【第25回】そもそも「プライバシー」とは何か?
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【第25回】そもそも「プライバシー」とは何か?

■膨大な情報に流されて自己を見失っていませんか?
■デマやフェイクニュースに騙されていませんか?
■自分の頭で論理的・科学的に考えていますか?
★現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。この連載では、哲学者・高橋昌一郎が「教養」を磨くために必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します!

進化する「プライバシー」の概念

何が人間と動物を区別するのか? 実は、その単純な回答が「プライバシー」である。人間は、動物と違って衣類を着用して外出し、訳もなく裸の姿を他者に見せることに「羞恥心」を抱く。この人間だけに内在する「羞恥心」に関わる「品位」を保つために必要なのが「プライバシー」という概念である。

したがって、たとえば一人で風呂に入っているところを第三者に勝手に覗かれたら、その第三者の行為は「プライバシーの侵害」に相当する。現在の日本では、「軽犯罪法第1条23号」の「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」に該当し、もちろん刑罰を処せられる行為となっている。

社会が複雑化するにつれて、「プライバシー」の適用範囲も拡張されてきた。第三者に電話を盗聴されたりメールを無断で見られたりすれば、それが「羞恥心」に直接関わらない場合でも「プライバシーの侵害」に相当する。現在の先進諸国の多くでは、「個人情報」が「人格の一部」と判断され、それらを保護することが「プライバシーの権利」と解釈されているからだ。

本書の著者・宮下紘氏は、一橋大学大学院法学研究科修了。駿河台大学法学部専任講師を経て、現在は中央大学総合政策学部准教授。専門は憲法・情報法。『ビッグデータの支配とプライバシー危機』(集英社新書)や『プライバシー権の復権』(中央大学出版会)などの著書がある。

ちなみに、これまでの本連載では各著者の生年・学歴(大学)を紹介してきたが、宮下氏の生年・学歴(大学)は、ネットを駆使して検索しても開示されていない。さすが「プライバシー」の専門家と感嘆せざるをえない(笑)!

さて、カリフォルニア大学バークレー校教授のウィリアム・プロッサーは、1960年、「プライバシーの侵害」を次の4類型に分類した。(1) 私的な生活状態への侵入、(2) 他人に知られたくない私的な事実の公開、(3) 他人に誤った印象を与える事実の公表、(4) 営利目的による氏名や肖像の盗用。

コロンビア大学教授のアラン・ウェスティンは、1967年、プロッサーの定義を拡張し、「プライバシーの保護」を「自己に関する情報をコントロールする権利」と定義した。さらに2006年、ジョージ・ワシントン大学教授のダニエル・ソロブは、「プライバシーの侵害」を16類型に分類した。本書にはその詳細が解説されているが、この新たな定義でも時代の進歩には追いつけない。

本書で最も驚かされたのは、宮下氏が「プライバシー」を「相対的な概念」であり「時代、場所、そして文化によって異なりうる文脈的概念」と述べている点である。つまり「プライバシー」は、環境に適応して進化するわけだ。

実際にネット普及以降には「個人情報」の意味そのものが大きく変化している。2016年にビッグデータを悪用した会社は、フェイスブック利用者がどの記事に「いいね」を付けたかを平均68個分析すれば、人種(95%)・性別(93%)・性的志向(88%)・支持政党(85%)まで特定できると暴露した。その情報に基づいて選挙活動を行ったために内部告発されたわけだが、今後この種の事件は幾らでも起こりうる。もっと「プライバシー」に敏感にならなければ!


本書のハイライト

現代の最先端技術の多くは、本来ひとりひとり異なる存在を、一定の類型にはめ込んで評価の対象とすることに傾注してきました。AIによる評価、顔認証による類型化、またインターネットの閲覧履歴に基づくおすすめ商品の提示などにみられるように、データは、しばしば個人をデジタル・アイデンティティの囚人へと強制的に追いやります。……プライバシーが人格の自由な発展にとって不可欠であると考えられるのは、このような自我の造形への不当な干渉を排除する必要があるからです(p. 14)。

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著者プロフィール

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高橋昌一郎/たかはししょういちろう 國學院大學教授。専門は論理学・科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『フォン・ノイマンの哲学』『ゲーデルの哲学』『20世紀論争史』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。

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