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【50位】エルヴィス・プレスリーの1曲―「光あれ」と命じた声をキングが聞いた、混沌から超大陸が生じた

「ハウンド・ドッグ」エルヴィス・プレスリー(1956年7月/RCA/米)

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Genre: Rock 'n' Roll
Hound Dog - Elvis Presley (July, 56) RCA, US
(Jerry Leiber and Mike Stoller) Produced by Elvis Presley and Stephen H. Sholes
(RS 19 / NME 263) 482 + 238 = 720 

マジック・イヤーである56年にリリースされた、天地創造級のウルトラ・ヒットがこれだ。エルヴィス・プレスリーの代名詞的ナンバーであることはもちろん、ロックンロールの基本性能、未来性、圧倒的な「勢い」を世界中に強烈に発信したという点で、歴史的な1曲ともなった。RCAからメジャー・デビューした彼の、第3弾シングルだった。

まずは数字から見てみよう。ビルボードHOT100の1位は当然。そこに11週連続駐留、次のシングル「ラヴ・ミー・テンダー」がその座を奪うまでのあいだ占拠したのだが、これは92年にボーイズ ll メンに破られる(13週)まで、史上最長の記録だった。だから56年の米年間シングル売り上げ1位は当曲で、2位に「ラヴ・ミー・テンダー」が入る。

当シングルはアメリカ国内だけでまず400万枚を販売。この時代にこの数字は、異常だ。だから、なんと、この年のRCAのレコード売り上げの「およそ半分ほど」はすべてエルヴィス関連だった、という。わけがわからないほどの大ブレイクだった、と言うほかない。ちなみにカップリング曲が「冷たくしないで」だったというのも、すごい。

この曲を最初に録音したのは、偉大なるブルース・シンガー、ビッグ・ママ・ソーントンだった。のちに「監獄ロック」(56位、57年)をエルヴィスに書き下ろす、ユダヤ人のソングライター・コンビ、リーバーとストーラーがこの曲を書き、彼女のプロデュースもした。53年に発売された同シングルは、R&Bチャートの1位を記録。粘っこいリズムの、見事なる1曲だ。もちろんエルヴィスもこのヴァージョンを知っていて(シングルを持っていたそうだ)、さらにはフレディ・ベル&ベルボーイズのヴァージョンを参照して、自分のものを作り上げた。結果、ビッグ・ママ版とは遠く離れた仕上がりとなった。

これは「女たらし」の男を非難する歌だ。ゆえにビッグ・ママ版では、女性が男性に「なめんじゃないよ」と詰めるスタンスだ。ここをエルヴィス版では、軟派な男を同性として「たしなめる」ようなタッチへと、変えきっている。この変更は、エルヴィス本人がおこなった。さらに大幅に歌詞を簡略化して「繰り返し」を多くした。ブルースというよりも、飛び跳ねるかのごとき軽快さを強調した。そして「見た者全員がびっくりした」ステップ込みで、ライヴなどで披露した。ステージの最終曲の定番で、歌い出した瞬間に、いつも暴動みたいになった、という。まさに「マルチ・レイシャル」な経路を通じて、最後に大爆発を起こした奇跡の一端が、このとき「ロックンロール」最初期の象徴となった。

(次回は特別コラムです。お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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