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ワクチン打つ?打たない?2回接種した私に起きた「人間関係の副反応」 | 辛酸なめ子 #12

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「ワクチン懐疑派」だった私ですが……

 新型コロナワクチンの副反応は、接種した自分へのご褒美に服を買いまくる服反応……なんて悠長なことを言っていたのは今は昔。想像以上にキツかった2回目の副反応の発熱と倦怠感、さらにワクチンを打ったことで友人が離れていくという副反応まであって、心身ともにハードな日々です。

 1年ほど前は、私もどちらかというとワクチン懐疑派でした。高速開発されたワクチンなので、将来的に何が起こるかわかりません。たまに読んでいる陰謀論のサイトでも、ワクチンがいかに危険か、詳細なデータとともに綴られていました。mRNAワクチンによって、人類の多くが数年以内に死ぬ、という恐ろしい文言も……。

 しかしニュース番組はデルタ株の感染力のエグさについて報じながら、ワクチン接種が進んだアメリカで、人々がマスクを取ってコロナ以前の生活を送っている様子を映し出していました。マスメディアによって少しずつ洗脳されていった私は、集団免疫の捨て駒として、接種した方が良いのでは?と思うようになってきました。たいして世の中に貢献できていない私も、集団免疫の一人となることで少し役立てるかもしれない、と……。

 それでも不安でワクチンについて迷っていたある日、瞑想中、大天使のビジョンが見えました。翼の中で守ってくれているかのような姿を見て、ワクチン、大丈夫かもしれない、と思えてきました(後日友人にその話をしたら『召される予兆では?』と言われてしまいましたが……)。また、バイオプリンターによって、スパイクタンパク質の設計図であるmRNAが生産される、という未来的な先進技術にも惹かれるものがありました。

 意を決し、モデルナを接種。1回目は、よく言われているように筋肉痛と若干のダルさを感じました。しばらく腕が痛くて服を着替えるのも一苦労でしたが、腕の痛みが和らいでいくにつれて、体内で免疫力が高まっているような感覚で(実際は抗体ができるのは2回目接種して数週間後)、ワクチンハイのような状態になっていました。

 でも、そのハイな状態が一転してダウナーになるような出来事が……。

「反ワクチン派」の友人たちに……

 それは、反ワクチンの友人たちの存在です。スピリチュアル系や陰謀論好きは、反ワクチンの情報に触れることも多く、自然とそのような思想になっていきます。私もどちらかというと、そっち側だったので気持ちはわかります。でも反ワクチン派の、ワクチンによって体が磁石になるとか、5Gとつながって人類家畜化計画が遂行されるとか、あらゆるBluetooth機器と接続するようになる、といった説は、さすがに眉唾な気がしました。Bluetooth接続できたら、スマホから直接脳内でスポティファイを再生できたりして便利かもしれませんが……。

 とにかく、友人との心のディスタンスが生まれる、というのは予期せぬ副反応でした。コロナによって社会が分断され、ワクチンによっても人間関係が隔てられてしまうとは。友情はmRNAよりも壊れやすいものかもしれません。

 ある日、反ワクチンのスピリチュアル系の友人とお茶をしていた時、ワクチンハイも手伝って「実は私、モデルナのワクチン打ったんです」とカミングアウト。するとその友人は、目を見開いて「ええーっ!!」と驚き、その後、数十秒間沈黙が。こんなに驚いた人の顔を見たのははじめて、と思いながら、もしかしたら私は取り返しがつかないことをしてしまったのかも……と不安が浮上。

 友人は沈黙後、「盲点でした。でも、人それぞれの価値観を尊重したいと思う」と受け止めつつ、「実際はワクチンじゃなくて、偽の生理的食塩水を注射してる場合もあるらしいですよ。それだといいですね」と、慰めてくれました。菅首相が打ったのも偽のワクチンとか、実は針がちゃんと刺さっていない、という説があるようです。その友人は、反ワクチンながらダライ・ラマ14世がワクチンを接種したという情報に、少し心が揺らいだそうでした。

 また別の陰謀論好きの友人に、ワクチン接種を報告したら、驚かれたあとに「辛酸さんはきっと救われます!」と言われました。救われる=救いが必要な状況になる、ということでしょうか。「辛酸さんは反ワクチンだと思っていました」と知人に言われたり。また、別のスピリチュアル系の友だちにも「ショックです……」と言われました。

 ワクチンについてツイッターに書いたら「えっそっち側?」というコメントが。美容と健康に詳しい友だちに「そうですか、ああなるほどね……。そうか、そうですか……」と何か情報を知っている感じで言われたのは気になりました。ワクチンの人間関係の副反応は結構大きいです。エンタメとして陰謀論を楽しんでいる知人には、「5Gどうですか?」と聞かれて「音が聞こえやすくなりましたよ」と冗談っぽく答えたり。でも、中には本気で体が磁石化すると信じている友人もいて、反ワクチンの話題は軽々しくネタにできない感じです。

 でも、ワクチンを打った人同士とは、副反応についてトークして一体感を得られます。「腕が痛くなって……」「私も全然上がらなかったです」という話題から、2回目の副反応への懸念まで。先に打った人が、あとから打つ人に必要なもの(大量の水や冷えピタ、解熱剤など)を伝えたり。とくにモデルナは8割近くの人が副反応で発熱すると言われていて、皆で一緒に試練を乗り越えるという連帯感がありました。

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副反応を「モテ」に利用する女子アナが現れた!

 いっぽうで反ワクチン側の抵抗も激しくなり、「シェディング(shedding)」「ADE」といった単語が登場。「シェディング」とは、ワクチン接種者の呼気や汗によってスパイクタンパク質が排出され、そばにいるだけでワクチン未接種者も体調が悪くなってしまう、という説です。松葉茶やタンポポ茶を飲むと良いとか。ワクチンを打ったことで、一部の人にさらに避けられてしまいそうです。

「ADE」は「抗体依存性免疫増強」の略で、逆にウイルスの感染を促進してしまう症状のようです。こんな風に難しい専門用語を出されると、ワクチンはやっぱり危険かも……と心配になってしまいます。こうしてネガティブな精神状態になることで免疫力が低下してしまいます。

 前に「ワクチン」で検索したら、予測候補で「ワクチン 死ぬよ」と出てきたのですが、誰かに予測を使って語りかけられているような不気味さが。そうやって恐怖心を煽らないでほしいです。ワクチンを受ける時は、医学の進歩や研究者をリスペクトし、感謝の気持ちで腕を差し出せば、そんなにひどい副反応や長期的な悪影響は起きないのではないでしょうか。

 私の2回目の副反応はというと、接種翌日、熱と倦怠感で寝込みながらも、締め切りがあったので時々起き上がって、気力を振り絞って仕事。途中、火星の通信機器とか、数式とかが目の前に浮かぶ現象が。水を大量に飲んだからか次の日はなんとか復活できました。

 そして芸能ニュースに目を向けると、梅宮アンナやきゃりーぱみゅぱみゅ、野田クリスタル、RIKACO、ディーン・フジオカ、新山千春といった芸能人が、副反応が辛かったというニュースでサイトを賑わせていました。大きな副反応がないのは魔裟斗くらいです。

 芸能人にとっては、注目を集めるチャンスです。すっぴんで寝込んで、頬が赤くなった色っぽい写真を投稿した女子アナもいました。副反応をモテに利用するとは!そこまでメンタルがタフだったらどんな症状も乗り越えられます。副反応にもメリットやポジティブな側面を見出せれば無敵だと希望を抱きました。

今月の教訓
副反応は辛いけれど、同じ症状を乗り越えた人同士の絆が深まる。

著者プロフィール

辛酸なめ子(しんさん なめこ)
1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。 漫画家、コラムニスト。女子学院中学校・高等学校を経て、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。恋愛からアイドル・スピリチュアルまで幅広く執筆。著書に『大人のコミュニケーション術』『新・人間関係のルール』(光文社新書)、『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)、『霊道紀行』(角川文庫)、『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)、最新刊に『女子校礼讃』(中公新書ラクレ)がある。

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