極的に活動できないので、受け身で興味を引かれたルームをチェックする日々。前述のオードリー・タンをはじめ、セレブの声を聞けるのは(英語がわからなくても)貴重な体験で、耳から良いヴァイブスを吸収できます。ナオミ・キャンベルの貫禄と経験値漂う声、トリー・バーチの成功者感あふれるエネルギッシュな声などを聞けて感無量でした。セレブは感謝や愛などポジティブなセリフを頻繁に発することがわかりました。セレブ以外でも、人の声には人柄や教養度、ポテンシャルなどが現れるようです。教養を秘めた内向きの声、噂好きな人の浮ついた声、余裕漂う成功者の声……聴覚を鍛えられるSNSです。狭い世界で、肩書きを盛った人たちのマウント合戦に疲れたら、本物のセレブの声を聞くことでポジティブなエネルギーをわけてもらえます。

今月の教訓
意識の格差社会で自分を見失いそうになったら、本物のセレブの超えでエネルギー充電。

画像1

辛酸なめ子(しんさん なめこ)
1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。 漫画家、コラムニスト。女子学院中学校・高等学校を経て、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。恋愛からアイドル・スピリチュアルまで幅広く執筆。著書に『大人のコミュニケーション術』(光文社新書)、『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)、『霊道紀行』(角川文庫)、『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)、最新刊に『女子校礼讃』(中公新書ラクレ)がある。

「新・大人のマナー術」連載はこちら


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
光文社新書

よろしければサポートをお願いいたします。もっと読んでいただけるコンテンツを発信できるように、取材費として大切に使わせていただきます!

いい本との出会いがありますように!
光文社新書の公式noteです。2021年10月17日に創刊20周年を迎えます。光文社新書の新刊、イベント情報ほか、既刊本のご紹介や注目の連載をアップしていきます。お気に入りの一冊について書かれたnoteを収録するマガジン「#私の光文社新書」の投稿をお待ちしています!