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【61位】グレン・キャンベルの1曲―働く男、エヴリマンのアメリカを描く実存カントリー叙事詩が、男を泣かせる

「ウィチタ・ラインマン」グレン・キャンベル(1968年10月/Capitol/米)

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※画像はイタリア盤ピクチャー・スリーヴです

Genre: Country, Pop, Country Rock
Wichita Lineman - Glen Campbell (Oct. 68) Capitol, US
(Jimmy Webb) Produced by Al De Lory
(RS 195 / NME 130) 306 + 371 = 677

日本では、この曲はあまり有名ではない。しかし米英においては、まったく違う。多くの人にとって「知らないわけがない」歌なのだ。カントリー界の大御所、歌手にしてギタリスト、グレン・キャンベルの代表曲のひとつであり、大袈裟ではなく、ある時期の「カントリーそのもの」をも象徴する名曲がこれだ。無数のカヴァーがあり、いまだに映像作品で使われ続けている。「愛され具合」が、ただごとではないのだ。

タイトルとなった「ラインマン」、ここでの意味は、アメフトのポジションじゃない。電話線の架線工事人を指す。その任務は、「ライン」の保守点検。道路を進みながら、電話線に異常があれば電柱に登り、修繕する。そんなとき、きみが歌っている声も聞こえるよ。ワイアを埋めつくすノイズの奥から……と、そんなふうに、ロマンチックに展開もしつつ、しかしラインマンはまた「黙々と作業に戻る」というのが、おおよその内容だ。

この曲の歌入れのとき、キャンベルは感極まって泣いてしまったという。ホームシックのせいだった。プロデューサーのアル・デ・ローリーも、伯父がラインマンだった。だから録音中、仕事している伯父の姿が彼の脳裏に去来した。歌の当時のアメリカでは、電話会社は郡などが所有する公共事業体であることが多く、だから工事人である「ラインマン」とは地方公務員だった。だからタイトルは「カンザス州ウィチタ市のラインマン」という意味となる。ブルーカラーの「どこにでもいる、普通の男」を主人公に据えた「初の実存主義的カントリー・ソング」との評は〈ローリング・ストーン〉のものだ。

名手ジミー・ウェッブが、彼の実体験にもとづいてこの曲を書いた。あるときウェッブは、西へ向かって自動車を走らせていた。沈みゆく夕陽に吸い込まれていく、真っ直ぐな道路の脇に、まるで終わりがないかのように、どこまでも伸びていく電話線を支える電柱が、列を成しているのが見えた。次々にあらわれてくるそれらは、しかし、さっき通り過ぎたのとまったく同じだ。そのうち、1本の電柱のてっぺんに、ひとりのラインマンのシルエットが見えた。「これは、寂しさの具現化だ」とウェッブは直観した――そんな叙情が、歌になった。これが大の男どもを泣かせまくった。作り手側も、聴き手のほうも。

当曲はビルボードHOT100では3位、HOTカントリーとアダルト・コンテンポラリーでは1位、全英7位を記録。流麗なる演奏は、キャンベルとローリーも名を連ねる、LAの名うてのスタジオ・ミュージシャン集団、ザ・レッキング・クルーが担当した。

(次回は60位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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