人間の力を加えてイノベーションを起こす――ChatGPTの基礎知識⑬by岡嶋裕史
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人間の力を加えてイノベーションを起こす――ChatGPTの基礎知識⑬by岡嶋裕史
今から使っておくべき
以前にプログラミング教育の書籍(『プログラミング教育はいらない』)を書いたとき、プログラミングはコンピュータという異文化とのコミュニケーションである、陽キャが楽しそうにやっているコミュニケーションと比べると異質に見えるかもしれないが、文化や思考方法が違う相手となんとか相互理解するという意味ではそれと同等以上に難度が高く、かつ有用なコミュニケーションだから、プログラミング的思考は身につけておいたほうがいいよと記した。
また、プログラミングはそれを誰にも迷惑かけずに試行錯誤できる点がいい。学校の先生は忙しいので、何度も質問に行くと煙たがられるかもしれないが、コンピュータは意に介さないので気後れせずにいくらでもやり直しや改善を繰り返すことができる、練習の相手として最善である、とも書いた。この傾向はプログラミング以外にも波及していて、ELSA、Speakeasy Labs といったベンチャーがAIによる英語の発音矯正、表現修正アプリで大成功している。
これは上司の立場で部下を見たとき、担当者の立場で同僚を見たときも同じだろう。ブレストの相手や資料収集をお願いする相手として、酷使しても文句が出ない、むしろ酷使歓迎(繰り返すほど精度が上がる)という意味では人間の作業を一部置き換えていくかもしれない。
総じて、「誰でも使いこなせる」技術ではなく、むしろ「使い方によっては個々人の生産性は今以上に差が開く」が、「嫌がられもせずにタダ(一部有料)で試行錯誤できる」ので、「今から使っておきましょう」と提案する。
人間の力を加えてイノベーションを起こす
そして、仮に抜群のプロンプトを思いついたとしても、現状では一発で欲しい回答ど真ん中の正解はまだ出てこない。将来はともかく取りあえずは、それをつないで矛盾なく体系化する部分を人間が担えば、いい仕事ができるだろう。
その仕事はたとえば、GPT-4 が知らない知識を埋めたり、間違えて覚えていたりする知見を修正することかもしれないし、GPT-4 が出してくる一般論を自社の事情に合わせて個別化することかもしれない。ChatGPT が出力するプログラムもまだ断片でしかないから、それを組み合わせ、辻褄を合わせて大規模システムへ導くことかもしれない。
GPT-4 の中では距離が遠い分野(GPTシリーズは言葉同士の関係を、距離で捉えている)と思われていて、絡めては出力してこないもの(たとえば、歌舞伎と初音ミクを組み合わせて新しいエンタメを作ってみようぜ、みたいなやつ。この例はすでに実現したので、今は関連づけて回答されちゃうけど)をあえてくっつける能力が人間の「イノベーション」になるかもしれない。
マルチモーダル
また、GPT-4 は、最近EUが政策議論でよく言っているように、汎用目的型AI(general-purpose AI)ではあるけれど、AGI(汎用人工知能)ではない。
GPTシリーズは言語を扱うエキスパートシステムだ。言語は人間の活動の基盤を支え、多岐にわたって応用できる能力である。だから言語分野の中で広い範囲にわたる能力を獲得したGPT-4 は、ひどくいろいろな力を発揮できるAIのように感じられるが、所詮は言葉を操るだけだとも言える。
GPT-4 はマルチモーダルと言って、複数の種類のデータを取り扱える能力を手にした。たとえば、文書を解析するときにそこに添えられている図版も含めて解釈ができる。だから、大学の試験問題などで高得点が取れるようになったのだ。文書しか扱えない状態とは雲泥の差である。
とはいえ、まだマルチモーダル化は端緒についたばかりなので、ここの部分を人間が補うのも良いアプローチだろう。
先ほどの試験問題の例で言えば(GPT-4 はもうできるけど)、図版の部分の解説を人間がしてあげれば、図版を解釈できないバージョンのGPTシリーズでも図版付きの入試問題の解答精度が上がる。(続く)