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突然の野外鍋焼きうどん|パリッコの「つつまし酒」#79

人生は辛い。未来への不安は消えない。世の中って甘くない。
けれども、そんな日々の中にだって「幸せ」は存在する。
いつでもどこでも、美味しいお酒とつまみがあればいい――。
混迷極まる令和の飲酒シーンに、颯爽と登場した酒場ライター・パリッコが、「お酒にまつわる、自分だけの、つつましくも幸せな時間」について丹念に紡いだエッセイ、noteで再始動! 
そろそろ飲みたくなる、毎週金曜日だいたい17時ごろ、更新です。

ある日、「天国酒場」へ

 9月25日に僕の新しい本『天国酒場』が発売されます。
 ふだん何気なく生活をしていると見過ごしてしまいがちなんだけど、すごく有名な景勝地というわけではない大きな公園のなかとか、川沿いとかに、突然ぽつんと一軒の茶屋が建っていたりする。思いきって入ってみると、思いもよらぬ絶景をつまみにお酒が飲めたりする。そんな「日常の隣にある非日常」的なお店ばかりの探訪記。かれこれ10年近くもライフワーク的に巡ったお店たちのことを記録でき、個人的にもすごく嬉しい内容になってますので、もしよかったら気にかけてみてくださいね。

 さて、そういう関係もあって先日、埼玉県飯能市にある「橋本屋」という天国酒場に行く用事がありました。午前中に家を出て、こういうご時世ですし、そもそも僕が天国酒場と定義するようなお店は営業時間が気まぐれなことも多い。駅に向かいながら、念のため女将さんに「今日は営業されてますか?」と電話をしてみると、「大丈夫だけど、開けられるのは12時半くらいになるかな?」とのこと。あらら、飯能の街にはその1時間くらい前には着いてしまいそうです。となるとどこかで時間を潰さないとな〜。

困ったときは100均へGO!

 電車で向かいながら考える。駅前に大好きな「ぎょうざの満洲」があったから、そこで軽く飲みながら待つなんてのはもちろん最高。だけど、飯能はとっても自然豊かな街。橋本屋の建つ入間川沿いの河原は、バーベキュー可能エリアもある。せっかくだからそこであったかいもんでもつまみにしつつ飲みながら待つというのはどうだろう? いや、そりゃあもちろん最高ですよね。
 ただ、バーベキューの道具なんて持ってきてないし、夏も過ぎてしまったので気軽にレンタルできるお店もないだろう。あ、駅ビルにおっきい100均が入ってたはず。最近の100均はすごいから、そこで手に入るものでなんとかなるんじゃないか? そう思いつき、とりあえず向かってみることに。
 到着してフロアを徘徊。すると、最近の100均は本当にすごいっすね。だって、300円で1時間ほど燃焼し続けるという、使い捨てのバーベキューコンロが普通に売ってるんだもん。これ買えば万事解決。なんですけど、ちょっと今日の気分じゃないかもしれないなぁ。というのも、買い物やら移動やらを考えると、1時間も優雅にバーベキューをしてるほどの時間はないんですよね。何か他にないか? こんなとき頼りになるのが、そう、「固形燃料」。温泉旅館の食事でよく、鍋の下に置いてある、水色のキャンドルみたいなあれですね。3個100円。これで、コンビニで売ってるできあいのアルミ鍋をあっためるというのはどうだろう? 最近急に肌寒くなってきたことだし、うん、それしかない! というわけで、使えそうなものをあれこれ購入し、河原へと向かいましょう。

肌寒さとあったか鍋のハーモニー

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こんなものたちを買ってきてみました

 買ったのは、まず固形燃料とターボライター。それを直接地面に置くわけにはいかないので、ステンレス製のトレイ。それから、発見したときに心のなかで「おあつらえむき!」と叫んでしまった「焼き鳥台」なる商品。この上に鍋を置けば、高さもちょうどよさそうです。スプーンもあったほうがいいだろうと、組み立て式のカトラリーセット。そして忘れてならない、折りたたみ椅子! 椅子だけが150円でしたが、締めて650円+税で、簡易野外鍋ダイニングセットを揃えることができました。
 実はさっきから、小雨が降ったりやんだりしてるんですが、大きな木の下に陣取ることができたので無問題。いや、陣取るっていうか、河原に人なんて僕しかいないんですけどね。

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巨木に抱かれる安心感

 ところが問題発生。なんと、買ってきた「鍋焼きうどん」の底が小さく、台の上に乗りません。そこで、大きめの石を拾ってきてあれやこれやと試行錯誤し、不格好ながらもなんとかセッティング完了。

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苦労のあとが見てとれますね

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いろいろあったけど、野外鍋開始

 固形燃料に火をつけると、ゆっくり、ゆっくりと温まりだす鍋。こりゃあ、ありつけるまでけっこう時間がかかりそうだ。しとしとと雨の降る川面と、その先の美しい「割岩橋」でも眺めつつ、のんびりとハイボールでも飲みながら待ちましょうかね。いえ、ご心配には及びません。こういう謎のしみったれ酒シチュエーションには慣れていて、鍋が温まる間のつなぎとして、カニカマも買ってありますので。

 カニカマもぐもぐ。ハイボールちびちび。意外とこれだけでも楽しいな。なんてことをやってると、いよいよ鍋が食べ頃に。よし、残ってるカニカマも具にしちゃえ! なんて効率的。

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ほわりと温まった鍋焼きうどん

 顔を近づけると漂う上品な出汁の香り。注意深く箸で持ち上げ、すすりこむうどんの驚くべきコシ。各種具材のクオリティーの高さ。最近のコンビニの企業努力は本当にすごいよな。加えてこのシチュエーション。想像の7倍は美味しい鍋焼きうどんですよ。あったまるわ〜。ハイボールすすむわ〜。
 と、すべての具材をたいらげ、おそるおそる鍋のフチを持ってみる。お、熱くない。持てるぞ。というわけで、旨味たっぷりの汁まで一滴残らずつまみにし、充実の野外鍋焼きうどん飲み完了です。

 ひとつだけ惜しむらくは、最後に卵を加えられなかったことだな。コンビニで合わせて温泉玉子のひとつでも買っとけばよかったんだ。さっきは場慣れしてるみたいな生意気なことをぬかしてしまいましたが、やっぱりまだまだですね、僕も。

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そして無事、天国酒場へ

☆パリッコさんの新刊『天国酒場』(柏書房)が、本日9月25日に発売されます。「つつまし酒」読者の皆さんは要チェックだ!!☆

「普段、何気なく過ごしていると見落としてしまう。だけど一歩入り口を入れば、そこには天国のような空間が広がっていて、夢心地に酔うことができる」――すなわち、川のほとりのパラダイス、江戸から続く老舗茶屋、山上の回転喫茶、動物園前の売店食堂、地下街の迷宮店、線路際に佇むおでん屋台などなど、「日常の隣にある非日常空間」を持つ酒のレガシー的名店、それが「天国酒場」だ。
普通の店では体験できない “絶景"をつまみに楽しむ酒の魅力を、気鋭の酒場ライターが語り尽くす、酒&食紀行極楽エッセイ。著者自ら現地に足を運んで撮影した写真を満載、読むだけでほろ酔い気分と夢見心地の旅気分が満喫できる一冊! (Amazonより引用)

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。
この9月には『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)という2冊の新刊が発売。『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。Twitter @paricco


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