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伝説の野草茶を求めて|辛酸なめ子

八ヶ岳の秘密結社

 そのお店の話題は、健康に詳しい人や、カフェをやっている人などから何度か聞いたことがありました。山の中に知る人ぞ知るお店があって、女主人が調合した野草茶が売られている。その野草茶は行ってすぐ買えるわけではなく、そのお店の女主人が、この人なら、と認めた人しか買えない。何人かで行ったけれど、許しが出なくて買えなかった人がいる、というどこか秘密結社のような集まりで。関門を突破しなければ買えない、というシステムも気になります。その野草茶を出しているカフェが都内にいくつかあって、優しくて滋味あふれる味わいでした。

 いつかその野草茶のお店に行ってみたいと願って数年。遠いのでなかなか行けないままでしたが、ついにその願いが叶いました。友人の夫婦が、八ヶ岳の近くに土地を買ったとのことで、その土地を見に来ないか誘ってくれたのです。さらにその野草茶のお店も、友人は何度も通っているそうで、その日も立ち寄る予定だそうです。ぜひ便乗させていただきたいです。そのお茶を買うことが許されるかどうかで、私の処世術も試されます。

 しかし、聖域のようなお店にたどり着く前にはプチ試練がありました。前日に切符を買った特急あずさは、もう指定券が売り切れで「座席未指定券」というものしか残っていませんでした。調べると、主にデッキで立って乗る席ですが、途中空いた席があったら座っても良いらしいです。そんな肩身が狭い席があるとは……(ちなみに料金は指定席と同じ)。

指定席ヒエラルキー

 当日駅員さんに聞いて、頭上のランプを確認するように、と教えてもらいました。各座席、天井にランプがついていて、緑は予約済み、赤は空席、黄色はもうすぐ予約した人が乗ってくるサインとのこと。緑はダメですが、赤になったら座れて、黄色は座席を予約した人が乗ってくるギリギリまで座れそうです。ビクビクしながら八王子まで黄色ランプの席に座らせてもらい、そのあと追われるようにデッキへ……。八王子から甲府まで約1時間、揺れる車内で体幹を鍛えながら立ち続けました。席に座っている人が人生の勝者に見えます。通りすがりの視線にも憐憫や見下されるような感覚を覚え、すっかり自己肯定感が下がってしまいました。ただ、デッキは窓が縦に長くて、景色が見やすかったのは良かったです。

 乗り換えて甲斐大泉駅に到着し、友人夫妻の車に乗せてもらって野草茶のお店「りん」を目指します。11時頃に入るとお店の奥にテーブルと椅子が並んでいました。購入希望者はまずここで、野草茶を開発された安田先生の説明を拝聴します。座っていたら、一人一人にスタッフが、野草茶と野菜料理を運んできました。野菜のスープやサラダ、つけもの、ゆでたカボチャ、豆など健康的なメニューで、地元の野菜なのか食べたら新鮮でおいしいです。

 でもメニュー表もなく、このまま食べていて大丈夫なのか……と思って友人に聞いたら、ここでは野草茶を買う前に、なんとサービスで食事が振る舞われるとのこと。特急で立ちっぱなしで下がった自己肯定感が、ありがたいおもてなしで少し回復しました。でもそのあと、「果梨」の女主人の衝撃の発言で、人生観が揺らいでしまうのですが……。

ただならぬ雰囲気がただよっています


水を変えればすべてが変わる……?

 十数席ある座席はだいたい埋まり、座って待っていると野草茶を開発した安田先生が入ってきました。とても80代には見えない肌のハリと、みなぎる活力と、滑舌。カッチリした白いシャツがどこか女教師のようです。安田先生は私が今朝都内で買って持っていたほうじ茶のペットポトルに目をとめました。

「こんなの飲んでるの!? 最悪!! よく、生きてるね」と、強烈な洗礼のような一言が。一応これは成城石井で買った良いほうじ茶なんですか……と申したら、「ダメもいいところ!」と、斬り捨てられました。安田先生によると、ミネラルウォーターをはじめ、ほとんどの売られているお茶や飲料は体に悪くて「水毒」の原因だそうです。「食べ物は何を食べてきたかが重要ですが、ほとんどの人は何も気を付けてない。今売っているものは100%、薬品です」とのこと。

 お客さんの中から1人が前に呼ばれ、実験が行なわれました。男性客に市販のペットボトルを持たせて、安田先生がちょっと押すと、立派な体格の男性がよろけていました。「ほら、持っただけで重心が狂っちゃう。わかるでしょ?」安田先生は、お水の重要性について主張します。

「水っちゅうのは一日2リットル飲まないといけないの。その水分が、今は全部薬品だから病気になっちゃう」

 安田先生いわく、戦前は食事が原因の病気はほとんどなかったけれど、昭和36年から農薬含めどんどん薬品が入り込むようになって、病気の原因になってしまっているそうです。

寿命は伸ばせる……?

「何しろ100%薬品だからこうなっちゃう!」と、安田先生は、ドロドロの汚い液体が入ったペットボトルをドン! とテーブルに叩き付けました。

「薬品が入ってから、泥だらけのお母さんの体から子どもが生まれてくるようになった。結婚したり子どもを産んだりする活力がない。独身の人も増えているけど、これが現状」

 たしかに私も仕事で精一杯で他に余力がないような……。毒の成分のせいだったのでしょうか。それにしても某歌手の「羊水が腐る」発言級の衝撃です。安田先生の実験は続きます。

「これは結構良いお水として売ってるけど、実はとんでもない」と、男性客に、飲む温泉と呼ばれているミネラルウォーターを持たせて押したら,またよろけていました。純米酒やお茶、健康飲料などを持たせて、押すたびによろけるという、コントのようなシーンが繰り広げられ、半笑いで眺めながらも市販品への不信感が芽生えて怖くなってきます。

「持ってるだけで軸がずれちゃってる。軸っちゅうのがあるから足がピシッとする。それが曲がっちゃう。曲がれば内臓も歪んじゃう」

 持ってきたほうじ茶は、あとで洗面所に流そうと思いました。

「私は10年も20年も、全国回って一生懸命この野草茶を紹介してきたの。日経が取り上げてくれて、やっと世の中に広まった。たくさん飲んで、これをこれにしていかないと!」

 安田先生は、ドロドロの水をドン! とテーブルに叩き付けて、隣のきれいな水を指し示しました。野草茶を1日2リットル飲んで、体内の毒素を排出することで、健やかな体に近付けるそうです。安田先生ご自身も40歳頃にガンを患い、命を失いそうになりましたが、野草茶で復活した体験があるとのこと。

「霊能者に、あなたの寿命は40歳ですね、って言われたことがある。寿命が決まっていてもものの考え方で伸ばすことができるのよ」

「ぜんぶ入り」茶の効果とは

 体幹がゆらぐ実験ですが、やはり野草茶や、この「果梨」の水道水を持つと、押しても揺らぎませんでした。ここで使っている浄水器は、100メートル四方を浄めることができ、開発者は利権絡みで消された、といういわくつきの商品だそうで、こちらも気になりましたが高額で断念。

 安田先生の手製のプリントを参照しながら野草茶についてのくわしい説明がありました。野草茶には、ヨモギ、クコの葉、ドクダミ、クマザサ、月見草、ビワ、スギナ、クワの葉、オオバコ、カワラケツメイイタドリ、モロヘイヤ、ナズナ、アカザ、クズなどメジャーなものからマイナーなものまであらゆる野草が入っています。それぞれの効能を並べるだけで全ての病の症状はおさまりそうです。

 この茶葉をひとつかみヤカンに入れて、さらに別で売られているハトムギ、ベニ花、ハブ茶を加えて(こちらも野草茶に入れてほしい気もしましたが……)、煮出して飲むのが良いそうです。煮出すのは手間がかかりますが「ティファール使っても良いですか……」とはとても聞けない雰囲気でした。さらに「野草粉」という、野草茶に混ぜてビタミンなどバランスが取れる栄養補助食品も売られています。とにかく野草茶が全ての基本になるようです。

 いっぽう、手元の資料によると、世の中に出回っているコーヒー、紅茶、緑茶、水道水、ミネラルウォーター、牛乳、ペットボトル飲料、諸外国のお茶、アルコール類など全て「水毒の原因」で、どんなに飲んでも水毒にならないのは野草茶だけ。お茶をたくさん飲んで、下痢,熱、咳,汗、鼻水、尿、湿疹、おでき、吹き出物、よだれなどの形で老廃物や毒素を外に出すことが肝心だそうです。

「今の子はよだれも出ない。みんな中にためてる。野草茶を飲んで泥だらけの悪いものを出さないとえらいことになるから」

デトックスの「裏技」

 ちなみに安田先生は、薬品だらけの水や飲みものを飲まされるのを避けるため旅行にはほとんど行かないそうでストイックです。「朝昼晩と過ごして一泊すればおかしくなってくる。薬品だから」とおっしゃいます。遠くに行かなくても八ヶ岳の美しい自然だけで満たされそうです。

 安田先生が、かつてデパートの人に、野草茶を少しと適当な茶葉をミックスしてかさを増し1袋5万9000円で売らないかとと持ちかけられ、即断ったという裏話も教えてもらいました。世の中の人は水毒がたまっているだけでなく心も毒されているようです。

 お話を伺って軽くショックだったのは、私が毎日のように飲んでいるコーヒーショップのラテとかチャイなどは、やはり体に悪いとのこと。暑いところで栽培するコーヒーは体を冷やし、紅茶も緑茶も同様で、白砂糖も良くないそうです。薄々わかってはいましたが、やる気を出すため、精神的には必要な飲み物です。

 でも、最後に安田先生は裏技を教えてくださいました。それは愛と感謝のエネルギー。また実験台の男性客が前に呼ばれました。体に悪いペットボトルを、心に愛と感謝を抱いて持つと、先生が押してもよろけませんでした。もうこれで良いのでは……。一気に気が楽になりました。

 説明会のあとはショップコーナーに移動し、安田先生がレジに立って販売を担当。すごい体力です。野草茶やハトムギ、ハブ茶などをレジに持っていくと無事に購入できました。審査に合格したようで嬉しかったです。でもついでに買おうとした、抗酸化作用がある赤松の粉は「松だけ溶かしてもダメだよ」と買わせてもらえず、また次に挑戦したいという目標ができました。こうしてリピーターになっていくのでしようか。

 買った野草茶をときどき飲みながら、これでデトックスできるから良いかと思い、ラテなどのドリンクを飲む回数が増えたことは、とても安田先生には言えません……。

今月の言葉

毒の成分は野草茶と、愛と感謝でデトックス。不安や恐怖が毒を増幅させてしまいます。 

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