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教養としてのロック名曲ベスト100【第16回】85位は…テンション上がりまくりのあの曲だ! by 川崎大助

「リーチ・アウト・アイル・ビー・ゼア」ザ・フォー・トップス(1966年8月/Motown/米)

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Genre: Soul
Reach Out I'll Be There - The Four Tops (Aug. 66) Motown, US
(Holland-Dozier-Holland) Produced by Brian Holland and Lamont Dozier
(RS 209 / NME 274) 292 + 227 = 519 
※86位、85位が同スコア

まさに名曲、これぞ名曲。基礎データを記しているだけで胸が熱くなる(僕は)。あの名門レーベル、モータウンの全盛期だった60年代の、そのなかでも傑出した、突出したグレイト・ソングとして、この曲は愛された。とてつもなく「熱い」支持を得た。

米R&Bチャートはもちろん、ビルボードHOT100でも1位を獲得(それぞれ2週占拠)。特筆すべきは彼ら初の全英トップ20入りとなった、同国での愛されぶり。このシングルが全英1位を3週記録――しただけではなく、グロリア・ゲイナーのディスコ版カヴァーが75年にヒット(14位)、ストック・エイトキン・ウォーターマンのリミックスも88年にヒット(11位)、93年のマイケル・ボルトンによるカヴァーまで、それなりに売れた(37位)。とにかくもうイギリス人はこの曲が大好きで、のちにノーザン・ソウルそのほか、かの地で深く地道に燃え続ける「ブリテンのソウル・ファンの魂」という名の石炭に、最初期にボッと火種をくべた名曲のひとつは、間違いなくこれだ。

魅力の最たる点は、なんと言ってもリード・ヴォーカルのリーヴァイ・スタッブスによる情感たっぷりの「熱い」歌唱にある。まずは「きみ」の身の上に降り掛かる困難について彼は歌う。希望が潰え、幸福が夢幻となって、人生が混乱に満ちあふれ、きみの世界が崩れ落ちようとしたときには――ダーリン、僕に「手を伸ばして(Reach Out)」、僕はそこにいる、きみのために……というのが歌の大筋だ。だから「リーチ・アウト」のあたりで、聴き手はとにもかくにも「揺さぶられ」まくる。エモーションの大波の上で。

作詞作曲を手掛けた黄金ソングライター・チーム「ホランド・ドジャー・ホランド(H-D-H)」の一人、ラモント・ドジャーによると、この詞は「女性が真に男性に求めるもの」を考察するところから思いついたのだという。同年6月には全米女性同盟(National Organization for Women)が結成されていたから、フェミニスト・ソングを作るというのはまさに時流を読んだ慧眼だった。プロデューサーとしてのH-D-Hは、スタッブスにこんな歌唱指導をした。「『ライク・ア・ローリング・ストーン』のボブ・ディランみたいに」歌うんだ、と。詞の内容の「切迫感」を十分に引き出すために。

フォー・トップスにとって4枚目のスタジオ・アルバム『リーチ・アウト』(67年)には、この曲ほか全米トップ20入りソング計6曲を含む12曲が収録されていた。これは彼らが、同年にモータウンを離れてしまうH-D-Hと最後に組んだ1枚ともなった。

(次回は84位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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