【59位】ザ・フーの1曲―夢破れたあともなお、荒れ果てた路上にド派手なアンセムを
「ウォント・ゲット・フールド・アゲイン」ザ・フー(1971年6月/Track/英)
Genre: Hard Rock
Won't Get Fooled Again - The Who (June, 71) Track, UK
(Pete Townshend) Produced by The Who and Glyn Johns
(RS 134 / NME 175) 367 + 326 = 693
最後の絶頂期に突入しつつあったザ・フーが放った、破格の大型ロック・アンセムがこれだ。同年8月にリリースされた5枚目のスタジオ・アルバム『フーズ・ネクスト?』(『教養としてのロック名盤ベスト100』では86位)の最終曲であり、短縮ヴァージョンが先行シングルともなった。全英9位、ビルボードHOT100では15位を記録した。
のっけから人々をぶっ飛ばしたのは、この「音」だ。のちの世のテクノ音楽を思わせる「機械的に、規則的に、ただただ鳴り続ける」オルガンのループ・フレーズが、ここまであからさまにポップ・ソング上で展開された様を、だれも聞いたことがなかったからだ。
これはアープ2500シンセサイザーでシーケンスをコントロールして、ローリー・オルガンを鳴らしたもの。このループに、メンバーそれぞれ、彼ら一流の「ド派手」なハード・ロック各種を次から次へと「衝突」させていく……という全体像のアイデア元は、もちろんピート・タウンゼントだ。いつも以上に、彼はいろいろ考えていた。
当時の彼は、国際スーフィズム運動の指導者ヒダヤット・イナヤット・カーンに傾倒していた。だからシーケンス部分では、カーンの著作『音と音楽の神秘主義(The Mysticism of Sound and Music)』における「普遍和音(Universal Chord)」理論の現実化を狙った。「その音」とは、ひとたび鳴らされたならば「人類は霊的な調和を回復する」という、とてつもない代物だという。これを探し求め、タウンゼントは情報を集めた。いろんな人の心臓の鼓動や脳波、占星術のチャートなどのデータを得て、数値化し、シンセのプログラムに置き直した――のだが、もちろん世の中は変わらなかった。だが逆説的に「世の中、そう簡単に変わらない」と歌うこのナンバーにとっての、無二のトラックとなった。
タイトルは「もう二度と騙されない」という意味だ(邦題の「無法の世界」は、ストーンズの「無情の世界」に引っ掛けただけなので、忘れたほうがいい)。60年代カウンターカルチャーの熱狂の大半は、このころ、あらゆる挫折ののちに色あせていた。革命を口走っていた奴もいたのに、しかしどこが「変わった」のか? いつもきれいごとばかり言う偽預言者めいた奴らには「もう」騙されないぞ――と、ここで歌われている。
だからつまり、この曲は「一度騙されたぐらいで、理想を捨てるかよ」と力強く宣言している、ということを意味する。夢破れたあとの「苦み」の上に立脚しつつも……という打たれ強さ、図太さが、当曲を70年代のザ・フーの、いや「70年代のロック」の王道ナンバーとした。
(次回は58位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)
※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki