斜陽産業だからこそのビジネスチャンス―Z世代書店主の読書論(書店論)①by大森皓太
斜陽産業だからこそのビジネスチャンス―Z世代書店主の読書論(書店論)①by大森皓太
「Z世代書店主の読書論(書店論)」という連載の仮テーマをいただいたとき、少し身構えた。周りから見たときに私はZ世代に属しているように見えるのか、と少なからず自己認識とはギャップがあったからだ。つまり、私は自分自身をZ世代であると意識したことがあまりないのだ。
そもそもZ世代とはどういう人たちのことを指すのだろうか。マーケティングアナリストの原田曜平の著書『Z世代──若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社)にはこのように書かれている。
1995年生まれの私はちょうど境界線にいて、Z世代といえないことはない。しかし、“明確な定義はありません”とあるように、Z世代とはある年齢でスパッと分けられる類のものではなく、年齢のみをもって判断するのはナンセンスだろう。
では、Z世代をZ世代たらしめるものは何であろうか。自身もZ世代である竹田ダニエルは著書『世界と私のA to Z』(講談社)のなかでこのように指摘している。
そして、続けて
このようにZ世代というものを捉えてみると、私の中にも「Z世代的価値観」が選択可能なものとして存在しているように思う。そしてそれは特に「書店主」という職業と結びつくときにより強く自覚される。
現在、私は東京都三鷹市で「UNITÉ(ユニテ)」という書店を営んでいる。本が好きだから書店を開店したと思われがちだが実はそうではない。一般に斜陽産業と言われ元気のなさそうな業種であれば、ビジネスチャンスがたくさんあるのではないかと考えた上での開業だ。「出版社─取次─書店」という伝統的な分業体制にはもちろん利点はあるものの、時代の変化についていけず機能不全に陥っている部分も少なくない。また、団塊の世代が後期高齢者となる「2025年問題」は出版業界にとっても大きな問題だ。書籍の購買を支えていた世代が縮小することによってさらに苦境に立たされ、マスをターゲットとした大量生産・大量消費の薄利多売のビジネスモデルからの転換を迫られるのは間違いないだろう。
一方で、ひとり出版社やリトルプレスは存在感を増し、独立系と呼ばれる書店の開業も相次いでおり地殻変動の兆しも見える。このような過渡期において、業界全体で持続可能な仕組みを、そして書店業がビジネスとして成立しうる筋道を見出したい。その結果、私よりも本が好きな人(そうでなくてもいいが)が職業として書店を選択できるようになればより良い社会の実現に少なからず寄与できるのではないかと思っている。(果たして、このような考えは私の中の「Z世代的価値観」といってもよいだろうか。)
この連載では、一書店主(そして一読者)として日々考え感じていることを雑多に書いていきたい。それはおそらく「Z世代にはこういう本が売れる」といった一般論からは遠く離れたものになるはずだ。また、私の中にもZ世代的価値観と矛盾する価値観があり、その結果見当違いなことを述べてしまうこともあるだろう。しかし、書店の意見があまり表面には出てこず硬直化している現状で、一書店主として考えを表明できることは少なからぬ価値があると思っている。この連載が様々な議論やアイデアの呼び水となり、出版業界がより楽しいほうへと向かっていけることを願って、率直に記していきたい。(続く)