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GAFAMの中で最も派手にメタバースを照準しているフェイスブック

4章② GAFAMのメタバースへの取り組み

光文社新書編集部の三宅です。

岡嶋裕史さんのメタバース連載の22回目。「1章 フォートナイトの衝撃」「2章 仮想現実の歴史」「3章 なぜ今メタバースなのか?」に続き、「4章 GAFAMのメタバースへの取り組み」を数回に分けて掲載していきます。今回はその2回目です。

ウェブ、SNS、情報端末などの覇者であるGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)はメタバースにどう取り組んでいくのか? 果たしてその勝者は? 各社の強み・弱みの分析に基づいて予想します。

まずはフェイスブックの動きを見ていきましょう。

※下記マガジンで、連載をプロローグから順に読めます。

4章② GAFAMのメタバースへの取り組み

フェイスブック①―脆弱なビジネス

 今のところ、GAFAMの中で最も派手にメタバースを照準している企業といえる。彼らにはそうせざるを得ない事情がある。

 2019年のフェイスブックの純利益は221億ドル。個人の視点で見れば、想像もつかないほどの巨額である。いや、国家レベルでとらえてもすごい。イエメンのGDPとどっこいである。途方もない額だ。

 ところが、売上高は558億ドルだ。フェイスブック以外のGAFAMは1000億ドルを超えているので、その中ではいちばん小さいマイクロソフトのさらに半分になる。これを、常軌を逸した利益率と評価するか、スケールが小さいとくさすかは難しいところだ。

 1つ言えるのは、彼らはGAFAMの中では他のサービスへの依存度が高いということだ。

 もちろん、いまのインターネットシーンでは誰もが誰かに依存している。すべてのサービスがインターネットに依存しているし、アマゾンはグーグル検索がなくなれば売上を落とすだろう。グーグルだってウェブがなくなれば、存在意義を失う。

 しかし、フェイスブック以外のGAFAMは、余人をもって代えがたいサービスを手中にしている。アップルはiPhoneを人類の何分の一かに売り、アマゾンは物流を支配してその地域の雇用創出にも大きな影響を与えている。グーグルはAndroidでリアルの端末やIoTと結びつき、マイクロソフトのOSは人の命に関わるミッションクリティカルな業務に深く食い込んでいる。

 この状況を他社が覆せないとは言わないが、容易に逆転できる可能性の方がさらに薄い。

 それに比べると、フェイスブックのビジネスは脆弱である。

 もちろん、ネットワークビジネスは先行者利得が大きいので、フェイスブックのビジネスも覆しがたいのだが、たとえばフォートナイトに対して行ったように、グーグルとアップルがアプリストアからフェイスブックのアプリケーションを排除すると、フェイスブックには大きなダメージになる。

 フェイスブックとしては、どんな外圧や新規勢力の台頭にも揺らがない、確固たる基盤が欲しいところである。彼らはメタバースにそれを見いだしたように読める。

Oculus(オキュラス)の買収

 そのせいか、フェイスブックのメタバースへの挑戦は、ガジェットを通して行われている。具体的にはオキュラスの買収や、神経入力ARの開発だ。

 ここまでにも述べてきたように、メタバースは「もう一つの世界」である。メタバースのサービスは利用者をそこへ連れて行けばよい。したがって、良いインタフェースがあることは重要だが、それがVRやARである必要はない。

 しかし、フェイスブックはメタバースへのアクセスをVRで行いたいようだ。技術としてのVRに光明を見いだしているのは、説明になるだろう。でも、それ以上に大きいのは、VRがリアルな装備だからだ。

 VRヘッドセットは高額で、十全に使いこなすのにも時間がかかるガジェットだ。一度購入させてしまえば、利用者をロックインできる可能性は高い。フェイスブックにとっては垂涎の商品だろう。GAFAMの中では、比較的乗り換えがしやすいサービスだった自社製品が、ついに顧客をロックインするのだ。

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Oculus Quest 2

 オキュラスは、2012年創業のベンチャー企業である。もともとの社名は「オキュラスVR」だった。GPUメーカーのNDIVIAもそうだったが、「新規分野でゴリゴリ金儲けをするぜ!」というよりは、ゲーム好きの研究者・開発者が「もっといいゲームがしたい」と目論んだ色彩が強い。

 それまでにもHMD(ヘッドマウントディスプレイ)市場は存在していたが、オキュラスはゲーム好きの利用者を明確なターゲットにしたこと、要素技術が次世代HMDを組むにふさわしい閾値を超えつつあったこと、初期メンバーにやたら能力とモチベーションの高い人材が集まったことなどを理由に、それまでとは隔絶したコストパフォーマンスを発揮する機器の開発に成功した。Oculus Riftである。

 オキュラスは2012年にクラウドファンディングなどで1億ドルほどの資金を調達していたが、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグがここに割って入る。彼は20億ドル(オプションでさらに3億ドル)を提示し、2014年にオキュラスを買い取った。

 これが高い買い物だったかどうかは、まだわからない。もしメタバースで覇権を握るきっかけになるのであれば、笑いが止まらないほど効率の良い投資だったろう。(この項続く)

※下記マガジンで、連載をプロローグから順に読めます。




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