『ダイエットをしたら太ります。最新医学データが示す不都合な真実』by永田利彦
光文社新書編集部の三宅です。
今は90キロ強ありますが、25年前は69キロでした。それが80キロになったところでダイエットを行い75キロに。喜んだのも束の間、いつの間には85キロに増量。再びダイエットを敢行して80キロまで戻したものの、残念ながら現在に至ります。
つまり、ダイエット→リバウンドを繰り返し、結果的に25年で20キロ以上も体重を増やしてしまったのでした。
そんな私のような失敗を繰り返さないために、最適の一冊が刊行されました。それが本書です。25年前に欲しかった……。
ダイエットはほぼ確実にリバウンドを招くこと、肥満でない限り、やせるメリットはないこと、実は小太りのほうが健康によいことが、多くのエビデンスとともに語られます。
本書を読み、無理にダイエットする必要はなかったと激しく後悔したのですが、もはや後のカーニバル。現状、BMI29と小太りの域を超えているので、ダイエットではなく生活改善によって、少しずつ体重を減らしていければと考えています(ダイエットと生活改善の違いは、本書をお読みください)。
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はじめに──あなたはダイエットに乗っ取られていませんか?
あなたは、ダイエットしたいと思っていますか?
それは、どうしてですか?
おなかや腰にめっきり脂肪がついて、自分でも「これはまずい」と思ったから。
鏡を見るたびに、頬や顎のたるみが気になるから。
去年は着られた服が、きつくて着られなくなってしまったから。
家族や同僚に、「太った」とか「貫禄がついた」と言われたから。
同窓会に行ったら、誰なのかわかってもらえなかったから……。
愕然として、ダイエットを決意したのかもしれませんね。ダイエットすれば、シュッとしたカッコいい自分になれる。やせていた方が若く見えるし、行動的で仕事だってできそうに見える。だいいち、やせた方が健康にもいいに違いない、と。
あるいは、太ったわけではないけれど、今よりもいい自分を手に入れるために、「やせたい」と思っているのかもしれません。
自分を完璧にコントロールし、あと5キロ体重を落とせれば、自分に自信が持てる。「すごいね!」と、周囲の人たちにも認めてもらえる。スラッとして、見た目もよくなる。ステキな出会いだってあるかもしれない。ダイエットすれば幸せになれる、と。
今、私たちの周囲には、ダイエットのコマーシャルがあふれています。ネットでも、テレビや新聞、雑誌でも、電車の車内広告でも、次々に新しいダイエット法が紹介され、いかに簡単にやせられるか、やせたことで人生がどれだけ輝かしいものに変わるかが、繰り返し語られます。
若い女性には、〝シンデレラ体重〟よりもまだ細いタレントやモデルが、「大丈夫、あなたも私のようになれる」と語りかけます。中高年の男女には、同年代の著名人や一般人がビフォー・アフターのモデルとなって、「諦めないで、あなたにもできる」と訴えかけます。魅力的な姿態で誘惑し、ダイエットへと駆り立てます。
かくして私たちは、老いも若きも、太っている人もやせている人も、ダイエットに邁進するのです。
でも、ほとんどの場合、ダイエットは成功しません。どうしてって、ダイエットには「ダイエットすると太る」という、〝不都合な真実〟があるからです。
過去にダイエットをしたことがある人は、一時的にダイエットに成功しても、やがてリバウンドすることを、経験からご存じでしょう。そして、「リバウンドしたのは意志が弱かったからで、次こそは絶対に成功する!」と決意を新たに、またダイエットにチャレンジします。ところが、やはりうまくいきません。なぜならば、その時体に起こった変化は、ただ体重が増えただけではないからです。ダイエットしたことによって、細胞レベルでの変化、脳レベルでの変化が起こっているのです。
いったい、私たちの体には、ダイエットをすると何が起こるのでしょうか? なぜ、ダイエットは成功しないのでしょうか。そもそも、ダイエットは必要なのでしょうか。ダイエットすると健康になるのでしょうか。本書では、その謎を探っていきます。
そのためにまず、約1900人を10年間追跡した、米国ミネソタ大学の大規模な調査をご紹介します。この調査では、ダイエットしたことによって将来何が起こるのかが、明らかになっています。それはある意味で、とても怖い結果です。
さらに、ダイエットするとなぜ太るのかを、最新の医学データに基づいて解き明かしていきます。リバウンドは偶然ではなく必然であること、ダイエットしたのに太ってしまうというパラドックスが、嘘のような本当であることが、おわかりいただけると思います。
また、ダイエットによって引き起こされるさまざまな影響についても見ていきます。ダイエットの影響はその場限りのものではなく、時には子孫にまで及ぶという、これまでほとんど語られてこなかった、影響の全体像が見えてくるはずです。「健康のためにやせた方がいい」という〝常識〟が、実は真実ではないことについても述べます。
そして最後に、私たちがなぜダイエットにとらわれてしまうのかを考えます。ダイエットは本当に必要なのか。美しさや健康は、やせることで手に入るのか。ダイエットの呪縛から逃れて幸せな人生を手に入れるには、どうすればいいのか? 美の基準の変遷や、人の心の不思議とともに、その方法を探っていきます。
私がこの本を書いたのは、大学人としての研究、そしてさらに広い臨床経験の中で、ダイエットが決して幸せをもたらさないという事実を、あまりにもたくさん見てきたからです。もっといい自分になりたい、自分に自信を持ちたい、輝かしい人生を手に入れたい、と願ってダイエットを始めたのに、結果はまるで違うものになってしまう。空腹に耐えて頑張ったのに、以前より太ってしまった。心身が不調になり、気持ちが沈んでしまった。ダイエットが引き金になって摂食障害を発症してしまった。そんなケースがあまりにも多いのです。
このような事態を防ぐには、ダイエットの真の姿を、コマーシャルでは決して語られない不都合な真実を知ることが、何よりも重要です。ですから、あなたやあなたの大切な人がダイエットをしたいと思っている、あるいは既にダイエットをしているなら、ぜひ本書をお読みいただきたいと思います。ダイエットの不都合な真実を知っていただき、ダイエットが体にいいという思い込みや、ダイエットすれば幸せになれるという呪縛から解放されて、穏やかで心豊かな人生を送っていただきたいと思うのです。
目 次
はじめに──あなたはダイエットに乗っ取られていませんか?
第1章 ダイエットしたら、太ってしまった!
1 ミネアポリスで証明された〝不都合な真実〟
女子学生の4割、男子学生の1〜2割が、何年もダイエットを継続
ダイエットをするとBMIが上昇した
太めの女子がダイエットすると、BMI上昇幅が大きい
2 そもそも「太っている」「やせている」って、どういうこと?
医学における「やせ」と「肥満」の境界線は?
適正なBMIは、年齢によって異なるかもしれない
なぜ、BMIが体格の判定基準になったのか
「ミネソタ飢餓実験」でわかった、飢餓状態の恐ろしさ
3 糖質制限、ダイエットピル、腸内洗浄と、いろいろあるけれど
ダイエットとは、いったい何を意味するのか
消えては現れる種々のダイエット法
長い歴史のある、厄介なダイエット法「腸内洗浄」
糖質制限(低炭水化物)は有効か?
第2章 誰も言わなかった、ダイエットの落とし穴!
1 ダイエットしたのに、なぜ太る?
ダイエットすると太る4つの理由
意志で食欲をコントロールすることはできない
空腹を感じる仕組みと飢餓反応
血糖値による満腹・空腹の仕組み
満腹感をもたらす物質「レプチン」
体中のホルモンが飢餓から私たちを守っている
太りやすい体質になってしまう
代謝を下げずにやせることはできない?!
ダイエットするたびに脂肪細胞の数が増える
2 やせていると寿命が短く、認知症にもなりやすい
やや太めの人の方が、長生きする
適正体重のBMIは、今のままでいいのか?
BMIと死亡率は「逆J」の関係
いったいなぜ、やせている人の方が危険なのか
低体重だと認知症になりやすく、病気以外の死因による死も多い
「カロリー制限すると長生きする」は、本当?
3 ダイエットが、摂食障害の引き金になる
拒食症と過食症は、今の体重が違うだけ
摂食障害は治りにくく、死亡率も高い
ブルジョア階級特有の病から、誰もがかかる病へ
4 ダイエットすると、子どもが肥満体質になる
更年期に起こる体の変化が、若くして起こる
「小さく産んで大きく育てる」は大間違い
第3章 ダイエットがダメなら、どうすればいいのか?
1 本当に「私は太っている」のか
日本は「太っている」女性が世界一多い?!
「太っている」と思わないのにダイエットする、韓国の事情とは
「太っている」から、「太っていないけれど」へ
2 〝美しさ〟の基準が、変わりつつある
いつから「やせていることが美しい」となったのか?
テレビの影響で美の基準が変わった
母性型から砂時計型、そしてチューブ型へ
女性の社会進出とともにチューブ型全盛に
やせ傾向が、わずかに反転する兆しも
やせすぎモデルの規制が始まった
3 健康と美しさを手に入れるために
減らした体重を維持できる人は、ほとんどいない
「ダイエット」と「ライフスタイル変更」はどう違う?
結局、何を食べればいいのか?
ダイエットの呪縛から解放される